原作漫画が読みたくなる。様々な問題を抱える高校生たちの青春ドラマ。死と対峙して生を実感するキャラクター設定がユニーク。いじめ、セックス、売春、同性愛、ドラッグといったテーマが散りばめられ、当時としてはかなりセンセーショナルな漫画だったと想像する。その原作を受け止める若いキャスト陣の体を張った熱演が印象的で、なかでもテレビの露出度も高い二階堂ふみのヌードシーンに、女優として生きる覚悟を見せられたようだった。1990年代半ばの時代設定にあって、現代に通じる普遍的なドラマとして見るより、時代モノとして見るのがスムーズ。その割にさほど時代の空気を感じられないのは残念。劇中の衣装や、スクリーンサイズだけでは不十分であり、もっと空気のザラつき感が欲しかった。
見終わった後に調べて納得したが、本作の時代設定は1993年~94年とのこと。自分が高校生のときに見たファッションと似ていると感じつつも、携帯電話がまったく登場しないあたりでもっと古い設定なのだと思った。「援助交際」という社会問題がクローズアップされ始めた頃で、本作でも高校生たちのセックスシーンが自然に描かれる。昨今の少女マンガ映画を初めとして、クリーンで嘘っぽい恋愛映画が多発しているなかで本作は異彩を放つ。
吉沢亮演じる主人公の男子は、同級生から暴力によるイジメを受ける。彼を助けるのが二階堂ふみ演じる同級生女子で、2人は次第に男女の垣根を越えて友情を深めていく。なぜ彼がイジメられていて、なぜ彼女が助けたのかはよくわからないが、本作にとってそうした動機付けはあまり重要ではないのかもしれない。男子は2つの秘密を抱えていて、1つは近くの川辺に「宝物」を隠していること、もう1つは自身の特異な性的志向だ。吉沢亮の表情が美しく、ミステリアスな雰囲気といい、まさにハマり役だ。
その男子に暴力を振るうのは、主人公の女子の恋人でもある同級生だ。当時流行ったであろう長髪の髪型だが、東京ラブストーリーの江口洋介ばりにサイドの長さを揃えたほうがもっと時代の色が出たと思う。何かにつけてセックスをしたがる男で、その欲求をそのまま恋人や浮気相手にぶつける。男子のほとぼしる性欲と、下半身で物事を考えてしまう時期の愚かさがよくわかる。濡れ場というよりも一方的な性欲処理であり、本作ではその様子を隠すことなく描く。
本作で耳に残るのは「ねちゃねちゃ」という粘性の音だ。キスシーンでの舌の絡み合いや、摂食障害をもつキャラの過食時における租借音だったりする。耳障りな音だが、人間が生きていることを実感させる1つのシーンとしても捉えられる。川辺にある、干からびて動かぬ宝物と、あらゆる感覚を刺激する彼らの生き様が対照的に映る。死の傍らにいて、生きる力が湧くという彼らの感覚は不思議と説得力がある。
同じ高校に通い、三者三様の境遇と想いを抱えて生きるキャラクターたちが登場する。映画は彼らの動きを傍観して追いかける。インタビュー形式でキャラクターたちの心情に迫る様子はドキュメンタリーのようでもある。展開の狭間で挿入される、釣りをする2人の雑魚トークが秀逸で面白い。何かに夢中になる青春もあれば、惰性に生きる青春もある。終始クールな視点の本作は、「自分だったらこうする」的な青春映画のセオリーである共感型とは一線を画す。見る人を選びそうだが、映画でしか描けない映像表現を含め、見応えのある日本映画だった。
【65点】