日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

JR民営化四半世紀でなお、利用者目線欠如の問題風土

2013-02-11 | 経営
先週の出来事で恐縮ですが、大雪予報を受けてのJR東日本の対応は、依然改まることのない同社の企業体質を示す企業風土のケーススタディとして大変興味深く拝見させていただきました。

JR東日本は、気象庁の関東地方での6日の大雪予報を受けて前日夕刻早々に、翌日午前中の一部路線の運休(湘南新宿ライン)と都内を通る主要各線での30%の間引き運転を決めたのでした。結果として都内での積雪はなく間引き運転の影響による運行遅延と一部ターミナル駅等での乗客あふれ等の混乱を招いたのでした。

問題はなぜ早々に翌日の間引き運転を決めたのかです。「コンピュータ制御の関係で、間引き運転をするなら前日の段階で決めないと、当日積雪後の運行ダイヤ変更は、混乱が生じる恐れがある」というもの。確かに運行サイドが積雪の際によりスムーズに間引き運転を実施するためという目的で考えれば、なるほどごもっともで賢明な判断に聞こえました。

しかし問題は、「始発の段階で状況が変わっているなら、通常運転に戻すのだろう」と思われたものが、それができなかったこと。どうやら一度間引きを決めてそのダイヤで車両や職員の手配をすると、始発の段階では元に戻すのは不可能でのだとか(不可能というよりも、予報が外れたケースを想定した体制を組まなかったということでしょう)。ならば、前回大外れの気象庁予報を真に受けて、早々に後戻りのできない間引き運転を決めるという判断が果たして正しかったのかです。

降っても降らなくても混乱が予想される間引き運転、降らなければ混乱はない正常運転。その両者の選択の成否は、結果論としてでなく、降らなかった場合の混乱は十分想定できる事態であり、利用者視点のものの見方で考えるならば、朝の段階で変更不可の間引き運転決定はどう見ても得策であったとは思えません。積雪時の交通機関の混乱は利用者にもある程度納得が得られるものであるでしょうが、積雪がないのに混乱を招くということはサービス業としても公共機関としても大いに問題ありなのですから。JR東日本の“悪い癖”がまた出たなと、私は思いました。

JR東日本の利用者目線の欠如については、3.11東日本大震災の際に大きな問題が発生しています。ひとつは、震災発生直後に何の状況把握もない段階でいきなりその日の全路線運休を決め、駅のシャッターを閉めて多くの帰宅難民を発生させた上に路上に放り出したという大問題事案。さらにひとつは、震災発生から2日後の日曜日に政府と東電が計画停電の実施を決めるや否や、翌月曜日にいきなり一部路線の完全運休を決めビジネスマンらの足を奪うことで日常的経済活動に大きな支障を与えた事案です。

特に前者は、復旧を急ぎ駅構内を解放した民鉄各社とはその対応に決定的な違いが表れました。しかも、時の石原都知事がJR東日本を名指しで烈火のごとく怒ったことに対して、彼らは都庁にお詫び訪問し「謝る相手が違う!あなた方が謝る相手は知事じゃなく都民だ」と、二度怒りをかったというおまけまでつきました。この事実からも、この会社がいかに顧客目線、利用者目線が欠如していたかがお分かりいただけると思います。後者の計画停電への対応も、一部路線を終日運休したら沿線住民はどうなるのか、利用者の観点で考えれば子供でも分かりそうなものです。運休路線の各駅では駅員と利用者のいざこざが多数発生し、こちらもまた大きな反省材料になったはずでした。

利用者目線の欠如によりこれだけの大失態を演じ、「以後十分気をつけます」と反省したはずの大企業が、同じ利用者目線の欠如で失態を演じるというのは、どうみても企業文化以外の何ものでもないと言っていいでしょう。顧客目線の欠如が企業文化になっているというのは、サービス業としてどういう企業でしょうか。日本を代表する大企業でありながら本当に恥ずかしいことであると、JR東日本はしっかり自覚すべきであると思います。

マッキンゼーが提唱した組織構成要素「7S」における「風土(Style)」は、その変革に時間を要するとは言われてはいるものの、国鉄民営化からすでに四半世紀が過ぎており、社員一人一人の自覚のなさが官僚的風土を生きながらえさせているに違いないとしか言いようがありません。駅ビルだ駅ナカだと、不動産事業でのいわゆる“地主感覚”のビジネス展開がその利用者目線の欠如に拍車をかけているようにも思います。

今回の件は、3.11対応時の問題の大きさに比べれば微々たるものであるかもしれません。しかしJR東日本には、利用者目線に欠如について3.11の教訓すら全くいかされていなかったという観点から、猛省を促したいと思う次第です。今週もまた雪予報が出されています。今週こそ、事業者目線ではなく利用者目線でのあるべき判断を望みます。

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