仏教を楽しむ

仏教ライフを考える西原祐治のブログです

親切の人類史③

2023年03月26日 | 現代の病理

『親切の人類史――ヒトはいかにして利他の心を獲得したか』(2022/12/20・マイケル・E・マカロー著)のつづきです。

 

歴史を通じて湧き上がってきた、他者を援助するさまざまな理由は、三つの異なるタイプに分類することができる。第一のタイプは、あからさまに自己利益に訴えるものだ。わたしが今日あなたを助けることで、あなたは将来わたしに厚意を返さなければいけないと思うようになる、あるいはわたし自身が傍観者から称賛の目で見られたり、ギロチンを回避したり、神の祝福を得られたりすると気づいたとき、わたしがあなたを助ける動機は自己利益の増大であり、助けることで自分の信じる目標に近づけると考えるからだ。恩返しや尊敬を期待して援助するのは、直接的および間接的な互恵性を好む生得的な本能に動機づけられていると考えたくなるのはもっともだ。けれども、こうした動機が理性に由来することもある。ヒトは理性の力だけで、人助けをすれは、厚意を受け万人が恩を返し、寛大な厚意の目撃者はわたしを尊敬するだろうという洞察にたどりつくことができるからだ。

 第二のタイプの理由は、やはり自己利益に訴えるものだが、第一のタイプよりやや間接的だ。こちらは個人ではなく、集団としての利益にフォーカスする、すなわち、疫病や動乱のない都市・経済的競争力のある国家、礼譲と繁栄に満ちた世界の望ましさに重きを置いた説明だ。こうした理由に基づく主張は、自分自身の福祉が国やコミュニティの福祉にどれだけ協力に結びついているか、あるいはこのグローバル化した世界において、自国の福祉が他国の福祉といかに切っても切れない関係にあるかを理解している人にとって、理にかなったものに響くだろう。

 第三のタイプの理由もまた自己利益に関係するが、ここでは「自己利益」の意味が大きく拡張されている。こうした理由は、聞き手の誠実さに訴えかける。偽善者にならないこと、口だけでなく行動で示すこと、論理、数学、倫理の原理原則との一貫性を保った信念をもち、それに即した行動をとることの大切さを説くのだ。原理原則のなかには、自然権や公平性といった抽象的なものから、限界効用逓減などの経済学の法則、また行動の道徳的価値は感覚をもつ存在が経験する苦しみをどれだけ軽減したかによって決まるという、功利主義の前提などがある。

 

 同じように、倫理に関連するあらゆる側面において同一であるものごとは、倫理に関するかぎり同じものとして扱うべきだ。枢軸時代の黄金律は、自分が他人にしてほしいことを、自分も他人に対しせよと要請するものであり、ある領域において同一である複数のものごとは、その領域内では同じとして扱うという、先験的事実に裏打ちされている。もしあなたが、自分の欲求やニ―ズに対して、他人から思いやりのある対応をしてもらえる権利かあると思うなら、あなたの主張に説得力をもたせる唯一の方法は、かれらにも同一の権利があり、あなたも同一の義務を負うと認めることだ。かれらを別物と扱うなら、あなたは倫理的問題の解き方を誤る。すべての人は基本的な尊厳を等しくもっている、というカントの主張も、同一性の概念に依拠している。(以上)

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講演会のご案内

2023年03月25日 | 都市開教

3日の当寺法話会の折、「住職、26日築地で講演会ありますね」と言われ、何のことだか分からず、「???」でしが、しばらくして「中央仏教学院通信教育の集い」のことから理解しました。

3月26日(日)14時~ 築地本願寺の講堂の開催です。一般の人も来るようなので、話しの内容のつめは本日です。3日前、「レジメはどうしますか」と事務局から問い合わせがあり、内容をつめていなかったので「なしで」と返答しましたが、レジメくらい作ってあげればよかったと後悔しています。「老病死」のテーマは事務局から来たので、内容が余りにも広いので、そのままにしておきました。「思い通りにならない世界」は、わたしがチラシを作る時に告げました。

講題「老病死ー思い通りのならない世界」講師 西原祐治です。

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親切の人類史②

2023年03月24日 | 現代の病理

『親切の人類史――ヒトはいかにして利他の心を獲得したか』(2022/12/20・マイケル・E・マカロー著)のつづきです。

 

人間の「利他の心」の存在はどのように説明できるだろう? 一筋縄ではいかないこの問いに、進化生物学と慈善の歴史という観点から挑みかかる。
「利他行動」は生物学の難問の一つだ。ヒトをはじめ、他個体を利する行動をとる動物は実際に存在する。だがしかし、寛大にも他者を思いやる個体の遺伝子は、狡猾な個体に出し抜かれて繁殖機会を奪われ、淘汰されてしまうのでは? 生物学者たちはこのことにおおいに悩み、利他行動を説明できる理論を求めて奮闘してきた。
ただし、人間の利他の心は、生物学だけで完全に説明することはできない。社会福祉制度や慈善活動などの方法で、血縁や地域を超えた「完全な赤の他人」にまで援助の手を差し伸べる動物は人間以外にいないのだ。ここには、何か特別な説明が必要になる。著者によれば、一万年の人類史における「七つの大いなる苦難」を、人類がどう解決してきたかが説明のカギだという。

 

「だが何よりも、寛大さと利他主義にはなぜ学ぶだけの価値があるかという、理由を教えよう。孤児の時代、思いやりの時代、予防の時代、第一次貧困啓蒙時代、人道主義のビッグバン、第二次貧困啓蒙時代、成果の時代において、寛大さと利他主義が成果を収めた理由は、それらが最初に生じたときと変わらず、現代にもしっかりと通用する。思いやりは、わたしたちに感謝と栄誉を授ける。貧困と絶望の副作用からわたしたちを守る。経済を弱らせず、むしろ成長させる。人々に自分の人生への責任をもたせる。生きる意味や充実感をもたらす。それに、苦しみは道徳的関心に値すると考える人にとって、思いやりは義務だ。(後略)」)とある。

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喚びたまふ 仏の御声のなつかしや

2023年03月23日 | 浄土真宗とは?

昨日は、2年ぶりに墨田区の杉田製線での法話会。会社の会議室よこの仏間でのい開催でした。コロナ前に毎月、会社社員、地域の人が参加して法話会が開催されていましたが、コロナの為、中断、そして再開となりました。17時30分開催でした。

 

先々代は富山県出身の方で、今年50回忌を迎えると社長さんが挨拶をされていました。富山から出てきて、法話会を開くために会社を起こしたそうです。初代の頃は、有名な布教使さんをまねていていたようです。祖父の遺品として多量の書や絵が残っており、過日、整理のためにその筋の業者に来て貰って引き取ってもらった。仏教関係の品もあり、2つ受け取って貰えますかと頂戴した。その一つが、写真の梅原真隆(1885-1966)先生の短冊でした。「喚びたまふ 仏の御声のなつかしや 天と地とに響く鐘の音 眞隆」とありました。

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親切の人類史①

2023年03月22日 | 現代の病理

『親切の人類史――ヒトはいかにして利他の心を獲得したか』(2022/12/20・マイケル・E・マカロー著)、図書館の新館コーナにあった本です。

 

本書は、人間の利他行動の列挙から始まる。


埋解を深めるため、チンパンジーにできないことを列挙してみよう。もっとも近縁の霊長類とは対照的に、米国では毎年。150人以上、英国でも100人近くが、赤の他人に腎臓を提供している。エルサレムにある世界ホロコースト記念顫は、ホロコーストの惨禍の中、死や投獄のリスクを侵してまでユダヤの人々を助けた、27.362人もの非ユダヤ人の栄誉を称えている。力-ネギー財団は、他人の命を救うため、覚悟の上で自ら重大な危機のなかに身を投じた米国の一般市民を、これまでに1万人以上も表象している。。カーネギーメダル受賞者の五人に一人は、死後に賞を授かっている。命を救おうとしたまさにその行為によって、かれらは亡くなったのだ。もちろん、英雄たちのほとんどは、メダルには縁がない。(以上)

 

利他の心は、学習によると次の様に結んでいる。以下転載。

 

 進化はわたしちちに、遠く離れ場所にいる赤の他人への思いやりを授けなかった。生まれてもいない他人や、国境を越えて入国しようとする他人ともなればなおさらだ。しかし、進化はわたしたちに学習能力を授けた。だからリチャード・ドーキンスば『利己的な遺伝子』で、思いやりの教育が必要だと主張した。

もしあなたが、私と同様に、個人個人が共通の利益に向かって寛大に非利己的に協力し合うような社会を築きたいと考えるのであれば、生物学的本性はほとんど頼りにならない……私たちが利己的に生まれついている以上、私たちは寛大さと利他主義を教えることを試みようではないか。

 

 チャールズ・ダーウィンもまた、寛大さと利他主義は、わたしがちが拡散する遺伝子ではなく、わたしたちが説く教訓のかかにあると考えた。ダーウィンは『人問の由来』のなかで、全人類への思いやりが「尊重され、いくら・かの人間がそれを実行するようになると、教育と子どもに対するお手本を通してそれが広まり、ついには公共の意見となる」と想像した。(以上)

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