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ウシジマくん Part3 【感想】

2016-10-29 09:00:00 | 映画


完全にミスった。
4作目の「ファイナル」の評判が良いので、原作ファンとしては「見に行かねば」と思い、その前の「Part3」を公開終了ギリギリのタイミングで見たが、結果、見なくても良かったと痛感する。まず「Part3」と「ファイナル」は前後編ではなく、話が全く繋がっていない。そして「Part3」がテレビドラマ版と同等であり、映画作品という枠で考えれば、劇場で鑑賞する価値が見当たらない。少なくとも過去作のなかでは一番面白くなくて、作り手の熱量がまるで感じられない。あぁ劇場鑑賞をスルーすれば良かった。事前情報はある程度必要だな。。。。

物語は原作の「フリーエージェントくん」と「中年会社員くん」のエピソードをベースに劇場用にアレンジしたもの。
「フリーエージェントくん」はその日暮らしの人材派遣の仕事で生活困窮する青年が、ネットビジネス講習でカリスマ経営者と出会い、詐欺な手口で大儲けしたのち、堕ちていくという話。「中年会社員くん」は一流企業に勤める中年男が、人事考課の改ざんや横領などの不正に手を出し、浮気、キャバクラ狂いで堕ちていくという話。それぞれのドラマのなかで「金貸し」として丑嶋(ウシジマくん)率いるカウカウファイナンスが関わっていく、いつもの流れだ。映画用に多少のアレンジはあるが、使われるセリフをはじめ、ほとんどが原作の通り。

各エピソードで登場する主人公たちは、利己的でクズな人たちばかりだ。ストーリーの展開はほぼ固定化されていて「栄枯盛衰」。一時は良い思いをするが、確実に堕ちていく。堕ちないまま、成功して終わるパターンはなかったと思う(ハッピーエンドはあるが)。その多くが自業自得であり、「こいつ、終わってるな(笑)」と蔑み、その不幸を見て笑い楽しむような一面がある。おそらく自分含め、読者の大半が経験のない世界を描いており、未知の世界を覗きこむスリルと、人間の欲望と暴力によって生み出されるドラマのダイナミズムが原作の醍醐味だ。

多くのエピソードの中で「フリーエージェントくん」は映像化に相応しいチョイスだと思っていた。但し、このエピソードは原作の中でも1,2を争う長尺で描かれており、コンパクトに映像化するのは難しい。本作はそのエピソードの要点をうまく抽出して組み立てている。金がないのに金があるように見せる、つまり価値がないのに価値があるように見せることを本作では「ブランディング」と言い、そのブランドを売りまくる商法で主人公が大儲けする。「フリーエージェントくん」の連載が始まった際に「与沢翼がモデル」と話題になったが、華々しい生活を送り、その成功体験を魅せることがビジネス、という本筋はこの映画で描かれているとおりだ。売り物が100%詐欺という点は大きく異なるけれど。

問題は主人公が上り詰め、堕ちていく過程のダイナミズムが感じられないことだ。脚本の問題というよりは演出の問題と思われる。描写の1つ1つがハリボテのような嘘っぽさに溢れる。フィクションなのは承知だが、リアルな世界として描こうとしなければストーリーに没入できない。画のスカスカ感と、コントのようなパフォーマンスの軽さ。本当はもっと深刻で残酷な話なのに、そう見えないのがつらい。人間の臭みがなくてキレイ過ぎる。主人公演じた本郷奏多は器用に演技をこなすものの明らかに迫力不足。カリスマ経営者を演じたハマケンの怪演が唯一の救いだが、もっともっと人間の恥部に迫るべきであり、ラストのカリスマ経営者の終焉シーンはあんな程度ではダメだ。

「中年会社員」はエピソードのレベル感を考えれば、可もなく不可もなくといったところ。主人公がのめり込むキャバクラについては、自分は一度しか行ったことがないので共感することはないが、そのキャバクラに自分を連れていった知人が「恋愛ゲーム」と言っていた理由がよくわかった気がする。意中のキャバ嬢をモノにする(抱く)のが目的で、そのためにお金を払っているらしい。本作の主人公も「あのコとヤリたい♪」と借金を重ねてハマっていく。キャバ嬢は主人公に1回きりの「ご褒美」を与え、その幻想を引っ張り主人公から金を絞り出す。主人公演じるのはオリラジの藤森で、その演技の巧さにかなり驚いた。彼の持つチャラさが役柄の軽薄さと相まって、見事「ウシジマくん」世界の住人になっている。キャバ嬢役に筧美和子のキャスティングはズルい。口元がゆるく、肉感的な女子に男子はすこぶる弱い。

同時進行で展開する両エピソードは、どちらも映像作品としてはつまらなくはない。気に入らないのは、サイズとクオリティがテレビドラマ版と変わらない点だ。映画でしか描けないことがほとんどない。放送コードみたいなものを意識したようなヌルい描写に腹が立つ。単に過激な描写を望んでいるのではなく、スリル、恐怖、痛み、恥部をガッツリ描くことが「ウシジマくん」を映画化する優位性なのに、それを活かそうとしない。劇場で放映するのではなく、テレビの深夜枠で放送すれば良い内容だ。「ファイナル」に客を呼び込むための、ケチな策略のようにも見えて嫌だった。

そして、肝心の丑嶋の登場シーンがあまりにも少ない。原作の魅力でもある、丑嶋のダークなヒロイズムを味わう機会も当然ない。

主演の山田孝之は相変わらず素晴らしい役作り。原作とは異なる小柄な体型をモノともしない強いオーラを全身から漂わす。深夜ドラマの「勇者ヨシヒコ~」を見ている最中なので、その役柄のギャップに萌える。本当に勿体ない。

久々にダメなTVドラマの劇場版を見た感じだ。「ファイナル」では、この鬱憤を晴らしてくれることを期待する。

【50点】