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バイロイト詣で(16-18) 『パルジファル』

2013-04-17 07:00:50 | 音楽の慰め

 

16)あらすじ

 

『パルジファル』については、日本を発つ前の予習ができなかった。

「ペーパー・オペラ」もリブレットも絶版で入手できなかった。皆はどうやって準備しているのだろうと不思議に思った。

 

私の入手したのは、インターネット百科事典 Wikipedia の「パルジファル」の項だ。それによると、この「舞台神聖祝祭劇」は、中世スペインを舞台にして、聖杯を守る城の王、王を誘惑する女(クンドリ)、流れ者の無垢な若者(パルジファル)、そのパルジファルをも誘惑するクンドリ、聖槍によって王の病を治すパルジファル、そして新しく王になることを誓うパルジファルが描かれている、とある。

 

聖杯や聖槍のモティーフなどはキリスト教的に見え、実際、現在でもイースター(復活祭)の時期にこの「舞台神聖祝祭劇」が上演されるが、Wikipedia では、ワーグナー独自の宗教色が強いと解説している。「純潔」だとか「官能」だとか「救済」だとかの哲学がワーグナー独自のものだというのだ。

 

今回の演出のスタッフを記しておこう。

 

演出:シュテファン・ハーハイム

照明:ウルリッヒ・ニーペル

衣装:ゲジーネ・ヴェルム

 

17)ナチスの時代

 

さて、今回の『パルジファル』の演出で最も特徴的で、かつ、刺激的なことは、その時代設定だ。全編に亘って、ナチスの時代が正面から取り上げられている。具体的に記すと;

 

第1幕では、第二次世界大戦のドイツ軍と連合国軍との戦闘の記録フィルムが、背景に映写される。この時点では何のことか分からなかった。

 

第2幕では、野戦病院が舞台に現われ、看護師が早変わりして、慰安婦になる場面がある。ドイツ人の直截的性表現の一端を垣間見た思いだ。

 

また、Wikipedia の「パルジファル」の項が「城は崩壊して花園は荒野と化す」と表現している個所がある。そこでは、ナチスの「鍵十字旗」と大きなエンブレムが立ち上り、やがて、それぞれが急激に落下する、という演出をしている。

大きなエンブレムは落下する時に大音声を上げ、破片が砕け散った。隣りの席のご婦人が「おお!」と声を上げた。

 

第3幕で、パルジファルが王となることを宣言する場面では、どこかで見たような法廷が出てくる。そう、ジョン・フランケンハイマー監督の映画『ニュルンベルク裁判』の法廷場面そっくりなのだ。

 

このように、シュテファン・ハーハイムの演出は、いやでも、ナチスの時代を思い起こさせることを意図している。

 

しかし、ワーグナーの原作の歌詞などが変えられているわけではなさそうだ。

結局、ワーグナーの描いた10世紀スペインと今回の演出に取り入れられたナチスの時代がダブル・イメージで観客に残されるのだ。その意味を読み解くことは簡単ではない。

指揮は、ダニエレ・ガッティ。 

 

18)藤村実穂子

 

今年の『パルジファル』の公演で、私たち日本人の最も注目したのは、クンドリ役として藤村実穂子が起用されていることだった。といっても、私は現地に到着するまで、その事実を知らないでいた。昨年の同じ公演のパンフレットでも藤村実穂子の名が見えるから、昨年に続いて起用されたようだ。

 

藤村実穂子のプロフィルを、バイロイト音楽祭2009パンフレット『キャストとスタッフ』と、日本に帰ってからインターネットで調べた情報を併せて紹介すると;

 

東京芸術大学とミュンヘン音楽院を卒業。グラーツ歌劇場でデビュー。以降、各地のオペラハウスに出演し、交響楽団との共演を行っている。

バイロイト音楽祭には2002年にデビュー、というから、今年で8年目。

その間、2002年に出光音楽賞を受賞している。

 

バイロイト音楽祭で東洋人が活躍することは少ない。河原洋子(ソプラノ)が『ニーベルングの指輪』のラインの乙女役で出演したのが、1972年-75年だから、30年以上も前のこと。指揮者の大植英次が『トリスタンとイゾルデ』を指揮したのが、2005年。1年だけで降ろされてしまった。

 

今年のバイロイト音楽祭2009パンフレット『キャストとスタッフ』には、韓国人らしい名前が何人か載っているが、藤村実穂子は東洋人の中では飛びぬけた存在である。

 

クンドリは、魔法使いクリングゾルの手先で、アンフォルタス王やパルジファルを誘惑するという難しい役柄。第1幕から第3幕まで出ずっぱりの大役だ。

 

オペラではよくあることだが、ある登場人物が歌っている間、ほかの登場人物は手持ち無沙汰になりがちだ。そこで、アクションをさしはさむことがよくある。クンドリにもそのアクションが多いのだが、時によっては、歌舞伎の「見得」のように見えることがあるが、ヨーロッパの観客にそのことは伝わっているだろうか?

 

時おり、髪をかきあげるしぐさが少女のように見えることがある。油で固めるか、ピンで留めることを考えたほうがいい。

 

彼女のソプラノはメゾ・ソプラノだが、やや細い感じがする。体型も細いのだ。『ニーベルングの指輪』のブリュンヒルデ役のリンダ・ワトソンとは大違いだ。藤村には、あと10kg増やして、声も太くしてもらいたいと願う。

 

バイロイト最後の夜は、嵐のようなカーテン・コールの中で、日本人として誇らしい気持ちを味わった。  (2009

 

 



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