エジプトのスタンダール

28.さて世界とスタンダールという話になりましたが、今回興味深かったのはエジプトから発表者が3人も来ていたことです。3人とも女性です。一昨年のグルノーブルでの学会にもチュニジアからスカンドラニさんが来てましたが、今回はそれよりずっと小さな学会にフランス語完璧のエジプト女性の研究発表が3本というのはかなり興味を引かれるものがありました。
 お昼にうかがったお話によれば、エジプトでは長くフランス語は文化系の言葉として教育でも非常に幅をきかせていたのですね。サクレクールみたいなミッション系の学校はかなりあって中等教育からフランス語教育が充実していたのです(サクレクールというと日本では聖心ですが、日本ではなんでフランス語やらなかったのでしょうね。条件が全然ちがうからということでしょうか。皇后様がフランス語流暢だったら面白かったんですけどね)。だいたい革命のとき以後そういうのはなくなりましたけど、ということでした。

 それで肝心のスタンダールですが、発表の質疑応答のときにも話が出ましたが,エジプトでは50,60年代に『赤と黒』の大ブームがあったんだそうで、最初は英語でこれを読んだ世代がエジプトでフランス語の伝統をつなげるひとつのファクターになっているのですね。
 このあたり戦前、戦後の日本のスタンダール・ブームとも呼応して興味深いところです。今では日本の若者は「ジュリアンがなんであんなひねくれるのか理解できない」そうでスタンダールなんて時代遅れの作家というイメージもあるのですが、ジュリアン・ソレルの生き方が強い共感を集める社会というのが世界にまだまだたくさんあることを忘れてはいけません。
 それにしてもスタンダールという男は、自分は上層ブルジョワのくせして、なんでジュリアン・ソレルのようなキャラクターの造形ができたんでしょうね? やっぱり家の教育が嫌いで、故郷が気に入らなかったことが関係している、のかな? (^_^)
 エジプトの発表者から日本の内田義孝さんの業績に指摘があったこともあり、質疑応答ではわたしにも話が振られたんですけど、わたしはつい自分の今の目下の関心事、つまり「EUの作家スタンダール」ということをちょっと言ってしまって、やっぱり受けは悪かったです。この局面、この話の流れではもっとグローバルな話(ほんとはわたしもよく考える話のはずなのです)にしないといけなかった。
 フランスのこういう場でしらけない話をするのはほんとに難しいです。落ち込み落ち込み・・・ (^_^;;)

 今ふと、エジプト女性にとってジュリアンとかファブリスって、どういうものなのかな、という考えが浮かびました。発表からはそれはよく分かりませんでしたが・・・

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