ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

魚類 フランシス・オマニー

2011-06-13 13:46:00 | 

かつて経済成長著しい日本人を馬鹿にする科白として、魚臭い奴らと言われることがあった。

実際問題、世界の漁獲高の国別のトップは長年、日本が占めていた。魚食いと揶揄されても仕方ない面があるのは事実だ。肉食が中心の欧米からすると、自国の領海にまでやってきて、魚を大量に捕獲する日本への苛立ちもあったのだろう。

だが、これはヒドイ偏見だと思う。欧米、とりわけヨーロッパが肉食を中心とするようになったのは、18世紀以降のことだ。むしろ長年にわたり魚を主食にしていた歴史的事実を無視した、とんでもない暴言だろう。

余談だが、欧米が肉を多く食べる、食べられるようになったのは産業革命以降だ。囲い込み運動などで農民から農地を奪い、工場労働者に仕立て上げる一方、農地を牧畜に転用したからこそ、大量の食肉の供給が可能になったからだ。でも、魚を食べないわけではない。

実際、今でも地中海周辺の国々は魚を良く食べるし、北欧諸国も同様だ。ただ、日本人のように魚を生では食べない。
痛み易い魚を生で食べるなんて、なんて野蛮なんだと安易に考えたが故だ。

これは日本人が海の近くに暮らし、流通機構が整備されているが故に、痛み易い魚を生で調理することが可能であったからに過ぎない。漁港から素早く運べる流通があってこその刺身のような生食が可能だった。

それゆえ、漁港から遠い山間の町では、欧米同様塩漬けの魚が普通であった。痛み易い魚を生で食べるリスクは、当然日本人も承知していた。それゆえ、魚を研究して様々な智恵をしぼった。

それは魚の名称が極めて多いことからも伺われる。魚類に関する研究は、古くから盛んであり、世界で一番水族館が多い国であるのも偶然ではない。

当然、魚に関する本も数多く出版されている。自然科学の本を読むのが好きな私も、子供の頃から沢山読んできた自負はある。

しかし、表題の書には感心した。これほど体系的に魚類について、分りやすく解説された本は初めてだった。初歩的な入門書と、専門書の中間的な書き方で、視座を広く持ち、学問的細かさに拘らず、専門用語をなるべく避け、それでいて高度な知識を提供してくれる。

発行元は、雑誌「LIFE」で1969年に刊行された自然科学シリーズのなかの一冊だ。今となってはいささか古い観は否めないし、魚類に関する研究の進歩に大きく遅れてしまったのは事実だ。

それにも関らず、大きな誤りは、ほとんど見当たらなかったことに驚いた。おそらく事実に基づいた記述をベースにしているが故だと思う。これはたいしたものだと感心しました。

おそらく、図書館か古本屋でしか入手できない本だと思いますが、目にしたら一度は手にとって欲しいと思います。

コメント (4)
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