読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『昭和歌謡大全集』

2008年12月08日 | 作家マ行
村上龍『昭和歌謡大全集』(集英社、1994年)

『週刊プレイボーイ』に連載された小説を集めたものらしいが、けっしてばらばらのものではなく、全体で完結した物語になっている。

全員がミドリという名前を持つ30歳中ごろの中年女性のグループ「ミドリ会」の6人と、今でいうところのおバカキャラの6人の若者のグループの抗争を描いた、おバカ小説とでもいったらいいだろうか。

ひょんなことから、ヤクをやったスギオカがボーっとする頭で道を歩いていると前を歩く中年女性のお尻にいたずらをして激怒されたために、常に持ち歩いているナイフで喉を切って死なせてしまう。それを知った「ミドリ会」の女たちが復讐をせんと、こんどは物干し棒の先につけた包丁で、たちしょんをしていたスギオカの喉を切って死なせる。今度はそのことを知ったおバカグループがトカレフを手に入れてスギオカを殺したミドリの頭を吹っ飛ばす。それを知った「ミドリ会」は元自衛隊員からM72というロケット砲でおバカたちを吹っ飛ばす。最後には二人残ったおバカグループが町全体を吹っ飛ばすほどの威力を持った爆弾を造って「ミドリ会」が住む調布の町を壊滅させるという話だ。

清水良典が『MURAKAMI 龍と春樹の時代』のなかでこのおバカキャラの若者たちを『半島を出よ』に出てくる若者たちに通じる登場人物と書いていたので興味をもって読んでみたのだ。『半島を出よ』から見ると、ちょうど10年前の作品になるが、もちろん私は村上龍が10年後に書こうとしている小説の準備としてこのような小説を書いたとは思わない。ここで登場するおばかキャラの若者たちの何人かはたしかに『半島を出よ』に出てくる若者たちに通じるものがあるが、彼らは社会が勝手に決めた範疇に入らないはみ出しものとして社会から排除されてきた若者たちだったわけで、この小説のおバカたちとはまったく違っている。

1994年といえばちょうどバブルが崩壊してしまった時期で、バブルの時期には日本国民の多くがこのおバカキャラのようにたがが外れた人間になっていたといってもいいのではないだろうか。ただ彼らはバブルに浮かれていた人間ではないので、バブルが終わってもけっして、バブルに浮かれていた人間たちのように意気消沈してしまうわけではない。バブルに関係なく生きている彼らは自分の心に素直に生きるだけのことだ。まだまだバブルの余韻があって、現代のように深刻な時代ではなく、彼らもおバカで済んでいたような時代なのだろう。

本の表紙をアマゾンで探していたら、なんと映画化されていて、そのキャストがすごい!おバカグループに松田龍平、安藤政信、池内博之...、「ミドリ会」が樋口可南子、岸本加代子、鈴木砂羽...だって。すごい! 樋口可南子! 信じられない。よくまぁこれだけの俳優さんたちに、こんなばかげたことをよく演じさせたね!

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