のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

ボルゲーゼ美術館展1

2009-12-08 | 展覧会
今年の中ごろ、近所に大きなスーパーができまして、そこで買い物をすると、清算が済むと見るやすかさず店員さんがやって来て「お運びします!」という元気な声と微笑みと共に買い物かごをレジから台まで運んでくださるので、ものすごく嫌です。

それはさておき

京都国立近代美術館で開催中のボルゲーゼ美術館展へ行ってまいりました。

京都近美の企画展示室は3階にございます。
エレベーターもございますが、ワタクシはいつもエントランス正面の広い階段をたんたん上ってまいります。兵庫県立美術館も、企画展示室の手前に広々とした階段室がございますね。和歌山県立美術館や広島市現代美術館は、美術館そのものの前に階段がございます。ワタクシはこの、階段を上って美術館へ、というちょっと儀式めいたしつらえが大好きでございます。
今回、階段をたんたん上っていきますと、さっそく迎えてくれるのはベルニーニ作の


ジョン・キャンディ

ではなく、ベルニーニのパトロンであり、美術館の礎となるコレクションを作ったシピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿の胸像でございます。実物のベルニーニ作品とはこれが初対面ののろ。
正直、見る前は ちぇっ と思っていたのですよ。初ベルニーニがおっちゃんの胸像かい...と。だってね、聖テレサの法悦の、アポロンとダフネのベルニーニでございますよ。やっぱり若者の全身像に衣がひらひら~んとまつわっているようなのが見たいじゃございませんか。

ところがどっこい、二重あごに髭を垂らした福耳おっちゃんの胸像に、のろはいたく感動してしまったのでございました。
こめかみに細かい縦皺を刻みつつあごへと垂れ下がるたっぷりとした肉付きの表現。
唇の中央をわずかに開いて今にも「さて」とか何とか喋り出しそうな口元。
傲然とした反り気味の姿勢を取りながらも、どこか人なつこそうなタレ目の表情。
振り返った右頬にできたむにっとした肉だまり、その柔らかそうなことといったら、石で作られているとは信じがたいほどでございます。
上衣のボタンのうち下から3つ目は穴にきちんとはまっておらず、ボタンにあやうく引っかかっている布の表現があまりにも見事なので、ちょいと手を伸ばしてかけ直してやりたくなります。彫刻家がわざわざこんな描写をし、モデルの方も作り直せとは言わなかった所を見るとシピオーネさん、若干ルーズなご性格だったのかもしれません。



加齢による細かな皺や肥満による皮膚のたるみを容赦なく捉えながらも、揺るぎない威厳と富豪ならではの鷹揚さを漂わせた人物として生き生きと描き出した腕前はさすがでございます。

この像の隣には2ミリ四方ほどのピースを無数に組み合わせて作られた、それは見事なモザイク画が展示されております。これまたシピオーネ・ボルゲーゼを描いたものでございますが、こちらはパトロンであった卿をギリシャ神話の詩人に譬えたもの。つまり「ボルゲーゼ枢機卿さまさま!」というヨイショ感に満ち溢れた、いささか微笑ましい作品でございます。
この作品が製作された1618年、卿は42歳のいいおっさんだったはずでございますが、絵の中では豊かな巻き毛にばら色の頬の健康そうな美青年(たぶん、意図としては)の姿で、オルフェウスよろしく、動物達にかこまれて楽器を奏でております。

芸術性ということを言うならば、断然ベルニーニの方に軍配が上がりましょう。しかしモザイク画家と彫刻家がおのおのに求められたやり方で芸術の一大庇護者を讃えたということなのであって、優劣を云々するのは野暮というものかもしれませんて。

次回に続きます。