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「反転―闇社会の守護神と呼ばれて」 田中森一

2008-08-04 22:50:28 | Books
反転―闇社会の守護神と呼ばれて
田中 森一
幻冬舎

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大阪地検と東京地検の特捜部所属検事として、数々の経済事件の摘発に関わったものの、政・官権力による事件もみ消しに嫌気がさしバブル絶頂期に検事を辞職、”ヤメ検弁護士”として、山口組など暴力団や仕手筋、自民党清和会などの顧問弁護士を歴任した後、石橋産業手形詐欺事件で被告となり今年2月の最高裁判決で有罪確定して現在服役中である著者の自叙伝。
ベストセラーになりましたね。
今年の正月に図書館に予約して、貸出がまわってくるまでに半年かかりました。

著者は戦中生まれで長崎の平戸の極貧農家で育ち、苦学して司法試験に合格した、という経歴の持ち主。
検事時代にも弁護士時代にも、多くの闇社会の実力者たちと深く付き合うわけですが、彼らの多くが極貧・被差別などに苦しめられながら生まれ育っていたことにシンパシーを感じるとともに、そういうたたき上げの人間だからこそ巨大組織や巨額の資金を動かす立場を務めるだけの人間的魅力を備えていることを肯定的にとらえています。
暴力団についても、「必要悪」という言葉こそ使わないものの、複雑な権利が絡み合った状況を解決するには不可欠な存在として、その役割を積極的に評価しているふしがそこかしこににじみ出ているし、バブル時代についても、当時飛び交っていた札束の異常さを認めた上で、敗戦直後どん底から這い上がった日本経済のある意味頂点であった、というような捉え方で振り返っています。

戦後二回り目世代である自分からすると正直こういう感覚にはなかなかついていけないものがありますが、もしかしたら敗戦直後の極貧生活からの高度成長を経験した世代にとっては広く共感を得る感覚なのかもしれません。
著者を含め、バブル期にこの世を謳歌した”バブル紳士”たちは、バブル崩壊後20年近い時間を経る間に、その罪を問われたりすでに鬼籍に入ったり、今では”過去の人”になってしまいました。
また、経済の長期低迷、自民党一党独裁体制の揺るぎなど日本社会が変容していく中で、政官財の強力な依存関係に基づく表・裏の権力構造の在りようも姿を変えていってのは事実なんだろうとは思います。
が、一方で、著者が長年経験してきたような、裏社会の権力が表社会の権力を支えるような構造がまったく無くなってしまったとも思えない。
戦後日本の発展をある面で支えてきた闇社会が、その秩序構成力を衰えさせながらも残存している、そうした状況が現代日本社会に軋みとして現れているのかもしれません。

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