日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ67~「すぐに反応する」は組織を変える“魔法の力”

2009-09-04 | 経営
いろいろな企業とお付き合いをしていると、共通項的に気がつかされる課題点、問題点にたくさん出会います。コンサルタントが執筆している本の中身はたいてい、そういった「共通項」を抜き出してその対処法や解決法を提示しているものなのです。ですから書店でいろいろなビジネス書を手にとって読んでみると、書き手によって表現が違うケースだけで、実は同じような問題点を指摘している本がとても多いことに気がつかされます。なぜそんなに同じ問題を取り上げた本が多いのかと言えば、そういった問題点は各コンサルタントから見て「解決できれば確実に企業が良くなるのに、どこの企業もなかなかできていない」と実感させらるからに他なりません。

そんな問題点の中で、昔から言い古されていながらなかなかできていないものの代表として「クイック・レスポンス」があります。ご存知「すぐに反応する」ことです。これ80年代から90年代前半あたりまでは、対顧客対応の基本としてよく言われていた言葉なのですが、90年代後半以降の不況下での効率化経営が叫ばれる中で、次第に対顧客に限らずあらゆる業務において求められるようになってきました。ところがこれが、なかなかできていない。私なども、行く先々の企業で「社内クイックレスポンス」の不徹底がいつも気になっています。

「すぐに反応する」ことの重要性をより際立たせ徹底をはかるために、著作「コンサルタントの習慣術」の中で野口吉昭氏はこれを「ランドセル・サイクル」と名づけて推奨しています。小学生が学校から帰ったら、まず宿題を済ませ教科書やノートなど明日の持ち物の整理をまず済ませてから遊びに行く、ということになぞらえたもので、要は「決められたこと、やらなくちゃいけない指示事項等はすぐに対応する」ことを例えているわけです。なかなかうまい命名だなと感心させられます。私自身、確かに小学生の頃はまったく「ランドセル・サイクル」ができていなかったクチなのですが、今はオフィスに戻ると極力早めに「今日の復習」をパソコンに打ち込んで整理し、その日の仕事の流れや感覚の“体温”が冷めないうちに次への反応することでパフォーマンス向上をはかっているのです。このやり方をするようになってから、仕事の効率アップと密度の上昇を実感しています。

何事もそうですが、間をおいて対応しようとすると、当初の指示命令を受けた経緯を思い出すのに余計な時間を使ってしまい非効率に陥ったり、当初の自分が感じていた意識や感覚に戻すことができずにパフォーマンス水準の低下につながったりします(「ランドセル・サイクル」の効果は実践すれば確実に実感できるものです。どんなお仕事の方にもおすすめいたします)。企業各社を見渡してみると、この「ランドセル・サイクル」が定着している組織は実に少ないのです。我々が「『すぐに反応する』を心がけましょう」とお話ししてもなかなかできません。指示事項にすぐに取り組まない、やらなくてはいけないことをなかなかやらない、何事もなかったかのようにやり過ごす…、いずれにしても、「決まったこと」「指示されたこと」にすぐに反応できる人の少なさには、本当にあきれてしまうほどです。特に中小企業でこれができる組織風土が根付くなら、業務運営は劇的に好転するのになぁと常々思っております。

では、なかなかこれができない理由はどこにあるのでしょう?その答えは大抵、経営者や管理者にあります。端的に申し上げれば、手本となるべき社長や管理者自身が「ランドセル・サイクル」を回すことができていないことと、経営者・管理者による指示事項に対する反応確認意識の欠如です。上に立つ人が出来ていないことを、部下が率先して取り組む訳がありません。このことは絶対に忘れてはいけません。「うちの会社は何かをやれと言ってもなかなか取り組まなくて困る」、そんな経営者の愚痴をよく耳にしますが、我々から見ると下をとやかく言う前に上に立つ管理者自身の「ランドセル・サイクル」が回されていない、さらにはその上に立っている経営者が「忙しい」を言い訳にして自身の「ランドセル・サイクル」を回していないケースがほとんどなのです。

一方の経営者・管理者の指示事項に関する反応確認意識とは、指示したこと決定したことを必ず翌日にはどんなに忙しくとも忘れずに「やったか?」「どこまでできた?」と確認することです。もしその段階でまだ指示に対して反応していなければさらに翌日再度確認する。指示事項の反応確認は、経営者・管理者の重要な任務なのです。これがないと、「忘れてくれればラッキー」という“忘却待ち怠け心”が部下の意識を占有して「すぐに反応する」が実行されません。これについても「忙しくていちいち確認できない」とおっしゃる経営者の方もいらっしゃるでしょうが、経営者が「忙しくてできない」を口にすることは、「経営者として無能です」と言っていることとイコールであるとレバレッジ・コンサルティングの本田直之氏は言っています。どうかその点をお忘れなく。「指示されたこと」「決定したこと」の反応確認が必ずされるという風土が根付けば、組織に蔓延する“忘却待ち怠け心”は確実に退治できるのです。

何事も「すぐに反応する」を実践しそれが組織風土になったなら、見違えるほど良い企業になることは間違いありません。「すぐに反応する」はお金をかけずに企業を変える“魔法の力”なのです。でもその“魔法の力”を借りるには、まず経営者自身が「ランドセル・サイクル」を回して「すぐに反応する」を実践し、部下への指示には必ず翌日の反応確認を忘れないことが前提条件でもある訳です。以上を社長が意識して経営者の“魔法”ぜひ活用してほしいと思います。