のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

あいちトリエンナーレ・レポ5

2010-09-26 | 展覧会
さて9/16にご報告しましたように東横インに一泊し、『鳥の物語』を読みふけり、翌日はてくてく歩いて名古屋市美術館へ。途中の道ばたで思いがけなくストイコビッチの足形と遭遇いたしました。「ピクシーストリート」なのだそうで。

ほぼ開館と同時に入ると床一面にお香を敷き詰めたかぐわしい作品や、深海魚めいた光を放つ、生物と機械のあいだのようなホアン・スー・チエ Huang Shih Chieh の作品が迎えてくれます。



刺激に対して一定の仕方で反応しながらも、周囲の環境と自身の体勢の微妙な変化によって有機的な動きをしてみせるへんてこマシーンたち。
『生物と無生物のあいだ』の福岡伸一さんは生命は自動機械ではないよと再三おっしゃっておりますし、生物学者の御説に対してのろごときが何をか言わんやではございますけれども、やっぱり生物ってのはつまる所、機械と変わらないんじゃないのかなあ、と思うわけでございますよ。ただプログラムと構造における複雑さの度合いがものすごく違うだけで。いやそれとも、そのものすごい度合いの違いこそが決定的な壁なのかしらん、などと考えながらぶらぶら進んで行きますと、突如として後方から美術館にあるまじき喚声が沸き上がり、見る間に小学生の大集団がなだれ込んでまいりました。
幸い、すぐ近くに蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)Tsai Ming Liang のインスタレーション作品が。何が幸いかと申しますと、仕切られた空間に鍵付きの小部屋がたくさん並んでいるという、避難所にはもってこいの作品だからでございます。

背後に迫り来るちびっこの波を感じつつ辛くも小部屋のひとつに飛び込み、しっかり戸を閉め、鍵をかけ、嵐が通り過ぎるのを待ちます。小部屋にはマットレスを敷いた寝台と、テレビとごみ箱とひと巻きのトイレットペーパーが設置されております。テレビには、汚げな石壁に囲まれた狭い空間にこれまた汚いぐすぐすのマットレスが放置されているという閉塞感いっぱいの風景が映し出されております。個室そのものは戸から壁から寝台から全てが真っ白で、不快なことはございませんが何とも殺風景でございまして、こぎれいな独房あるいはいわゆる個室ビデオ店の一室といった趣き。いえ、どちらも入ったことはございませんが。
壁が高いので、寝台の上に立ち上がっても通路や他の部屋の様子は見えません。隣の部屋に人がいたとしても、物音を立てないかぎりはお互いの存在に気付きません。昨今話題の「無縁社会」を象徴するような作品でございます。

もっとも室外に吹き荒れるちびっこたちの喧噪のせいで、ワタクシにとってはこの「無縁社会の縮図」が大層居心地のいい避難所となったのでございました。そもそもその「無縁社会」にしても、人付き合いの甚だ苦手なワタクシには、地縁社会血縁社会よりもずっと生きやすいというのが正直な所。もとより最期は運が良ければ屋根のある所で孤独死、そうでなければ一文無しになったあげくに橋の下かどこかで野垂れ死にするんだろうとは、昔から思っておりますし。
とはいえ飽くまでもワタクシ自身はこれでいいというだけの話であって、隣室でお年寄りが倒れてていることに誰も気付かなかったり、悩みを抱えた人が相談する相手もいないという社会がよいと申しているのではございません。地縁血縁に頼らずとも個人がそこそこ安心して暮らしていける社会システムが構築されてほしいのです。そのためなら税金が多少上がっても構わないと思っておりますけれどもできれば年収150万ののろさんよりもいっぱい儲けてる法人さんからがっつり取ってね。

ああ、それにしても子どもらのうるさいことよ。
背格好から判断するにもう5年生か6年生ではあろうに、狭い通路を走り回るわ、ドアは乱暴に開け閉めするわ、作品の壁はバンバン叩くわ、あげくにビル解体工事現場での会話もかくやとばかりに大音声を張り上げるわ。ここは一体どこなんだと気が遠くなりましたですよ。言っても無駄と思ってか、引率の方もボランティアの監視員さんもいっこうに注意する気配がございません。
もちろんワタクシは、小学生は美術館に行くなと申しているのではございません。芸術に触れるのはたいへん結構なことであり、むしろ推奨したいことでございます。しかし美術館や図書館といった公共の場では静かにするべしという基本的マナーぐらいはガキの、いや失礼お子様の時分に身につけておいてしかるべきではございませんか。そういうことを学ばずに大きくなってしまった人が、大学に入ってから図書館の机の真ん中にお菓子を広げて椅子の上には足を乗せ、かたわらの500ml入り紙パックジュースからは蟻が寄って来そうな匂いをあたり一帯にまきちらしつつ友達とひたすらおしゃべりに興じたり、至る所に張られた「携帯電話禁止」の張り紙を尻目に「あ、もしもし~、今図書館~。ううん~全然いいよ~」と楽しげに通話をおっぱじめ、図書館員に注意されるとうるせーなと言わんばかりの視線を投げかけながら尚も会話を続け、甚だ不当な視線を浴びせられた図書館員が(あからさまな館内秩序霍乱行為に堪え難い思いを味わいながらも)すぐにその場を立ち去る気はないということが分かってから、ようやくしぶしぶ電話を切る、という手合いになるのでございましょう。嘆かわしきことかな。
何です。例えがいやに具体的ですって。
ええ、まあ。

どうもかなりトリエンナーレから話が逸れてしまいましたが、まあ以上のようなことを、真っ白な個室の真っ白な寝台の上で頭を抱えて考えたわけでございます。


あと一回続きます。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿