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Mr.ホームズ 名探偵最後の事件 【感想】

2016-10-09 08:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
93歳になり隠居生活を送っていたシャーロック・ホームズが30年前の事件を振り返るという話。地味、渋い、でも好きな映画。
目撃するのは名探偵として名を馳せたホームズの知られざる後日譚だ。近年いろんな形でアレンジされているホームズはどれも血気盛んなキャラといえる。彼が誇る天才的な推理力と洞察力は、思考力のスピードによってもたらされるが、本作のホームズは老いによって思考力はもちろんのこと記憶力さえも失いかけている。肉体には大きな皺が刻み込まれ、杖をつかなければ動けないヨボヨボ爺さんだ。 都会から離れた郊外に住み、広い庭で養蜂をしている。生物学にも長けたホームズらしい余生の過ごし方といえる。ホームズの活躍は今は亡き盟友ワトソンの著書によって世界的に知られていたという設定であり、鹿打ち帽を被りパイプを口に加えたビジュアルは、その著書の中で勝手に付けられたイメージというのが面白い。ホームズ演じるのは名優イアン・マッケラン。その佇まいに多くの難事件を解決してきたありし日の姿を宿し、枯れた肉体の中にもホームズ特有のオーラを滲ませる。オリジナルから付け足されたホームズ像であるが、とても説得力がある。
本作のホームズが回想するのは、自身が探偵業から引退するきっかけとなった30年前の事件である。薄れゆく記憶をたどり、ホームズが引退するに至った事件の全容が明らかになる。当時のホームズは60代であり、まだ怖いもの知らずのイケイケだった。そんな彼を打ちのめしたのが人間の中にある未知の宇宙だ。彼は推理を当てるために探偵をやっていたのではなく、推理によって人を救うために探偵をやっていた。ハッピーエンドを確信した事件に思いも寄らなかった悲劇が訪れ、己の無力さを知ることになった。
映画はその過去の事件に終始するのではなく、93歳となった現在のホームズの生き様にもフォーカスする。彼は住み込みで働く家政婦と、その子供である幼い少年と3人で生活しているが、心優しく好奇心旺盛な少年との交流が丁寧に描かれる。人生を終えようとする老人と、これからが人生である少年の対比が味わい深い。また、老いてもなおホームズらしい推理力が発揮されるのが嬉しい。その3人の間で起きたスリリングでエモーショナルなクライマックスに感動を覚えた。
事件をゲームとして楽しむカンバーバッチ版のホームズも悪くないが、本作で描かれる「人間」ホームズの姿に心を打たれた。オリジナルへの強い愛を感じる映画でもあった。
【70点】
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