ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

あすなろ物語 井上靖

2022-05-09 09:27:52 | 
多分、小学生の時の課題図書が表題の書であった。

嫌な本だと思った。負け犬の嘆きだと感想文に書いたら担任の先生から大人になったらもう一度読んでみなさいと言われた。

あまり先生の言うことを聞かない子であったが、不思議とその言葉は覚えていた。ただ好きな作品でなかったので、当然に読み返すことなどしなかった。

しかし作者の井上靖はかなり好きな作家である。そう考えると、嫌っていたこと自体ある意味不思議、不可解であることに気が付いたのは、わりと最近のことだ。

なんとなく児童文学だと決めつけていたせいだとも思うが、やはり小学生の頃の嫌な印象が強かったことが、読まずにきた原因だと思う。なお、小学生の頃に読んだものは、子供向けに抄訳されていたかもしれない。そう気が付いたので、これは是非とも再読せねばと古本屋で買い込んであったが、例によって未読山脈に紛れこんでいた。

そこでようやくの再読であった。

率直に云えば、自身の幼稚さに呆れてしまう。誰だって翌檜だ。いつの日にか檜になりたいと思いつつ、決してなれずにいる。檜には檜の役割があり、翌檜には翌檜の役割がある。

憧れを抱くのは良い。しかし、憧れが実現しなかったからといって卑下する必要はない。成功には幸運が必要だが、失敗には必ず原因がある。その失敗を正しく認識して次に活かすことこそ王道だ。

作者である井上靖は迷走した半生を送ったのは間違いない。しかし、迷い悩みつつも、自身の半生を冷静に省みて、その経験から作家となった。彼の子供時代に作家という檜の未来は見えなかったと思う。だから、檜になれない自分を自虐しつつも、翌檜の木として立派に育った。

余談だが、檜が高級木材であることは有名だが、翌檜もまた貴重な高級木材である。ちなみに檜は世界中にあるが、翌檜は日本特産の木である。使い方によっては、檜よりも有能な木材でもある。

ところで私は翌檜であろうか。正直、あまり自信がない。そろそろ自身の寿命の終わりを意識しなければならないが、未だ檜になれずにいる。せめて立派な翌檜として人生を終えたいものだ。

出来るかな?ちょっと自信がない私です。
コメント (2)
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