「宇宙、そして万物の謎を解く方程式はエレガントで美しいものであるはずだ。」
どこまでも美しく描かれる「博士」と「彼女」の物語はその方程式を導き出そうとする。
「博士と彼女のセオリー」を観る。初日のレイトショーで観たのだが、びっくりするほどガラガラで少し寂しかった。TVCMを大々的に打ってないからかな・・・。
天体物理学者ホーキング博士と、その元奥さんであるジェーンを描いた物語だ。ラブストーリーであるが、主人公の2人をそれぞれ自立したキャラクターとして描いている点が特筆すべきところだろう。ホーキング博士演じたエディ・レッドメインだけでなく、ジェーンを演じたフェリシティ・ジョーンズも主演候補としてアカデミー賞に名を連ねたのも納得だ。
ホーキング博士については、その名前と何者なのか、何となく知っている程度の予備知識。なので、彼がどのように青春期を過ごし、いかに天才ぶりを発揮させ、何を成し得たのか、それを知るだけでも新鮮だった。ただし、本作はホーキング博士の伝記ドラマではない。愛し、愛された男女の愛の軌跡、その行く末を描く。
2人の感情の向かうところは丁寧かつリアルに描かれる一方で、ALSという難病に冒された人物の実生活は、あえてリアリティを避けて描かれる。悪くいえば「綺麗ゴト」ばかりなのだが、その複雑さ、恥部といったリアリティーを追っては、本作が目指すべきゴールには辿り着かなかったはずだ。
なので、本作は終始美しい光景に包まれる。2人が若かりし日にダンスを踊った野外舞踏会が印象に残る。不確かだった2人の愛情が確信に変わったシーンで、打ち上げられた花火がそれを歓迎する。その後、2人の人生を映し出すカットは柔らかい陽光に照らされる。カメラは2人を見守るような視点を崩さない。彼らを取り巻く家族、友人から発せられるのは善意と良心だ。闇や悪意が取り除かれ世界で、2人の感情の移ろいが色濃く浮かび上がってくる。
本作でオスカー俳優となったエディ・レッドメイン。自由である肉体を、不自由に扱うことの負荷は相当なものだったろう。そして、声を発することも、表情を変えることもできなくなってからの感情表現は、「なりきり」を通り越し、キャラクターの真と同化する。そして大好きなフェリシティ・ジョーンズ。素晴らしかった~。相変わらず出っ歯がチャーミング。若い女子から成熟した女性まで見事に演じきり、ときに力強く、ときに脆い、複雑な感情の機微を表現してくれた。彼女のおかげで物語をグッと近くに感じることができた。
物語は1960年代~1990年代までの2人を描く。夫はALSで天才。ストレートに人生は進まない。様々な転機を迎えることになるのだが、それを本作はあえて明確に提示しない。この点については想像力の足りない自分にはやや物足りなかった。釈然としないまま進んで「結局どうだったの?」と素直に感情移入できないシーンもあった。
万物には始まりがあり、終わりがある。ただし、宇宙は別。ホーキングが追い求めたものだ。では2人はどうだったのだろうか?その起源を示したラストシーンが、また美しかった。
【65点】
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