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ハクソー・リッジ 【感想】

2017-06-30 08:00:00 | 映画


戦場の地獄絵図が脳内にこびりつく。戦場に舞台を移した中盤以降の落差が強烈だ。凄惨な光景に衝撃を受ける。正義も悪も関係なしに人間同士が殺し合う現場は、人格を破壊するには十分といえる。そんな状況下で、1つの信念を貫いた男の生き様が描かれる。「人を傷つけず救う」という信念は崇高だが、その信念を貫いたことで奇跡が生まれたという事実が何よりも尊い。その一方で、戦時下における主人公の信念は紙一重というのも事実で、本作はその視点をちゃんと保っている。美談を描いただけの映画ではないということ。

終戦間際、日米の激戦地であった沖縄戦を舞台に、宗教上の理由で武器を持つことを拒否した、アメリカ軍衛生兵の活躍を描く。実話ベースのドラマ。

「宗教上の理由」というのは大枠の言い方だ。主人公が崇拝するキリスト教では「人を殺してはダメ」ということになっているが、戦争という特異な状況ではイレギュラーケースとして受け止めることもできそうだし、武器を持つだけ持っておいて、戦場で人を殺さない選択もできそうだ。宗教の問題ではなく、主人公のパーソナルな信念に基づいていると考えられる。

主人公は本番の戦場だけでなく、訓練の段階から断固として武器を持つことを拒否する。それは、彼が育ってきた家庭環境に由来しており、本作では主人公の人物形成の過程を丹念に描いている。武器を持たないことは上官の命令に背くことになり、連帯責任を嫌がる周りの兵士からは容赦ない暴行を受け、最終的に軍法会議までかけられる。宗教上の問題から許されるはずの「良心的兵役拒否」もなかなか認められない現実が主人公を苦しめる。しかし、主人公は決して信念を曲げることはない。

わからず屋の上官と、清廉潔白で正しい主人公という構図が見えてくるが、中盤以降の惨劇を前に、その見立てがあっという間に叩き潰される。いきなり始まる激しい銃撃戦によって肉体から血がはじけ飛び、殺しにかかる相手を一掃するために爆弾が放り込まれ肉片が飛び散り、火炎放射器によって生身の人間が火だるまになる。足元に目を移せば、ちぎれた肉体にウジとネズミが群がっている。この世の地獄だ。メル・ギブソンらしい容赦ない残酷描写と感じながらも、戦場のリアルを思い知らされる。衝撃度は想像以上であり、PG12でよく収まったなーと思うほど。そこに綺麗な信念を掲げる余地はない。

サム・ワーシントン演じる上官が、武器を拒否する主人公に説いた「戦えない奴は、周りの兵士を危険に晒す」という言葉が説得力を持つ。殺し合いの戦場にルールはない。衛生兵は真っ先に敵の標的になる。武器がなければ自身を守ることができないし、周りの助けを借りることは大きなリスクを伴わせる。本作でも、主人公が敵兵の襲撃に合った際に、命からがら味方の兵士によって救われるシーンが差し込まれる。「さすがにまずいでしょ。。」と絶句し、主人公の信念が、次第に危険に思えてくる。

本作の状況下で、人を助けるという信念は理解できるものの、武器を持たないという信念は理解できなかった。武器を持たずに生き延びることができたのはラッキーであり、彼が多くの人命を救った行いも、その幸運がなければ果たせなかっただろう。本作で示されるのは、主人公の信念が正しいかどうかではなく、信念を持ち続けた結果、奇跡が起こったという事実なのだ。信念がもたらす可能性はあまりにも大きく、信念を行動に移し続けた主人公の勇気に強く感動した。

脚色と思われる映画的な味付けも多いが、娯楽映画としての要素も多分に残しているため、2時間半近い長尺も引力が持続した。主人公の戦場での活躍がパワフルかつ、ドラマチックに描かれる。ラストの主人公の「再戦」含め少々ヒロイズムに寄りすぎてしまった印象もあるが、彼が成し遂げたことは称えられるべきことなので当然といえる。日本軍側の描写も忠実に描かれており、自身の死を持って敵を玉砕する精神はアメリカ兵にとって相当な恐怖になったに違いない。主人公デズモンド演じたアンドリュー・ガーフィールドの熱演も素晴らしかった。

【75点】
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