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ファーゴ シーズン2 【感想】

2016-04-09 10:00:00 | 海外ドラマ


先月末まで「スターチャンネル」で録りためていた海外ドラマ、「ファーゴ」のシーズン2を観終わったので感想を残す。

一言「傑作」。
全10話、すべてのエピソードが面白くてゾクゾクした。テレビドラマの枠でここまでのクオリティの映像作品を作れてしまうアメリカのエンタメ界に改めて敬意と憧れを抱く。

冴えない保険営業マンが、無敵のヒットマンに出会い人生を狂わせていく様を追ったシーズン1。そのシーズン1で彼らを追い詰めた女性警察官モリーが、まだ6歳の女の子だった27年前の話がシーズン2で描かれる(モリーが可愛い!)。シーズン1で警官を引退し、ダイナーで働いていたモリーのお父さん「ルー」が警察官として現役バリバリだった頃の話で、シーズン1でルーがヒットマンのマルヴォと対峙したときに昔話として語った「スーフォールズの虐殺」の全容が明らかにされる。

あらすじをざっくりまとめると、平凡で平穏に暮らしていた肉屋と美容師の若夫婦が、南北のギャングの抗争に巻き込まれていくという話で、その事件の解決に向けて若き日のル―が奮闘する。



シーズン1に続き、映画版から引き継ぐ世界観は「身の程知らずな人たちの転落劇」といったところか。取り返しのつかない失敗したのに「自分なら何とかなる!」という過信が大変な事態を招くというもの。悪あがきをする人間たちの様子は滑稽に映るものの、因果応報の言葉通り、次第に残酷で恐ろしい展開に陥ることになる。笑いとスリルの波状攻撃が本シーズンでも炸裂する。

「兵士は撃たれたり、地雷で吹っ飛んだ瞬間、「ある顔」になる。痛みが襲ってくる前だからそいつは起きようとする。『もう自分は死ぬ』ってことが理解できていないんだ。そして俺たちは嘘をつく「もう大丈夫だ」と。君たちはその言葉を聞いて安堵している顔に見える。もし何かしでかしたとして打ち明けるなら今だ。これを逃したら死ぬことになる。」

シーズン1と比べて、登場キャラが増え、語られるテーマも複雑化している。時代は1979年で、ベトナム戦争が終結して間もないが、皮肉にも戦争によって保たれていた道徳感や倫理観が失われつつあるという解釈のもと物語が作られている。これはまさに映画「ノーカントリー」と同じプロットで、古き良き時代のアメリカが、血と暴力によって支配される国に変貌してしまったことを嘆くようだ。

物語の発端は、北部ギャングの一大勢力、ゲアハルト一家の出来損ない三男の失態である。その男が予期せぬ殺人事件を起こしてしまうが、その殺人現場に車でたまたま通りがかった美容師の「ペギー」が、その事件にさらなる事件をかぶせてしまう。一見、平凡な女子に見えるペギーであるが、自己啓発に異常なまでに熱を上げるなど、少々人格面に欠落している部分があり、起きた事件は偶発だが、その事件を肥大化させたのは彼女がとった行動による。一連の事件に完全に巻き込まれたのが、ペギーの夫であり肉屋で働く真面目な男「エド」だ。ペギーがしでかしたことの後処理をする格好となり、お肉の処理は肉屋ならでは。確信犯的(笑)。

その事件と同じタイミングで、ゲアハルト一家は、南部で勢いを増すカンザス・シティーのギャングから家業の買収話を持ちかけられる。それはゲアハルト一家にとって圧倒的に不利な条件であり、「帝国を明け渡すか、死か」の2択を突きつけられた格好だ。ゲアハルト一家のボス「オットー」は脳卒中によって思考機能が停止したため、その妻である「フロイド」がゲアハルト一家の舵をとることに。悪行の英才教育を受けてきた長男の「ドッド」、次男で理性的で息子想いの「ベア」、ドッドの娘でドッドを心底憎むアバズレ女子の「シモーヌ」、ベアの息子で右手に障害を持つ「チャーリー」、ゲアハルト一家の忠実なヒットマンで無敵のインディアン「ハンジー」など、個性的なキャラクターたちそれぞれが展開のきっかけを生む動力になる。

彼らを脅かすカンザス・シティー(南部)のギャング側にもストーリーがある。ゲアハルト一家とは対極的で古いファミリー経営から脱却している組織だ。彼らは効率的なビジネス経営を目指している。その中でゲアハルト一家との交渉に当たるのが「マイク」という黒人ギャングだ。彼は相当なキレ者で、アフリカ系ながら己の才覚1つで組織の中で頭角を表している。組織の信頼を勝ち得て重要な交渉役へ登用されたマイクだが、そこはヤクザな世界の掟であって、失敗すれば「葬儀屋」が待ち受ける。マイクにとっても「成功か、死か」の2択。マイクの手下である無口のヒットマン「キッチン兄弟」のキャラも面白い。



狭い田舎町での事件だ。その町の住人であり州警察のル―は、エド夫妻とはご近所付き合いで親しい間柄だ。ル―の妻であり、モリーの母親である「ベッツィ」は癌を患っており、シーズン1でモリーのお母さんが早くに亡くなった背景が描かれる。シーズン1のモリーは実に魅力的な女性だったが、本シーズンを見ると、彼女の個性はお父さんの正義感とお母さんの洞察力を受け継いでいたことがよくわかる。ギャングという反社会的勢力が警察組織を牛耳っていた時代でもあり、凶悪なゲアハルト一家の圧力に皆が怖気づくなか、ル―はまったく動じず「ダンスする相手が違うぜ(相手は俺だ)。俺はお前らを恐れない。」と放つル―のカッコよさにシビれる。演じるパトリック・ウィルソンがハマり役で素晴らしい好演だ。



そう。シーズン1に引き続き、キャストたちのパフォーマンスも大充実。「前向きペギー♪」(笑)を演じたキルスティン・ダンストは程よく常軌を逸した狂人っぷりが最高に可笑しい。ブレイキング・バッドで冷徹な青年キャラを演じたジェシー・プレモンスは白豚のように脂肪を蓄え、ペギーへの愛ゆえに人生を翻弄されていく平凡男子を演じる。「バーンノーティス」のジェフリー・ドノヴァンは、本作では打って変わって粗野で凶暴で残虐性のある一家の長男ドッドを熱演する。そのほか、狡猾で野心的なマイク演じたボキーム・ウッドバインや、ゲアハルト一家のゴッドマザーとして威厳を放つジーン・スマートの存在感も際立つ。

シーズン1以上に、見方によって主人公が変わるドラマでもある。だから本作は面白い。事件に巻き込まれたエド夫妻や、事件を追うル―を主人公として見ることは勿論だが、瀬戸際に立たされるゲアハルト一家を主人公として見ることもできるし、彼らを駆逐し、南部のギャング組織で出世を目論むマイクを主人公として見ることもできる。そして後半からは、ゲアハルト一家の手下に過ぎなかったハンジーの存在感が効いてくる。当時の社会におけるインディアンという彼の位置づけや、彼がなぜ凄腕のヒットマンになり得たのかという背景も説得力がある。



シーズン1と比べて、描く設定が多いせいか説明不足により引っかかるポイントは多い。未確認飛行物体のクダリは、当時の話題を盛り込んだ結果なのだろうが、未確認飛行物体を物語に絡めた理由は最後までよくわからなかった。また、事件に終止符を打ったハンジーの動機は何となくわかったのだが、とても重要な部分なので明確な事実としてもう少し手ごたえが欲しかった。最終話は逆に語りが多すぎてやや冗長に。

シーズン1を超えるドラマではないが、シーズン1と比較しても全く引けをとらない面白さといえる。特に本シーズンは1970年代末期の時代性をふんだんに取り入れ、ドラマの世界観に相乗されているのが非常に巧い。

抜群の脚本に抜群の演出。
シーズン1に引き続き、本作を指揮したノア・ホーリーはタダものではない。本作の新シーズンとなるシーズン3の製作も決定しているようで、リリースは2017年とのこと。今度は誰がキャスティングされるのだろう。ワクワク。しばらくの辛抱だ。

【90点】

ファーゴ シーズン3 【感想】

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4 コメント

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Unknown (あや)
2017-08-17 17:40:43
ファーゴの感想でたどり着きました。
シーズン1のルーおじいさんの渋さにハマり、2の若きルーのハンサムさに完全ノックアウトです。

最近海外ドラマを見だした者です。Netflix派。
他のドラマの感想も読ませて頂きました。
好きなドラマや映画の好みが合いそうで参考になります。今後見るリストが整理できました。ありがとうございます。
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Unknown (らいち)
2017-08-17 22:52:59
あやさん
コメントありがとうございます!そして恐縮です。
所詮、素人が書いた駄文でございますので、
適当なことを書いていても多めに見てもらえると幸いです。
さて、ドラマ「ファーゴ」についてですが、
次のシーズン3は、アメリカでは放送済みで
日本でのリリースはまだ決まってないみたいですね。
気になる主人公はユアン・マクレガーで1人2役を演じているみたいです。
あらすじ等、事前情報を入れていないので
内容はよくわかりませんが、海外のレビューは上々です。
早く日本でのリリースが決まってほしいです。

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仲間探し (ニャマス)
2018-02-18 20:56:23
素晴らしい評論。脱帽です。
自分の周りには作品すら知らない人が多く、しっかり見ている方が居ると言うだけで、嬉しくなりました。
シーズン3が楽しみですね^_^
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Unknown (らいち)
2018-02-20 00:32:51
ニャマスさん
コメントありがとうございます!
評論なんて恐れ多いです。素人が好き勝手書いた駄文でございますので。。。
シーズン3は昨年末に見ました。感想文をアップしていますが、個人的にはかなりパワーダウンしたシーズンで残念でした。
是非、シーズン4を製作してもらって、シーズン1と2の感動を取り戻してほしいです。
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