日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

〈70年代の100枚〉No.82~AORの先駆者?ジャズとポピュラーの美しい出会い

2009-09-13 | 洋楽
前回のバーブラ・ストライザンドからコーヒーCMつながりで、ロバータ・フラッグの登場です。

No.82       「やさしく歌って/ロバータ・フラッグ」

ロバータ・フラッグは黒人女性ボーカリストですが、黒人レーベル「モータウン」のアーティストたちとは少し違う立ち位置にいるように思います。マイケル・ジャクソンに代表されるように、どちらかと言えば人種差別に虐げられた貧しいダウンタウン・ストリートから救い出された“才能”といった印象が強いモータウン系のアーティストたちに対して、彼女は大学でクラシックと声楽を学びプロ・デビューした“音楽エリート”なのです。ですから音楽的にも、パワフルでソウルフルなタイプのアーティストが多いモータウン系とは一線を隔して、実に上品かつソフトな歌を聞かせてくれます。

そんな彼女最大のヒット曲で彼女の代名詞とも言える曲が、A1のタイトル・ナンバー「やさしく歌って」です。もちろん曲も素晴らしいのですが、何より彼女のボーカルの美しいこと。シルキー・ボイスとでも言うのでしょうか。他の黒人女性ボーカルとは明らかに異なる、ソフトでジャジーな肌触りがそこにあります。クラシックを専攻し声楽を学んで、しっかりとした基礎の上に立って聞かせるソフトでありながら声量のあるボーカルは素晴らしいの一言に尽きます。彼女の歌の特徴として、「愛は面影の中に」や「愛のためいき」などの代表曲にも一貫して言えることは、極限までやさしくかつ力強くという本当に力量のあるボーカリストでなければできない歌い方をすることなのです。

演奏もまた、そんな彼女のボーカルに程よくマッチしたライト&メロウでジャジーなムードを醸し出しています。そこにはAORのハシリとも言えるようなムードが漂っていて、夜のムードにピッタリとくるとてもセンスの良い雰囲気をつくりだしています。ジャズとポピュラーの融合をこんなに早い段階で、試みていたとは今になって本当に驚かされてしまします。シングル「やさしく歌って」は73年、彼女にとって「愛は面影の中に」に続く2曲目の全米 1ヒット(5週連続)となり、翌年のグラミー賞では最優秀レコード賞、最優秀楽曲、最優秀女性ボーカルの三部門を独占したのでした。

もうひとつ彼女のセンスの素晴らしさは、その選曲にもあります。このアルバムにおける選曲面での出色は、A2「我が心のジェシー」。この曲は、当時まだ無名の少女作曲家ジャニス・イアンの作品を取り上げたもので、素朴な味わいが特徴のジャニスの“若い”作品を実に上手にロバータの大人のムードでまとめあげているのです。彼女は、ジャニスだけでなくキャロル・キングなど、白人作家の作品も積極的に取り上げており、当時の黒人アーティストにはありがちだった逆差別的意識を排除したその姿勢が、より一層の音楽的幅を広げさせたとも言えるのではないかと思います。ちなみに彼女、矢沢永吉のファンだそうで、“音楽後進国”の作家である彼の曲も何の衒いもなく取り上げてもいるのです。

1937年生まれだそうですから、御歳72歳!この年齢にして昨年、「ビルボード・ライブ東京」で全く衰えを知らない素晴らしい歌声を披露してもくれました。一日でも長く現役シンガーとして活躍をして欲しい、まさしく“音楽界の至宝”と言える存在であると思います。ぜひまた日本にも来て欲しいですね。