日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

名選手の陰に、名コーチあり!

2008-08-14 | その他あれこれ
時節柄、オリンピックネタが続きますが、ご容赦を。

北島康介選手が200メートル平泳ぎも制して、見事2大会連続2種目金メダルの快挙を成し遂げました。素晴らしい!前回100メートル優勝の際にクローズ・アップされたのは、決して平たんではなかった本人の苦難の4年間の話でしたが、今回200メートル優勝後は盛んに、平井伯昌(45)コーチの存在がクローズ・アップされています。

コーチと言えば常に裏方であり、これまで日本ではスポットがあてられることが少なかったように思います。ところがここ最近、国内でもビジネスの世界における「コーチング」が一般的になってきたこともあってか、「コーチ」という職業そのものが、ようやく少しだけ“市民権”を得てきたような感じがします。実は「コーチ」は選手に負けない、いやある意味選手以上のプロフェッショナルですから、もっともっとスポットがあたってしかるべきであり、平井コーチのような方がマスメディアに取り上げられることは、とても喜ばしいことであると思っています。

さてここで純粋な疑問、「コーチ」って何でしょう?我々日本人はどうも「コーチ」というと「先生」とか、「教える人」の印象が強くあるのですが、本来「コーチ」とは「教える人」ではないようです。語源は、「馬車=コーチ」からきているそうで、「牽引する」といったところがその直訳のようですが、実際に「人が人をコーチする」という状況には、ピタッとはまる日本語訳は存在しないようです。

繰り返しますが、明らかなのは「コーチ」は「ティーチ」=「教える」ではないと言うことのようです。ビジネス・コーチングの専門家に話を聞きますと、「コーチング」は「本人の潜在能力を自発的に上手に引き出す手伝いをすること」だそうで、「教える」のではなく「気づかせる」ことでより大きな力を発揮させるのが、本来あるべき「コーチ」の仕事のようです。

その意味では、知識や技術に秀でた人、過去に名選手であった人が必ずしも名コーチになれる訳ではなく、選手の潜在能力を引き出すことが上手な人であれば、自身が過去に実績を残していない選手でも名コーチになれる訳です。以前当ブログで取り上げた「メンタル・コーチング」の著者で、無名選手軍団をプロ野球の日本一チームに育て上げた前北海道日本ハムファイターズ・ヘッドコーチ白井一幸氏などは、まさにその代表格と言える人物かもしれません。

白井氏は選手時代に大きな実績がなかったことが幸いして、技術的なことはさておき、とにかく選手のメンタルな部分に語りかけることで、本人たちの気づいていなかった能力を自発的に次々開花させることに成功したのでした。まさに、「本人の潜在能力を上手に引き出す役目」を地でいった“名コーチ”であると言えそうです。

話は戻って、北島選手のコーチである平井コーチのお話。テレビでいろいろなエピソードを聞いていると、やはり、押しつけたり、強制したり、教え込んだり、は氏の役目ではなかったようです。徹底的に話しかけ、本人に「気づき」を与えることで、100メートルでも200メートルでも他を寄せ付けない、見事な競泳スタイルを北島選手自身が作り上げるための手伝いをしたそうです。もうひとつ、「泳ぐのはあくまで康介」という言葉に象徴されるように、2人の関係は意外とサバサバしたもののようです。実はその点こそが、名コーチのポイントのようにも思えるのです。

日本では、「一心同体」と言えるような「コーチ」ほど名コーチと思われてきたフシがあります。この手のコーチは選手の調子がいい時はいいのですが、調子が狂い始めたときなど逆にベッタリしすぎることで、同じように悩みすぎてしまったり同じように落ち込んでしまったり、心配事を一緒に抱えてしまったり、それではなかなか「気づき」を与えることはできないという弱点が露呈するようです。肉親がコーチを務めるとこのケースに陥りやすく、ある程度以上の能力開花が難しいように思います。

しかもコーチが「親」ともなれば、ついつい選手に自分を投影させがちになり、「コーチ」ではなく「ティーチ」になってしまうのが必然です。こうなると「気づき」による「潜在能力の引き出し」は、なかなか難しいようです。重量挙げの三宅親娘、レスリングの浜口親娘がこのケースです。三宅親娘は肉親コーチのジンクスどおり、今回は残念な結果に終わりました。前回連続決勝進出に沸いた女子レスリングにあって、唯一決勝進出できず銅メダルに終わった浜口親娘も、この時は同じ「壁」に阻まれたようです。果たして今回どうなるでしょうか。銅メダルでも十分立派ではありますが、肉親コーチの「壁」を乗り越え悲願の決勝進出→「金」獲得なるのか、注目したいと思います。