日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

〈70年代の100枚〉№34 ~ ビートルズ伝説からの脱却

2008-08-02 | 洋楽
ポール・マッカートニーです。前にも書いたように、個人的にはこの次の作品「ヴィーナス&マース」がベストなのですが、一般的に最高傑作はこのアルバムということになるのでしょうか。

№34    「バンド・オン・ザ・ラン/ポール・マッカートニー&ウイングス(US盤)」

ビートルズ解散後のポールは、出すアルバム出すアルバム好評とは言い難い状況が続きます。ファンの期待が大きすぎたこともあるのでしょうが、理由のひとつには解散後の彼自身の作り出す作品がどれも、ビートルズの幻影をひきづった状態を漂わせていたということ。それがかえって、ジョンがいない味気なさみたいなものを感じさせることになり、聞き手のフラストレーションを必要以上に掻きたてたのではないでしょうか。「アナザー・ディ」「アンクル・アルバート」などソロ初期の作品は、名曲でありながらそういったものを強く感じさせる不幸な状況であったのかもしれません。

そんな中ポールは、ビートルズのポールではない自己表現を求めてバンドを結成します。それがウイングスです。71年「ウイングス・ワイルド・ライフ」73年「レッドローズ・スピードウェイ」をリリース。徐々にバンドの形を整えながらも、この2作ではまだまだ完全に脱ビートルズを表現しきれていませんでした。ギターのデニー・レイン(元ムーディブルース)以外は無名に近いメンバーで、彼らが元ビートルズと一緒にバンドをやるというイメージから抜け出せずにいたことが、この2作品を中途半端な出来に終わらせていたように思えるのです。

そして、次作の制作に入った段階でアクシデントが発生します。ナイジェリアのラゴスでのレコーディングという突飛な決定や、妻でキーボード担当のリンダの扱いに腹を立てたメンバーのうち2人が、制作開始直前になってバンドを脱退。さらに現地では、いくつものデモテープが武装した一団に盗まれるという最悪の事態も。このような逆境にあってこそ、ポールとデニーの二人が、バンドの基本とも言える新たな何かを生み出すことに成功したのでした。それが、ビートルズとは全く違う「バンド・オン・ザ・ラン」以降のポールの基盤たる「バンド感性」なのです。

収録曲の白眉は、何と言ってもA1のタイトル・ナンバー(全米第1位)。3つの曲が合体したかのようないわば“ミニ組曲”的構成の素晴らしい曲です。この発想自体は、ジョンがビートルズ時代に作った「ハッピネス・イズ・ウォームガン」にヒントを得たことは確実なのですが…。A2「ジェット」は日本で最大のヒット曲(全米では最高位第7位)。イントロのかっこよさ、天性のメロディをよりハードにまとめて「ビートルズではないポールがここに誕生しました!」、そんな感じさえします。

A3「ブルー・バード」は、自身のビートルズ時代の「ブラック・バード」へのセルフ・アンサーソングでしょうか、美しいフォーク・バラッドはビートルズ卒業を主張しているかのようです。A5「レット・ミー・ロール・イット」は、「ジェット」と並んで今だにステージで欠かせない“新生ポール”を象徴するロック・チューンです。

アルバムは見事、全米№1に輝き、ウイングス黄金時代の幕開けとなりました。先に書いたアルバム名の後に(US盤)としたのは、US盤のみB3に先行シングルの「愛しのヘレン」が収録されているからです。この曲自体の良し悪しがポイントではないのですが、B3の位置に入っているかいないかで、アルバムの印象がかなり違うんですね。先にあげた目玉曲はすべてA面収録ですから、「愛しのヘレン」がないとB面はやや華のない4曲という感じで物足りないのです。てな訳で、おすすめはUS盤です。