日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ノーベル賞と日本の文系

2010-10-08 | その他あれこれ
鈴木章・北海道大名誉教授と根岸英一・米パデュー大特別教授のおふた方が今年のノーベル化学賞を受賞され、久々の明るいニュースに日本中が沸き立っています。

日本のノーベル賞受賞者はこれで18人目。そのうち自然科学系、すなわち理系の受賞者が実に15人です。マスコミ各社は、“理系離れ”の昨今にありながら日本の科学技術力の水準の高さを称賛する記事を書き連ねています。確かに、日本は技術大国であり今の日本の基礎を作り上げた高度成長期の発展は、そのめざましい技術的な進歩に支えられてきたと言っても過言ではないでしょう。その意味では確かに我が国は「技術立国」であり、自然科学系分野におけるノーベル賞受賞者の数は世界に誇れるものであると思います。

翻って人文・社会科学系、すなわち文系ですが、こちらはと言いますとこれまでのノーベル賞受賞者はわずかに3人。文学賞の川端康成、大江健三郎両氏と、平和賞の佐藤栄作氏がそれです。平和賞は学問ではないので別段扱いするとして(しかも佐藤栄作氏が本当に平和賞にふさわしかったのか否かもまた、核密約の件も含め議論の存在するところでもあります)、文学賞に関して言うなら、世界中の文学関連出版物における日本語モノの比率で考えれば、まぁ2人という受賞者の数は決して少なくはないと言ってもいいのではないかと思います。問題は経済学賞。過去日本人の受賞者はゼロ。これは実に情けない限りではないでしょうか。

現在日本の大学における学部在籍学生数の平成21年度データでは、全国約250万人の全大学生のうち人文・社会科学系の学生は約130万人と半分超を数えるに至っております。要するに大学を卒業して世に送りだされる社会人の半数以上は文系人間な訳です。それでありながら文系分野における世界的評価は、ノーベル賞受賞が評価の基準指標ではないにしても、あまりにお粗末なのではないかと思われるのです。「技術立国」であると同時に「経済大国」でもある我が国ですから、せめてノーベル経済学賞の1人や2人はこれまでに受賞者がいてもおかしくないのではなかと思うのです(別にどうでもいいと言われればそれまでの話ですが)。

あくまで私見ですが、この原因を考えるに日本の文化としてどうも学問としての経済学が軽んじられてるように思えてなりません。最高学府である大学の難易度に関しても、わが国では一部の大学を除いておしなべて法学部の方が経済学部よりも高いように思えます。この理由は簡単。官僚を頂点とする統治国家が形成される段階において、国家エリート養成機関としての最高峰である東京大学において「国家官僚養成課程=法学部」という構図が形成され、官僚になれない人間がやむなく民間のリーダーを目指して経済学部に入学するという流れが出来上がり長年の歴史の中で文化として確立されてきたように思えるのです。ちなみに民間大学である、早稲田大、慶応大においては経済学が文系をリードしてきた歴史があるようで、早稲田は政治経済学部、慶応は経済学部が古くから看板学部として確固たる地位を築いています。そもそも経済が法律を生みだすという論理からすれば、経済学がより基礎学問的存在であるわけで、経済系の学部が文系の看板学部になるのは当然の流れであるように感じます。

また面白いデータを見つけたのですが、これまでの日本のノーベル賞受賞者18人は、なぜかすべて国立大学の出身者なのです。これは不思議と言えば不思議ですが、やはり学究肌の人間を生みだす文化は圧倒的に国立大学の風土にこそあるだと考えれば、納得でもあるのです。であるとすれば、国立大学の法学偏重の偏差値文化を変えない事には、学問としての日本の経済学の水準向上は難しいと言う事になるのかもしれません。かなり飛躍した論理展開であることは百も承知の上で申しあげさせていただいておりますが、高校教育において「法学部の方が偏差値が高いから法学部を第一志望にしろ」的な進路指導が今だに存在するのも事実であり、やはり法学とは何を学ぶことであり経済学とは何を学ぶことであるのかからしっかりと教え考えさせることで、高校生に対して正しい学問への道へ導くことも必要なのではないかと思うのです。ちなみに私ですが、古い話ですが純粋に法学よりも経済学を学びたいと思って経済学部を選択しました(法学部は1つも受験しておりません)。

日本の自然科学分野における多数のノーベル賞は素晴らしいことでありますが、根っからの文系人間として日本の「文系力」の弱さを感じさせられるにつき、問題の根底には官僚制度によって作り上げられた誤った教育文化の存在を強く意識させられもするのです。国家的レベルで高等教育を論じる際に、「理系離れ対策」も確かに重要な視点ではありますが、「学問としての正しい文系認識」についてももっと議論されてしかるべきなのではないでしょうか。日本人2人のノーベル賞受賞報道にそんなことを感じさせられた次第です。

※最近の“ドラッカーブーム”が、若者の間で少しでも経済学見直しの風潮につなれがればいいかなと思います。

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1 コメント

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民主党には夢も希望も持てない (左巻き菅)
2010-10-08 12:40:59
二人の日本人がノーベル賞を受賞したことを心から祝福する。
社会主義の暗い菅・仙谷政権下で、唯一の明るいニュースである。しかし、
科学技術の予算を大幅に削った腐敗・民主党には、夢も希望も持てない。
子ども手当などの税金のバラマキの10%でも充てれば十分の科学技術予算が得られる。
それはバラマキではなく、日本の将来に対する良き投資となる。
科学技術などに無知な蓮舫らを落選させなければ、日本が衰退することを憂える。
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