新作DVDレンタルにて。敬愛する沖田監督の新作ながら劇場鑑賞を逃した1本。
恋人の妊娠を機に結婚報告のため、故郷に里帰りしたモヒカン頭のバンドマンを描く。
沖田作品のなかでは一番脚本が面白くないが、沖田演出は相変わらずツボだ。ユルユルな展開ながら最後まで引きつける手腕はさすが。描かれるのは、末期ガンに侵された主人公の父親と、その事実を受け止めた主人公ら家族たちの生き様だ。避けては通れない親の死を目前に、「自分だったらどうするかな」と主人公に感情移入する。死ぬとわかっていれば、病院ではなく自宅で過ごしたいと言うだろうし、寝たきりになれば下の世話を含め介護しなければならない。死ぬ親のためにいったい何ができるか、そして親が望むことを叶えてやりたいと思うのは当然だろう。主人公の父親が筋金入りの「永ちゃん」ファンという設定で、彼に会うことが父親の夢だ。その夢の叶えるため、主人公が無理せず等身大のやり方で「永ちゃん」に会わせる(?)シーンが最高に可笑しい。「父親の死を見守る家族」という感動モノに振れがちなテーマだが、いかなる人間の生き様の中にもユーモアを見出そうとする沖田監督の視点が嬉しい。但し、本作のユーモアは沖田監督にしてはスベリ気味なシーンも多い。最後の「断末魔」は締め方としてイマイチだ。本作は笑いよりもドラマが勝っている。ボケて記憶がなくなっていく父親が、息子の名前を付けた経緯と託した思いを語るシーンに、主人公とともに涙をこらえきれなくなる。沖田映画らしい「食べる」シーンも健在で、父親が思い出のピザを頬張るシーンに胃液が体内で放出した。死にゆく父親を演じた柄本明が、納得の名演を見せる。自分の父親とはまるで違うキャラクターだけど、いろんな思いが込み上げてきた。
【65点】