のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『家の記憶』展

2009-06-17 | 展覧会
ギャラリーテラで開催中の『家の記憶』展に行ってまいりました。



時代ごとの町家、歴史感じて  中京 ギャラリーで写真展:京都新聞
ギャラリーテラ「家の記憶」と家垣鹿之助 - マン・レイと余白で

ギャラリーテラは寺町通にたたずむ竹紙専門店兼ギャラリーでございます。
大正時代に建てられたと見られる建物は、そこかしこにモダン建築の趣を残しております。
かつては写真館だったというこの建物が生まれた時から、戦中、戦後を経て現在に至るまで、そこに暮らした人々の写真、そしてその人たちが撮った写真をもとに「家の記憶」を辿る、小規模ながら味わい深い展覧会でございました。

初めの家主で建物を建てたのは銀行家の家垣鹿之介氏。↑右端にいる丸眼鏡の人でございます。
ライカを愛用し、公募展で何度も受賞するなど写真に造詣が深かったそうで、氏の作品も数点展示されております。
これが素晴らしい。
瓦屋根やカフェーのテーブル、道ばたに並んだ柵など、日常的で具体的なモチーフでございますが、写真として切り取った時のかたちの面白さ、光と影の作り出す造形的な面白さが、洒脱な視線で捉えられております。
1992年にアメリカ人コレクターがご家族を訪ねて来られ、氏の写真を多く譲り受けてNYで個展を開いたというのこでございます。氏は有名な写真家でも何でもないわけでございまして、その作品が海外の美術愛好家の目を引いたというのは、作品そのもののクオリティを物語るものではないでしょうか。

御本人のポートレイトを見ますと、ピンストライプのスーツをパリッと着こなし、いかにもモダンボーイといった風貌でございます。
氏の家族写真もございまして、こちらは時代の流れを感じさせる印象的なものでございました。
一枚は昭和15年頃、長男が慶応に入学した時に撮影したと思われるもの。
ご母堂を中心に家垣夫妻、娘さん、そして2人の息子さんがきちんとフレームに納まっております。
細身にパリッとスーツの家垣氏は自分より背の高い長男の隣で、いかにも写真慣れしているような気楽な姿勢で誇らしげに微笑んでおります。
もう一枚は昭和18年頃、長男の出征前に撮ったと思われるもの。
氏は「国民服」に身を包み、こわばったような「気をつけ」の姿勢で、その顔に微笑みはありません。
ひとつの額に収められた二枚の家族写真。
一見あまり代わりばえのないその二枚の間に、暗さを増して行く時代の空気が深い溝となって横たわっておりました。

寺町界隈に古くからお住まいの方々も展覧会を見にいらっしたようで、写真を指差しながら思い出語りをする声も聞かれました。古参の皆様も、のろのような新参者も「家の記憶」をおのおのの視線で受け取ることができる本展。
のろはなにか無口な人の打ち明け話を聞いたような、しみじみとした気分でギャラリーを後にしたのでございました。


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