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ウ・ヨンウ弁護士は天才肌【感想】

2022-09-22 23:25:56 | 海外ドラマ


最終話が終わって1ヵ月以上が経った。リピート鑑賞の2周目も終わり、感想を残す。

海外ドラマ史で語り継がれるであろう、あまりにも完璧な幕切れ。
もう見られなくなるという「喪失」よりも、素晴らしいドラマを見させてもらったという「感謝」がこみ上げる。圧倒的多幸感。主人公の満開のダイヤモンドスマイルで終幕。
ウ・ヨンウ、あの笑顔を見るだけで、私は当分生きていけるよ。

「好き」は勿論なのだけど、ドラマ作品としてどれだけ優れているか語りつくせない。

どうして韓国ドラマは面白いのか、ということを考えた。日本のドラマとの決定的な違いは、ストーリーを語るためにキャラクターがセリフをしゃべっている日本に対して、韓国ドラマは、キャラクターの生き様を描き込んだ結果、ストーリーが後からくっついてくる感じ。アプローチが全く違うように思えた。一方、欧米の傑作ドラマは、どちらのパターンもありだが、そのどちらか一方でも完成度が高かったりする。(余談だが、最近見た欧米ドラマで脚本(ストーリー)の完成度で突っ切って印象的だったのは「セクセッションS3」)

本作で描き込まれるキャラクターは、主人公のウ・ヨンウである。本作の内容を一言で表現するなら、彼女の成長ドラマだ。彼女は自閉症という障害を持つが、一方でギフテッドな高い知能を持つ。「障害を持っているけど凄い有能なキャラクター」ということで、難事件を次々と解決していく、そんな活躍劇として描くこともできただろう。だけど、本作はそれを選択しなかった。

障害や高い知能は、あくまで主人公の個性として捉えるまで。それらを持たない一般人と変わらぬ存在として描く。初めて社会に飛び立ち、弁護士という責任ある仕事につく。そこでいくつもの壁にぶち当たり、苦悩し、葛藤する。障害自体よりも、彼女の人間としての未熟さがベースに据えられている。だから強く共感する。そして、それを乗り越えた先に彼女の成長があり、自身のなかに新たな”感情リスト”を追加していく。

主人公を通して描かれるのは、自閉症という障害に対する正しい理解、それがどのような歴史を辿り、現在の社会ではどのように受け止められるいるかだ。自閉症といっても様々な症状やレベルがあって一括りにすることはできない。ウ・ヨンウは軽度の自閉症だが(なので就業することができる)、3話で出てくる被疑者は重度な自閉症で他人とコミュニケーションを取ることが困難。「同じ自閉症だから、気持ちがわかるよね?」と悪気なく話してしまう浅はかさは自分自身にも言えたことだ。

ウ・ヨンウは自身が自閉症であることを客観的に分析できている。”自閉症の人は純粋というよりも、他者と自分がいる世界ではなく自分だけの世界に慣れているので、他者は自分と考えが異なること、嘘をつく可能性もあることを頭でわかっていてもすぐ忘れてしまいます”とその生きづらさを吐露する。彼女は健常者と同じ社会のなかで生きてきて、その個性ゆえに、学生時代では多くのいじめや嘲笑の的にされてきた。では、彼女は完全な弱者かというとそうではなくて、高IQによって学校では常に成績トップ。いじめる相手には「嫉妬」の感情があったことも無視されない。

また、その辛い過去を彼女の哀しい黒歴史として描くだけではない。その頃に彼女の味方になってくれたグラミやスヨン(”春の日差し”泣)とのかけがえのない友情の起点になったことにフォーカスする。本作の脚本のスタンスとして貫かれているのは、深刻な問題を悲壮感でまとめるでなく、上を見上げて希望へと好転させる筆致である。そのバランス感覚が非常に優れていて、しっかり思考させながらも、心地よいエンタメ作として味付けされている。自閉症のウ・ヨンウに対して寛容な人が多い印象なのも、「現実的ではない」じゃなく、あえて意図的に設計している。

全16話。基本一話完結型。ほぼ全ての回が神回といって良いだろう。言い換えると、惰性の回がない。なのでリピート鑑賞しても毎回面白い。ちょっとユニークだけど身近にもありそうな弁護依頼を引き受けるところから話が進む。その難事件を試行錯誤して解決していく法廷ドラマとしてもかなり面白いのだけど(このポイントだけでもかなり語れる)、エピソードごとに明確なテーマが設定されているのがポイント。現代の社会問題や、人間の普遍的な感情や業を事件を通して描き出していく。

なかでも10話以降の後半パートがとりわけ素晴らしい。第10話の「手をつなぐのはまた今度」(タイトルセンスも毎回巧い)では、知的障がいのある女性に性的暴行を働いたとする男子を弁護する展開から、”障害者にも悪い男を好きになる自由(権利)”を描く。その発想は目からウロコであり、そこに拭いきれない偏見があったことに気づかされる。第11話の「お塩君、胡椒ちゃん、しょうゆ弁護士」では高額な宝くじの賞金をめぐる問題から、人為ではコントロールすることのできない運命の気まぐれさを描く(なかなかあんな結末は描けない)。第12話の「ヨウスコウカワイルカ」では不当解雇の訴訟問題から、韓国に息づく家父長制、正義や弁護士のあり方を見つめる。第13話と第14話の「済州島の青い夜」では、理不尽な事件と思わた背景に環境問題が横たわっていた。この回は裁判の勝敗だけではなく、関わった人全員が幸せになる結末が見事だった。

そしてそれぞれのテーマにドライブして、ウ・ヨンウは成長を遂げていく。第5話の「ドタバタVS腹黒策士」ではATMメーカー2社の間で起こった技術権利を巡る問題を通して、ウ・ヨンウは大きな挫折を味わうことになる。依頼人の勝利で終わらせることができたが、それは正義ではないとわかっていながら「自分を騙した」と後悔する。本作において弁護士という立場はあくまで「人助け」であるが、一方で、社会正義を実現するか依頼人の利益を守るかという弁護士の性(サガ)、選択の難しさも抑えられている。そのどちらをとるか、おそらく正解はないが、ウ・ヨンウは「正しい」弁護を懸命に模索する。ウ・ヨンウの良きメンターである上司のミョンソクは初回と最終回で「君は普通の弁護士じゃない」と発するが、それは彼女が自閉症の弁護士であることではなく、己の良心を信じ正義を貫こうとする彼女への愛が籠っている。

これも彼女の大きな成長過程といえるのだが、彼女が初めて知る「恋愛」感情も本作の大きな見どころだ。その相手はイケメンで人気者、なのに性格もめちゃくちゃナイスガイという反則キャラのジュノ。こういったキャラをドストレートに描けるのも韓国ドラマの1つの強みといえる。回転扉を通過できないウ・ヨンウに対して「ワルツを一緒に踊りましょうか」とか、なんて素敵なセリフ(笑)。その後、互いの魅力に触れ、距離を縮めていく。ジュノがウ・ヨンウに惹かれていく経緯も必然的でナチュラルに描かれる。”好きです。好きすぎて、これじゃまるで病気です”とか、人を恋することの衝動を発したジュノのセリフが堪らない。

障害者と健常者の関係(あえてここでは区別)である2人のラブラインは、時にドラマチックであり時に切なくもある。第10話で原告側の知的障がいのある女性の、容疑者を助けたいという願いは叶わず、”障害があると好きというだけではダメみたいです”と社会の偏見の根深さを突きつけた顛末。けれど、そんな社会の残酷さをも突破するほど二人の想いは強く、そこにこのドラマとしても大きな希望を宿しているようにも思えた。どこまでもピュアな2人のキスシーンの美しさたるや。神がかり的な照明による演出に唸らされる。2人の黒いシルエットを遠景で捉え、夜景のバックはまるで彼女が空想する海中のようだ。

一方で、2人の恋愛を美談では終わらせない。自閉症によるコミュニケーションの弊害は理想論では片付けられず、そのリアルと覚悟を2人のキャラクターを通して丁寧に描いている。これまで比較的、ウ・ヨンウに対して寛容だった周りの反応から一変、恋人になったジュノの姉夫婦との会食シーンではしっかりリアルな反応が描かれている。”面倒を見る人ではなく、あなたを幸せにできる人か”と。一見、偏見にも聞こえる言葉だが、至極当然の反応であり「そんなことはない」は嘘である。2人の間にある障害物をしっかり認めたうえで、それでも愛し合う価値があると”猫の片思い”から”猫の両想い”へと流れた展開に強く感動した。あの車内からの飛び出したシーン、最終話で初めて使われる音楽の旋律が素晴らしく、スローモーションで捉えた2人の見つめ合いがこれまた美しいこと。

これまで私が見てきた”伝説”と称えるべき傑作ドラマの条件は、最終回が最高傑作であるということ。このドラマも鮮やかにその条件をクリアする。最終話のハイライトはやはり、この言葉だろう。

”私の人生はおかしくて風変わりだけど価値があって美しいです”

自閉症という障害をもった主人公を通して、製作陣がこのドラマで一番伝えたかったメッセージと思う。主人公ウ・ヨンウの成長と、彼女に関わった周りのキャラクターたちの幸福な発展を見届け、感無量だった。

私はパク・ウンビンという女優さんの虜になった。ウ・ヨンウは、ピュアでユーモラスで優しく勇敢で美しい。そんなドラマ史に残る愛されるべきアイコンを体現したパク・ウンビンに心から賛辞を送る。また、彼女のキャスティングのために制作を1年遅らせたという製作陣の大英断に感謝する。「彼女以外の選択肢はなかった」という勝算はどこにあったのか、製作陣側の分析がとても気になるところだ。自閉症の人を演じるという点で、仕草や表情の特徴を似せるというテクニックが必要とされるが、リピートで見てみると表情筋の細かい揺れ、目の高速瞬きなど、実際の症状をもった当人でないと再現できないような筋肉の動きをしている。なので、メイキングでオフ状態になっているパク・ウンビンとは衣装や髪型が一緒なのだけど別人に見えてしまう。また、自閉症という動きの制限があるなかでの表現力は、まさに圧巻。セリフを全く発さずとも、ウ・ヨンウの心境の変化を繊細に体現し、視聴者には手に取るように理解させてくれる。その裏にはパク・ウンビンのウ・ヨンウに対する深い洞察と理解が潜んでいる。彼女の大変な努力の賜物であることは想像に難くない。

また、彼女を知れば知るほど好きになる。おそらくYouTubeで彼女のインタビュー動画を日本で一番見ているのは私だ。一日の癒し。。。彼女の透明で清冽なる美貌と、心地よい声と話し方。インタビューでの受け答えは、誠実でスマート(語彙力高し)。そして、演じるキャラクターへの深い愛がみてとれる。そんな真面目な印象の一方で、メイキングや他キャストとのオフの絡みでは、天真爛漫で、良い意味でサバサバして男らしい性格がとても魅力的(カンテオには塩対応、完全に弟扱いw)。ネアカに生きることをモットーにしているようで、何かあれば「アハハ!」と笑っているご様子。メイキングのカメラを見つけるなり、真剣な表情から一変、笑顔で手を振る。他のキャストがわかっていて手を振らないと「あなたも手を振りなさいよ」と笑いながら促す。自然と彼女の周りの現場は明るくなる。子役時代から芸能界を知っている人であり、現場のムードメーカーになることを意識しているのかもしれない。

一流の役者でありスターであるパク・ウンビン様。。。羨望に近い愛は増すばかりだ。そんな彼女が11月に日本にやってくるというビッグニュースが今日舞い込んだ。私のようなニワカは他の方に席を譲ったほうが良いかもしれない。女子が殺到して浮きそうだし。配信があれば絶対にチケットを買う。

ドラマの話に戻る。この作品を称えるのに無視できないのは、キャストへの演出を施した監督と、黄金の本を書いた脚本家の存在だろう。演出は単に脚本を実態化させる作業ではなく、脚本で書かれたキャラクターに命を吹き込む作業である。複雑な心理描写も、Yes、Noの2択ではなく、その間の選択肢を追加する。このあたりは欧米の映像作品にも共通するところだが、日本のTVドラマをたまたま見るにつけ、もうずっと同じ脚本をなぞるだけの演出をやっている。そして脚本である。本作の脚本家は傑作映画「無垢なる証明」を手がけた人。同作でも扱った自閉症というテーマ。障害への理解というアドバンテージがあっただろうが、自閉症をもったキャラクターを主人公に据え、そこから見た世界を描くという難しいアプローチに見事に成功。また、個人的に唸ったのは、ウ・ヨンウと心のなかで繋がる海洋生物たちの習性や実態を各回のテーマに絡ませているということ。第6話の「私がクジラだったら…」で描いたのは母性。捕鯨での残酷な「子殺し」漁をとりあげ、クジラの強い母性からウ・ヨンウの母への想いを描いていた。

あ、、もういい加減、感想が長いな。。。他にも、スキップしたくないオープニングや、いつもの韓ドラの回想静止画ではなく1枚のイラストで締めるエンディングとか(本当に毎回素敵)、初回と最終回が繋がるオープンエンドが秀逸だとか、カンテオがカッコいいとか、脇を固めるキャスト陣が素晴らしいとか、端役のキャストの人までガチで芝居が巧いとか、語りたいことはたくさんある。

続編についてだ。この一大ブームを受け、2023年の放送目標で続編製作が決まったとか決まらないとか。本作のファンの間ではその報道に賛否が分かれている模様。否定の理由は、完璧に綺麗に終わったので、後付けの続編の失敗で、この美しい記憶を汚さないほしいというもの。わかる、非常にわかる。もともと続編は想定せずに作成したパターンで、人気が出たため、無理くり続編を製作し、大失敗した例は過去にたくさんある。通常の作品であれば私も全くの同意見。。。だが、本作はあまりにも自身のなかで特別な存在になってしまった。どう失敗しようがどう転ぼうが、ウ・ヨンウに再会できることの喜びが上回る。なので、2023年までは死ねない。

最後に「こんなウ・ヨンウが好きだ」で締める。
自己紹介時「キツツキ、トマト、スイス・・」の口上を高速で繰り出すウヨンウ、オープニングでアイマスクをポンとするウヨンウ、会話中「ア」「エ」と低音で反応するウヨンウ、「ヨボセヨ(もしもし)」と丁寧めに電話に応答するウヨンウ、クジラの話をしたくてしょうがないウヨンウ、指揮者のタクトを振るように弁論するウヨンウ、キンパを作っている父にキンパのお土産をするウヨンウ、一言が多くなっちゃうウヨンウ、左右対称に整頓しないと気が済まないウヨンウ、グラミの濃厚なハグに悶えるウヨンウ、1666.66666(ニョンニョンニョン・・・)と発するウヨンウ、水族館のイルカに反対するガチ勢のウヨンウ、ジュノにモテたい一心で絶対に道路側を取らせないウヨンウ、遠慮なくジュノをガン見するウヨンウ、グラミとの挨拶をスカされたミョンソクに、こっそりポーズをとってあげるウヨンウ。

以上、最高でした。

【100点】
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