日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

企業M&Aが教える政界M&Aの要注意点

2012-08-29 | 経営
橋下維新の会を中心とした“政局秋の陣”を企業M&Aになぞった拙原稿がJ-CSATさんでアップされているのですが
(「大阪維新の会と政界M&A」http://www.j-cast.com/kaisha/2012/08/28144210.html)、ここではそれに関連して最近目にしたエセビジョンM&Aの顛末事例をひいてより具体的に政界M&Aの要注意点をみてみたいと思います。

先週末近くに公表されたオリンパスの子会社ITXの日本産業パートナーズへの売却のニュース。もともとITXは日商岩井の情報通信部門を前身として投資業務に軸足を移したところを、2000年にオリンパスが出資し04年にM&Aによって子会社化したものです。

00年代はオリンパスがITバブルの後押しもあって拡大路線をはかっていた時期であり、ITXとの一体化でデジタルイメージングや医療機器開発分野への投資効果による収益かさ上げを狙っていたのです。M&A当時のコメントでも、「ITXの投資先からの収益を期待できる」としています。しかしながらここで重要になるのが、このビジョンが嘘偽りのないものであったのかという点です。日経新聞の報道では、ITXはその後発覚するオリンパス損失隠しの飛ばし目的に使われようとしたとの記述もあり、なんともM&Aビジョンの曇りを感じさせる話であります。

その後ITXは07年に子会社のITテレコムを吸収。気がつけばITXのメイン業務は全国に500店舗を抱える携帯電話販売に移行していているのです。07年と言えばまだリーマンショック前のこと。やはりオリンパスのM&Aビジョンは、「損失隠し」という目先の利益であったのかと思いたくもなることろです。ITXは現在も企業体としては営業利益ベースで50億円超を計上する安定企業を形成しているのですが、今回不祥事発覚による原点回帰の中で非中核分野と判断され売却されることになりました。8年ほど前に輝かしき表向きビジョンの元実施されたM&Aは綺麗に白紙に戻されたことになるわけです。

では冒頭に記したように、政界の動きを別原稿で企業M&Aでなぞってみた手前、このM&Aを無理無理政界M&Aに結び付けて考えてみます。

00年代前半のオリンパスの拡大路線とITXのM&Aは、民主党が小沢自由党とのM&Aによって拡大路線に大きく流れを変えた政界M&Aとの符合を感じさせます。しかし当時のビジョンの共有はお題目に過ぎないエセビジョン。真の狙いは議席数増大による政権奪取と言う現実的かつ党利優先の短期目標だったかと。果たして、政権は取ったもののその先がつながらず、本来の政党ビジョン実現に向けた具体策であるはずのマニフェストは軒並み断念。結果的には小沢一派は袂を別ち、M&Aは綺麗に解消です。

理想論的に申し上げるなら、しっかりしたビジョンが明確に存在しM&A時にしっかり共有されていたなら、今さら「マニフェスト路線破棄か堅持か」で分裂の憂き目に会うようなことにはならなかったハズです。ただ今回の民主党が特殊なわけではなくて、政界M&Aはエセビジョンの下、短期的利益追求で目的で行われるケースが非常に多く、国民がまんまとだまされてしまう歴史でもありそうです。企業M&Aが教えるところの、「真のビジョン共有なき、短期利益追求型のM&Aはうまくいかない」という教訓は、目先の利益に目がくらみがちな政治の世界では活かされにくいのかもしれません。

となると橋下維新の会を中心とした、新たな政界M&Aも疑念の目を持って迎える必要があるのかもしれません。明らかに政党の存在感向上や自己の議員資格確保目的で維新の会に秋波を送り続ける、維新の会周辺の「政治屋」の皆さん。他方維新の会サイドとて、現状国会議員ゼロというどうみても脆弱な状況の打開に向け、イメージダウンにならない現職国会議員の取り込みをはかりたいという思惑が見え隠れしており、こんな状況下で安易なM&Aをすることは国民にとってプラスに働くとは言い難い気もするからです。

政界M&Aによる勢力拡大が、実は単なる彼らの利己的利益追求に過ぎないかったという失敗の繰り返しは、国民誰もが望まないところです。問題はその見極め。まず国民一人ひとりはメディアが作り出す、ある種のブーム的イケイケムードに流されてはいけないということ。そして今後起きるであろう政界M&Aに際して、企業M&Aよろしく当該政党や議員については、しっかりとした判断力を持ってビジョンの資産査定をした上で政界M&Aの評価についての最終判断をくだすべきかなと思うところです。

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