から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

SCOOP! 【感想】

2016-10-05 09:00:00 | 映画


ゲスの極み○○。それは事件を起こした芸能人か、その芸能人を追いかけ回すマスコミか、それとも下世話なニュースに喰らいつく大衆か。舞台は「写真週刊誌」。描かれるのはゲスなネタをカメラに収める中年パパラッチの生き様だ。演じる福山雅治を前に、良くも悪くもその色気を活かさずにはいられなかったみたい。個人的には、大衆性とジャーナリズムの間を攻めるメディアの特性をもっと深堀してほしかった。弟子とのロマンスが必要だったかは疑問。吉田羊はエロくて素敵。大根作品への信頼は崩れないが、「モテキ」から続いた3打席連続ヒットは4打席目で小休止。

冒頭シーンが巧い。女子の喘ぎ声と揺れる車体。フィニッシュしたのち後部座席から顔を出したのは福山雅治だ。一瞬驚く。クシャクシャになった紙幣を相手の女子に渡し、何事もなかったように運転席でタバコをふかす。「たまにはホテルで」という女子の言葉で、主人公の仕事ぶりと趣向が露わになる。顔面はいい男なのに、粗野でヤリ○ン臭が漂う。福山雅治の新境地の予感。「大根仁が福山雅治を捕えた!」と思わずガッツポーズする。(結果は勘違いだったけど。)

主人公の都城はフリーのカメラマンだ。かつて花形カメラマンとして活躍した栄光の日々は過ぎ去り、今では芸能ネタを畑として芸能人たちのケツを追いかけ回している。パパラッチにとって必要な資質は無神経さだろうか。本作でも出演&リスペクトの対象となっているカメラマンの宮嶋氏が以前テレビで「芸能人にプライバシーなし」みたいなコメントを発していたのを思い出す。都城がカメラに収めるスクープ写真の多くは、有名人たちのプライベートの「こじ開け」であり、被写体の感情に無視を決め込み、知られたくないプライベートを大衆の目に晒す。そんな彼のモチベーションは金だ。金が入ればすぐに風俗に行きたがる。しかもオッパイ星人。口をついて出るのはセクハラまがいの言葉。自己中心的で下品。昔の上司に再会するも「これが俺の性分に合ってますんで」と過去の栄光にすがる未練もない。迷いないキャラクター設定に期待感が増す。

そんな男に付き合いのある出版社から「面倒をみろ」と、新人の女子記者「ノビ」があてがわれる。都城とタッグを組むノビの存在は、鑑賞者と同じ視点を持つ役割を担う。人のプライバシーを侵し、それを売り物にする都城の仕事ぶりに「最低な仕事」と嫌悪するも、スクープをものにした達成感と発売された紙面で自身のクレジットを見たときの優越感に浸り、「最低な仕事」が「最高な仕事」に変わる。その過程がコミカルに、そして説得力たっぷりに描かれる。彼らが捕えたスクープは大きければ大きいほど、週刊誌の販売部数が増える。本作で描かれる躍進に「沈み」がないのが特徴的だ。面白いネタを世に出せば、そのまま大衆の関心として吸収される関係ができている。週刊誌の仕事が、食欲旺盛な大衆への餌やりにも見えてくる。週刊誌の悪意ある見出しからは、大衆の欲望や嫉妬といったものが透ける。

大衆の欲求に応える娯楽メディアという側面とともに、事実を大衆に伝えるジャーナリズムという側面がある。斜陽と言われる業界事情が劇中の編集会議で生々しく語られるが、後者の「ジャーナリズム」は過去の遺物とされる。物語の中盤から、芸能ネタに加え、社会事件を追うことになる。典型的な凶悪事件として、女性への連続暴行殺人事件が設定される。「人権」で守られる加害者の顔を、カメラに捕え、世に広めることが狙いだ。ジャーナリズムという大義で進めると思いきや、シンプルな怒りの感情から湧き出る「正義」という概念が持ち上がる。これまで、コメディタッチで描かれてきた芸能スクープ騒動記から、一気に本気モードにギアチェンジすると期待するが、その後、あっさりいなされる。加害者を激写しようとする現場検証シーンは大いに笑えるものの、得られた成果がこれまでの芸能スクープと同じ扱いに留まる。非常に勿体ない。「写真週刊誌」の存在意義をもっと深掘りできただろうに。。。

そのかわりに、中盤以降フォーカスされていくのが主人公の生き様だ。男の友情と恋愛が色濃く描かれていく。男の過去には知られざる友人、同僚との絆の物語があったという。脇役らの熱演によりある程度カバーされるものの、その背景がイメージしにくい。なかでも都城の協力者であり唯一の友人である「チャラ源」との友情は、「チャラ源」の実態がわかりにくい分、回想シーンを交えるなどもう少し目に見える形で関係性を示して欲しかった。クライマックスではその「チャラ源」が暴走する展開になり、これまでテンポの良かった流れがグダグダになる。ネタバレ厳禁なラストは「そういうことじゃないんじゃないの?」と全く共感できなかった。あれはカメラマンの生き様ではない。

このラストしかり、結局、都城というキャラクターはカッコよく描かれている。おそらくそれは福山雅治のキャスティングと無縁ではないと思う。象徴的なのは、都城とノビの関係をロマンスに発展させたことだ。2人の関係は師弟関係で終始したほうが良かったと思う。ノビ演じる二階堂ふみは、過去の出演作で大人男子に対抗できる存在感を示してきたが、本作では「きゃりーぱみゅぱみゅ」な外見と青さが目立つ役柄にあり、ワイルドな色気を持つ都城とはミスマッチだ。都城がロリコンに見えてしまう。都城の元恋人役である吉田羊のまとわりつきキスシーン(素晴らしい)を目撃したあとだけに、余計に違和感があった。監督は「色男」福山雅治と二階堂ふみのラブシーンを撮りたかっただけなのかも。

劇中登場する女子たちは都城に惚れる。惚れるに値するカッコ良さだ。しかし、それは演じる福山雅治の魅力そのものであり、役柄「都城」の魅力ではない。福山雅治は何をやってもカッコいいんだから、カッコよく撮っては面白くない。「風俗好きで金に執着するダメ男」と、冒頭で感じたままの個性で突っ走ってほしかった。どんなゲス男を演じても滲み出てしまう色気が、福山雅治の持ち味だと思う。

いろいろと物足りない部分はあったが、大根監督の脚本と演出はやはり好物だ。日本映画において欠かせぬ映像作家になったと再認識する。特に本作では下ネタ全開の下品トークが目立つが、寒くなることなく普通に面白かった。これは意外と難しいこと。「バクマン」に続き、お仕事ムービーとしても見応えのある作りでもあった。このまま年1回ペースで大根映画をリリースしてくれると有難い。

【65点】
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