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イミテーション・ゲーム 【感想】

2015-03-20 08:00:00 | 映画


第二次世界大戦を2年早く終わらせ、1400万人の命を救ったといわれる男がいた。アラン・チューリングという天才数学者であり、彼は時代に翻弄された悲劇の英雄である。

毎年この時期は、洋画のゴールドラッシュだ。前年北米で公開され、好評を得た映画たちが堰を切ったように日本市場になだれ込む。映画ファンとしては春の陽気とともにテンションが上がる。で、今年の重要タイトルである「イミテーション・ゲーム」を観た。想定外に娯楽性があって、胸に響くドラマだった。期待を上回る傑作。見終わって「これってラブストーリーじゃないか・・・」と余韻に浸る。

第二次世界大戦中、ナチスが攻勢を強めるなか 、解読不可能とされたナチスの通信暗号「エニグマ」の解読に挑む英国チームを描く。そのチームの中心にいるのが、自らを「世界一の数学者」と豪語するアラン・チューリングだ。彼は後からチームに加わった後輩だったが、結果を出さないチームの現状をみて、力業でチームの指揮権を奪う。チームの爪弾き者として衝突するが、周りのメンバーの感情はお構いなし。彼の目の前にあるのは「エニグマ解読」という目標達成だけだ。実際にその達成までのビジョンを描けていたのは彼しかいなかった。そしてエニグマというマシンに対抗する、手製のオリジナルマシンの開発に心血を注いでいく。

戦争の終結に多大な影響を及ぼした「エニグマ解読」。それは知られざる重大な史実だった。本作はその全 容を描くとともに、解読に挑んだチームの人間模様、そしてその渦中にいたチューリングの人物像に深く迫る。

まず、本作を観て感じたのは抜群のわかりやすさだ。数学、暗号解読といったとっつきにくいテーマを扱うにも関わらず、とても内容が明確でわかりやすいのだ。状況説明を代弁する登場人物たちの会話は、比喩やユーモアを交えて端的に発せられるため、観ているこっちの理解浸透が早い。チューリングを軸に3つの時代を交差させながら進むストーリー構成も、一見複雑なのだが違和感なく理解できる。このテの映画にありがちな置いてきぼりを食らうことはなく、物語の波に気持ちよく乗っていける。お見事だ。

当時、アメリカ、旧ソ連など、世界の強国が挑んだエニグマ解読だったが 、「デジタル」なんて言葉すら存在しない時代、その解読パターンは159000000000000000000(0が18個)通りという天文学的なもの。解読は不可能とされた。解読チームのメンバーは、チェス、クロスワードの達人などで構成され、彼らは誰もが解けない問題を自らの頭脳でクリアすることに喜びを得る人種である。その志向の延長で始まった挑戦は彼らにとってはいわば「ゲーム」。しかしエニグマという最強王者に打ちのめされる日々のなかで、その目的は次第に変わっていく。「敵はナチスではなく、時間」という言葉が秀逸だ。映画はその解読への挑戦過程をスリリングかつ、ダイナミックに描く。この筆致が、ワクワクして堪らない。終盤のクライマックスでは登場キャラの心理と完全に同化し、ボルテージが一気 に上がった。物語のリズムを使い分けることで、強い引力を生み出して観る者を離さない。このあたりは演出のなせる業か。本作が英語映画デビューとなるモルテン・ティルダムがオスカー監督賞にいきなり候補入りされたことにも納得だ。

解析チームと軍上層部との衝突や、スパイを巡るサスペンス、解読達成の先にあった非情過ぎる現実など、どれも見ごたえ十分。そして女性の社会進出を当たり前のように阻む性差別や、同性愛を犯罪とする性差別など、多くの人権を虐げていた時代の闇を、強い説得力と共に描き出す。歴史ドラマとしても高い完成度を誇るが、本作はさらにその向こう側へ行く。
それは、チューリングがエニグマ解読に懸けた、もう 1つの理由にある。それは史実とは異なる解釈かもしれないが、素晴らしい脚色だったと思う。チューリングが感情を爆発させるそのシーンに涙があふれた。

チューリング演じるのはカンバーバッチだ。天才かつ個性的なカリスマキャラは「シャーロック」でのホームズと重なる部分もあるが、本作ではチューリングの孤独と悲哀、秘めた情熱を繊細に演じてみせる。そして、チューリングの元婚約者であるクラークを演じたキーラ・ナイトレイがまた素晴らしかった。母性に近い大きな包容力でチューリングを包み込む女性を、しなやかに演じる。チューリングとクラーク、2人の異性愛を越えた絆に最後の最後まで胸を打たれた。ほか、マシュー・グードや、マーク・ストロングなど、ザ・英国俳優たちの キャスティングも映画をグッと引き締めてくれる。あと、現在ドハマリ中である「ダウントンアビー」の駆け落ち男「ブランソン」が、重要キャラとして好演をしていたのが嬉しかった。

「事実は小説より奇なり」というが、本作はその事実にあえて肉付けを施し、歴史ドラマの枠を超えた人間ドラマに昇華させた。チューリングが見ていたもの、その愛は切なく美しい姿をしていた。うん、やっぱ、この映画、ラブストーリーだよな。

【90点】


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2 コメント

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天才数学者  (もののはじめのiina)
2019-11-14 12:09:27
暗号は、ヒトが創った以上、解読も可能ということでしょうが、とてつもない裏付け作業が必要ということでしようね・・・。...( = =) トオイメ目

アラン・チューリングは、ほかにも生物の模様を表す究極の数式を残していたそうです。


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Unknown (らいち)
2019-11-17 12:24:29
>>アラン・チューリングは、ほかにも生物の模様を表す究極の数式を残していたそうです。

このお話を聞いて調べてみました。。。凄いですね。自然の摂理として片付けてしまう現象を、数学の力でシミュレーションするなんて。

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