読書な日々

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『劇場』

2021年11月07日 | 作家マ行
又吉直樹『劇場』(新潮社、2017年)

図書館に行ったら返却コーナーで見かけたので、借りてきた。

又吉直樹のウィキペディアを見たら、もう時代の最先端を行く文学者である。作品はなくとも、彼がこれまで培ってきた文学関係の蓄積で時代の最先端の人たちと対等に戦えるだけのものを持っているということなのだろう。

『劇場』は、芥川賞を受賞した『火花』に続く第二作。

売れない劇作家(演劇人)の強がり、独りよがり、自信喪失、他者批判という『火花』と同じ構図がここにも見られる。

というか『火花』で主人公から批判の対象になっていた神谷が主人公になったと見ることができる。もちろん作者の分身でもあるのだろう。

この主人公の永田は紗希という女性のアパートに転がり込んで寄生生活を送っている。自分の創作活動のためという理由で、金が入っても自分の欲しいものに金を使ってしまい、生活費を入れようともしない。

若い時期にそうした男女関係はよくある。私のような研究をしてきた者たちも多くはそういう男女関係を作る人が多い。働いている女と研究職を目指す男の関係だ。大学院生時代には奨学金があるから、それなりの収入があるが、オーバードクターになって、非常勤講師だけの収入になれば、もちろん分野などによっても違ってくるが、僅かな年収しかないという状態になる。研究は続けたい。研究職に応募するには研究を続けていかなければならないからそれなりの研究出費も必要だ。どこで折り合いをつけるか。

いろんなケースがある。さっさと研究職を諦めて、安定したところに就職する人。研究職を目指して研究を続ける人。これも結果論で、数年後に専任になれる場合もあれば、結局一生非常勤講師のままの人もいる。

この小説はあたかも芸術のために生きようとする男が彼のことを認めて一緒に生きようと思うっている女を不幸にするという話なのだが、こんなことは芸術の世界だけの話ではない。どんあ世界にだってある。

そういう意味で、『火花』とまったく同じ世界が描かれているという意味で、又吉直樹の世界であって、芸人や芸術を目指す人たち固有の世界ではないということを言っておこう。

つまりこんな世界ばかりを描いているかぎり、作家としての彼には将来がない、ということだと私には思える。

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