のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

だまし絵展2

2009-10-27 | 展覧会
10/23の続きでございます。

17、8世紀のだまし絵を集めたセクションから、オヤと思ったものをもうひとつ。
ヤーコプ・マーレルの『花瓶の花』という作品でございます。
(↑リンク先の画像は展示されていた作品のものではございませんが、モチーフはほぼ同じとお考えください)

奥行きの狭い石造りの台の上に、豪奢な花々を活けたガラスの花瓶と、四つのサクランボを乗せた金属の皿が描かれております。
よく見ると、花瓶の表面にはこの絵を描いている画家の姿とアトリエの風景が映り込んでおります。
なるほど、ここがだまし絵なのだな...と納得しかけましたが、さらによくよく見ると、映り込みの中ではサクランボが皿の上にはございません。台の上に、しかも狭苦しい台の上ではなく広々とした机の上に、散らばっているのでございます。
こはいかに。
花瓶が置かれているのは、すぐ後ろに壁の迫った狭い台の上という、殺風景で閉塞した空間でございます。それに対して映り込みの中には、光が降り注ぐオランダ風の窓やたっぷりとしたカーテンに飾られたやや乱雑な、そのぶん生き生きとした画室風景が広がっております。
画家がだまし絵効果を狙って描いたのか、それともアトリエで正確に描いた花瓶をそのままヴァニタス風の殺風景な背景にはめ込み、かつサクランボを描きなおすのをおっくうがったためにこうなったのか、それは分かりません。しかしおとなしい静物画の顔を装いながらその実、ガラスの花瓶の中に別の世界を閉じ込めているこの作品、何やら心地よいめまいを感じさせる魔術的な魅力がございました。

ちなみにその向かいには地味~にスルバランが。
リストには「特別出品」とありますが、何でございましょうね。
キリストの顔を写し取ったという聖顔布を描いた作品でございまして、ルパート・エヴァレットみたいなちょっと珍しい顔立ちのキリストが描かれておりました。

このセクションのあとには19世紀アメリカで突如流行したスーパーリアル画と、日本のだまし絵のセクションが続きます。
こってりと緻密に描かれた油絵のあとに見る絹本掛け軸や錦絵は、ダシとわさびのきいた麺つゆでいただく冷そうめんのような清涼感がございました。「だまし」も軽妙でユーモラスなものが多く、怒濤の20世紀セクションの前のいい箸休めになりました。

20世紀セクションの何が怒濤って、エッシャーとマグリットの二代御大に加えてダリはいるわマン・レイは出てくるわ、ヴァザルリは向こうへ行ってしまうわ福田美蘭はナナメ5度の角度で壁にめりこむわ、そりゃもう大変でございます。
セクション冒頭の解説文で、その絵画技術が思いっきり「月並み」と言われてしまっておりますマグリット。



冷静に見ると確かにそうでございまして、ものによっては下手っぴいですらあります。それなのになぜか、すごくうまい絵のような気がしてしまうんでございますよ。これも一種のだまし絵効果でございましょうか。

しかしまあ
だまし絵の御大もシュルレアリスムの寵児も差し置いてのろに強烈な印象を残したのは、パトリック・ヒューズの『水の都』でございます。新日曜美術館で取り上げられていたのでそのトリックは分かっていたのですが、それでもなお衝撃的な作品でございまして、自分の目が信じられなくなりました。

A Patrick Hughes Reverspective Painting



こう、ずっと見てまいりますと、17~19世紀のだまし絵は「現実とはこうであるはず」という送り手と受け手双方の了解にのっとった騙しかたであるのに対して、20世紀のそれは、受け手が当たりまえのものとして持っているそうした了解を裏切り、揺さぶるものとして働いているように思われました。400年に渡るトリック的な作品にまみれてその最後に現実を揺さぶるような作品がどっと待ちかまえていたものですから、あ~面白かったと満足しつつも、美術はいったいこれからどこに向かって行くのだろうとちょっと不安な気持ちを抱いて企画展示室を後にいたしました。
まあそのおかげで、天井の低い2階の常設展示室に足を踏み入れ端正な小磯良平作品に囲まれますと、いつにもましてホッ と落ちついた気分になったのでございます。






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2 コメント

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Unknown (みずの)
2009-10-30 21:19:18
パトリックヒューズの水の都、逆遠近錯視って面白いですよね。
ヤフオクで「水の都」のレプリカ売ってるのをみつけました。もしきょうみがあったらみてみられたらどうでしょう?
「水の都」で検索するとでてきます。
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Unknown (のろ)
2009-10-31 22:50:58
みずの様、情報ありがとうございます。
この作品は発想といい効果といい、本当に衝撃的でした。
単純なトリックでありながら、見る/見えるという私たちの多くにとって当たり前の感覚に、大きな疑問符を突きつけている作品だと思います。
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