日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

非ロジカルな政治家をゆさぶる人事院谷総裁の戦法

2009-02-04 | その他あれこれ
話題の谷公士人事院総裁が、テレビに出て話をしておりました。今回の件での彼の論理を初めて直接聞くことができましたので、とりあえず私なりに分析をしてみます。

彼の論理は簡単に言うと次の通りです。

公務員改革の必要性は認める。ただ公務員は民間と違う部分が多々あり(団体交渉権やスト権が認められていない等)、人事院はそれを中立的に守る立場にある。その役割を一気に奪うことは公務員の法で守られるべき権利を擁護する点から賛成できない。今の議論はその点を無視して、いきなりのやり方であり順序が違う……。

私の感想は、やはり思った通りと言うか、自分たちの既得権を守るために現状論点となっていないモノを法の傘(あらゆる法の議論の前に、憲法下の問題が優先議論されるべきという論理)の下に持ち出して、ポイントとなる論点のすり替えを行っている、という感じです。大体において、今論じられている公務員改革は、上級国家公務員の天下りの問題を中心とした無駄の削減を論点としているのであり、その点をいじられたくがないために、下級国家公務員まで含めた法の下の「権利」を持ち出し、さも自身は中立的判断に立ち今の議論は恐ろしく誤っているかのような言動をしているのです。

また発言の中で、「国会が決めれば従うのが我々の立場であり、それまでは異論を唱え続けるが国会で決定すれば従うのみ」という、いかにもの“お役所的発想”でモノを言っていたのも、私をはじめ一般国民の「改革」に対する考え方と大きな乖離を感じさせる部分で、実に印象的でありました。

そもそも「改革」とは何でしょう?
既存の枠組みや制度に老朽化等によるひずみが出て問題視された時に、「改革」はおこなわれるのだと思います。これは国家だろうと民間だろうと同じことです。では「改革」をすすめるにあたって何が大切か、これは「経営のトリセツ」でも申し上げていますが、まず第一に「目的」の共有化です。すなわち、関係者は常に大きな「目的」に対する共通認識を持った上で議論をしなくては、「改革」は思わぬ方向に迷い込んでしまうのです。そして「改革」をすすめていくにあたっては、「目的」に向かうための「課題」の中で、何が「幹」で何が「枝葉」かをキッチリと分けて考えなくてはいけないのです。

この点で考えると、国民的利益追求の下議論されている「公務員制度改革」の「目的」に照らした時、谷総裁が言っている反対意見の論点は仮に憲法に係る問題であろうとも現時点では「枝葉」であるということなのです。もちろん、彼が言っていることそのものは間違っている内容ではないと思いますし、それを否定する必要もありません。彼の巧みな点は、彼自身が一番そのことを知っていながら、意図的に今「枝葉」の問題を大きく際立たせることで、本筋である「幹」の問題が先に進むことをさまたげようとしている点です。難しそうな「課題」を投げて「幹」か「枝葉」か分かりにくい状況をつくり停滞させる、頭の悪い相手に対する常套手段ではあるのですが…。

「枝葉」の話は「幹」の議論が固まりつつ進む中ですればいい話で、改革推進本部は「公務員の労働基準法的労働権保護の問題は、議論が進む中で別途手当を検討する」と謳うことで前に進めていけばいいと思うのです。ところが今、政治家もマスメディアの報道姿勢も谷総裁の「これはおかしい」「これはどうなる?」「それは法的に整合性がとれない」と言った横ヤリに、完全に翻弄されています。

「改革」は明確な「目的」の下、まずあらゆる既存の枠組みを飛び越えて考えるからこそ「改革」できるのであって、それに縛られるような正論であるかの如き“目くらまし”に影響をされていたのでは「改革」たり得ないのです。この考え方こそまさに「ゼロベース思考」なのですが、彼ら高級官僚は当然そんなことも百も承知の上、分かっていながらも決して口にはしないのです。

官僚も「改革」に際しては、谷総裁が言うような「国会で決定すれば従うのみ」でなく「枝葉」については法案可決後もそれぞれの立場で意見し、よりよい中身にしていけばいい訳です。当然そのつもりでいながらも、あえて今いろいろなことを法的な根拠をにじませつつ意見して、議論を混乱させているのでしょう。“頭のいい”エリート官僚たちですから、ロジカルじゃない連中を手玉に取ることなどお手のもの…、ですよね。

こうして考えると、政治家も国民もエリート官僚に完全になめられている訳です。情けないのは政治家です。もっとロジカルに官僚に対してモノを言い、「改革」の「目的」を見失わない「改革」の進行を断行して欲しいと思います。もうひとつ、谷総裁を“渡りの帝王”だなんだと感情論的に世論を煽るマスメディアも問題です。感情論に陥れば陥るほどロジカルではなくなる訳で、それは彼の思うつぼでもあります。その辺をお分かりでないメディアは、余計なことを一切言わず事実だけを報道すべきと思います。

谷総裁のテレビでの発言を聞き、コンサル的に感じたことを書きなぐってみました。

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