読まない x

29. しかし、いつも思うのですがフランスの学会では「紙の資料を配る」ことをほとんどしませんね。他の研究分野はよく知りませんが、フランス文学に関する限り日本の学会での研究発表だとまず間違いなく紙に引用箇所をコピーしたり自分で打ったりして作った紙を何枚もホチキスでとめたものを聴衆に配ります。これはおみやげみたいなもので、発表自体は聞かずにこの紙だけもらって帰る人もいます。別に、フランス文学を日本語で論じるのですから、原語を読みあげる場合も、持ち時間の関係でその場では和訳だけ読み上げる場合も、目で見えるテキストを参考としてつけておくことに意義がないわけはありません。でもなんとなくそのことによて、フランスの学会と日本の学会でやっていることの性質がずいぶん違ってくるように思えるのですよ。
 フランスの学会では、引用される原文、スタンダールの原文が発表者の口から出てくるわけですが、そのときには出席者全員の意識が(いやおうなしに)一致して「そこにある」感じがします。みんなで一致して論理の進行を追って行く感じです。
 それに対して日本では、視覚的資料があるからというので安心(あるいは油断?)して、意識は人によってさまざまなところに飛んでいるのではないかな、と思えてしまいます。もし人の意識を目に見えるようにする装置があったなら、日本の学会の会場を映し出せばいろんな色がみえるでしょう。というか、先取り後戻りが自由にできるというのが書記言語の本質のはずです。

 これってなんかひっかかりますね・・・

 それとは全然別の話かもしれませんが(でも案外通底しているかもしれないんですが)、わたしの場合、学会発表のような抽象的な内容の話を必死で聞いていると、なんだか字を思い浮かべないと理解できないでいる自分に気付いたりします。たとえば「ヴォワ」と聞くだけでは「声」という意味を意識するには不十分で(このくらいの短い語だとフランス語には同音異義語がたくさんあります)、"voix" という視覚映像の x の字を頭の中のスクリーン上に「見て」いないと「意味が体に感じられない」というような具合です。
 これは単にわたしの聞き取りの経験が未熟だというだけのことかもしれませんが・・・ でもこういうフランス語正書法の「書くけど読まない」 x って、なんだか「教養の凝固したもの」みたいで(ラテン語 vox を意識させるところからも)、わたし自身「教養」志向を介さないと少し難しい内容のハナシは理解できていないということの証拠のような気が・・・

 例によってはなはだ感覚的な言い方で申し訳ありません。 m(_ _)m
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コメント
 
 
 
初めまして (leMMon)
2005-10-13 18:36:47
初めまして。檸檬と申します。

Voixの"x"のお話、同感です。といっても私の場合、フランス語がそんなに流暢ではないので同音異義語で迷うというより、目で見て知っているはずの単語でも聞いたときに結びつかないことが良くあるという意味ですが(たとえば反対で「ヴォワ」と聞くと"voi"までは分かるのですがその後が分からないから、頭の中にある"voix"と結びつかない、という具合)。



そういえば以前、フランスに短期留学していたときに先生(普段はフランス人に英語を教えている先生)が

「フランス人は言葉を聞くとき、頭の中では文字にして見ているけれど、アメリカ人は英語を聞くとき耳で聞いてそのまま音声で捉えている」

とおっしゃっていました。私は幼いときにアメリカに住んでいたので英語に関してはそれがとてもよく実感できて、なるほどなあと思ったのを覚えています。なんとなく関係があるかなと思って書き込みました。突然失礼しました。
 
 
 
書き言葉 (raidaisuki)
2005-10-15 09:56:23
檸檬さま(奇麗なお名前ですね。 (^_^)y )

コメントありがとうございました。 m(_ _)m



この手のハナシになると、ゴテゴテといらんことを考え始めるのが癖で、今回もニッポンの選挙のことに思いを馳せることになりました。



ところで書き言葉のことですが、英語もはたして音声だけでとらえているのか、フランス語とは別の場所で字に頼っているところがないとはいえないかも、と思います。

ただ、たぶん英語やフランス語国の文盲の人より、日本語国の文盲の人の方が話しに困難を覚える度合いが高いだろうと言えるような気がします(とくに少し難しい話になると)。
 
 
 
Unknown (leMMon)
2005-10-15 19:32:11
書き言葉に関してはもちろんどの言語も頼っていると思います。日本語は表意語である漢字の力が大きいのかもしれませんね。漢字を見ただけで(たとえばもし読み方が分からなくても・笑)意味はなんとなく分かってしまうわけですから。

ちなみに先に引用した先生の言葉は話し言葉についてです。英語で話しているときは本当にスペリングのことは全然考えないんです。不思議ですしなぜって言われても自分でも良く分からないんですが。英語には同音異義語は少ないんですかね。
 
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