この世の地獄。一切の慈悲を与えない殺戮の光景に言葉を失う。戦時中ではない、たった10年ほど前に起きた事件だ。戦慄の臨場感に震え、テロリストの犯行に怒りが増幅する。「あの人は最後まで生き残りそう」なんて予定調和とは無縁、無差別かつ一瞬で命を奪っていくテロの真実を突きつける。
2008年、インドのムンバイで起きた同時多発テロ事件。処刑場と化したタージマハル・ホテルでの宿泊客、ホテル従業員たちの悲劇を描く。
テロが起きた背景には触れられず、テロの発生から終結までの長い長い道のりを追っていく。人間を救うはずの信仰を、他宗教の排斥思想と履き違えるテロリストたち。実行犯の多くは少年であり、半ば洗脳に近い形で指導者の命令に従っていく。目の前にいる人間を、憎むべき、殺すべき人間として疑わない。クールに淡々と銃撃による虐殺が行われ、その過程に障害があれば、鬼の形相になって取り払おうとする。ホテルという隠れ場所が点在する空間で、いかに一人残らず見つけ、殺すことができるか。途中、卑劣な罠を仕掛ける様子に怒りを抑えきれない。
襲われる宿泊客と、ホテルの従業員たち。実行犯は6人程度だが、銃が持つ圧倒的な武力差により、彼らが抵抗する状況は全く生まれない。「特殊部隊が到着するまで10時間以上かかります!」という甘すぎる当時のインドの危機管理にも驚かされるが、一般市民をターゲットにした武力テロの現実がそのまま描かれているようだ。声高にヒロイズムを掲げることなく、唯一の盾は、ホテルの従業員たちの宿泊客を守るというプライドだ。ホテルマンたちの勇気と犠牲に想いを馳せる。
映画なので、話の展開に多少の美化や脚色は行われているように思えるが、融和と団結の尊さがしっかり抑えられている。インド人の主人公が恐怖する白人おばさんに、自身のルーツ、信仰について丁寧に説明するシーンが印象的だ。多様性を受け入れ、理解すること。相反するテロリズムとのコントラストが鮮明だ。
一瞬の決断が生死を分かつ、サバイバルスリラーとしても見ごたえがあった。自分がもしあの場にいたら、希望を見出すことなんてできなかっただろう。サイコロで決められるような運命。テロを根絶することの意味を考えた。
【65点】
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