から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

エイス・グレード 【感想】

2019-09-29 07:00:00 | 映画


愛しくてハグしたくなる1本。SNSというアイテムに振り回される現代っ子の悲喜劇がベースにあり、「SNSはもう古い」なんて言われる時代になって見返すと、どんな風に見えるのだろう。ただ、この映画で描かれるのは、理想の自分を追い求める少女の話であり、時代が移り変わっても大いに共感できると思う。自分の思うがままに生きている人なんてほんの一握りだ。「ようこそ新しい今日へ」、一歩前に踏み出す勇気を与えてくれる。

自分の10代を思い返すと恥ずかしいことばかりだ。本作の主人公ケイラほど不器用ではなかったと思うが、「あの時、イタかったな」と本作を見て思い返す。中学生時代、学校という小さな社会で自分を客観視することができず、根拠のない自信が自分を突き動かしていた。

現代の子どもたちはSNSというアイテムを持つことで、嫌がおうにも”身の程”を知る。たくさんの人とつながり、たくさんの人から「いいね」をもらう。外交的で共感を得ることが望まれるオンライン社会は、彼らに生きがいをもたらすのか、それとも生きづらさをもたらすのか。

ケイラは動画投稿サイトで、生き方指南(?)の動画を公開している。ただし、閲覧はほとんどされない。彼女の同級生は、その動画の存在をおそらく知っているだろう。だけど、ケイラに興味がないから閲覧しない。動画は「なりたい」自分への鼓舞であり、現実の彼女は孤独で無口で友達がいない。

タイトルの「8年生」は日本でいう中学二年生にあたるらしい。小学生気分がすっかり抜けたところで、心も体も大きく成長を遂げる時期だ。男子はガキで、女子は大人。油性インクの匂いを嗅ぎ、まぶたを裏返し、「エロ」にとことん敏感になる男子。一方、女子たちはスマホの世界で憧れの人を追い、自身の容姿をSNSで発信し、承認を求め、連帯感に浸る。ケイラはそんな女子たちの流れに乗ることができず疎外感に苛まれる。

ケイラ演じるエルシー・フィッシャーの、「ザ・等身大」のキャスティング、好演が光る。不細工ではない、むしろ美人の部類。だけど、顔はニキビだらけ、水着を着れば、背中のお肉が食い込み、下っ腹がぽっこり目立つ。容姿の劣等感に押しつぶされそうに、前かがみになって歩く彼女の後ろ姿のアップに、監督の愛情が透ける。そして、気づけばこっちもケイラをずっと応援している。

彼女を想いやる父親の存在が本作の鍵を握る。自分の場合、ケイラよりも父親の視点で本作を見ていた。可愛くて愛情たっぷりに育ててきた一人娘の思春期、あるいは反抗期。スマホに取って代わられる娘との時間に、苛立つより寂しさを覚える。ケイラの孤独は、父親も感づいているところ。心配で仕方がないのは当然の親心だ。いくらウザがられても、可愛い娘だから。

なりたい自分に夢見ていた過去の自分と、なれなかった現在の自分。失望し、折り合いにつける焚火のシーンが胸をゆさぶる。彼女の劣等感に、父親が返す言葉に泣かされる。特別なことは何もない。ケイラへの変わらぬ愛と、信頼を示した言葉だったが、彼女を大きく勇気づける。もたらしたのは、ほんのちょっとの変化。だけど、それでいい。オタクな男友達との友情もめちゃくちゃいいじゃない。

観終わって真っ先に思ったのは、コメディアンである男の監督がどうしてこんな物語を生み出したのかという疑問。監督の子ども時代の経験を予想したけど、意外なものだった。コメディアンとして仕事するにあたり、紙の上で「自己表現」することに救われた経験が元になっているらしい。受け手がいなくても発信することって、本人にとってかなり重要なこと。それでケイラというキャラをゼロから造形したらしい。優れた脚本家であることがわかった。

【75点】
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アド・アストラ 【感想】 | トップ | ホテル・ムンバイ 【感想】 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ぐねぐね女子もの (onscreen)
2019-09-29 17:30:51
SNSもいいですが、私は

2年前に埋めたTime Capsule を掘り起こす
イベントに参加し、中身をみて湧き上がる感情

な部分がツボでした!



返信する
Unknown (らいち)
2019-10-03 22:50:17
タイムカプセルのくだりも、グッときましたね。ブラピでしたっけ?写真が入っていたの。あんなローティーンにも、モテていたのがうれしかったです。
返信する

コメントを投稿

映画」カテゴリの最新記事