『中外日報』(2023.3.10日号)に「浄土真宗本願寺派定期宗会 特報」が掲載されていました。長いですが、全文転載します。
浄土真宗本願寺派第321回定期宗会が2月22日~3月3日に開かれ、新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)を巡り様々な議論が繰り広げられた。宗会議員らは、一般寺院やSNS等でも疑問視する声が上かっていると指摘、制定や勧学寮の同意の経緯、総局の打ち出す拝読・唱和を主とする普及策等について追及し、見解を求めた。
(渡部梨里)
「全勧学寮員の同意」は
解説付した理由問う
制定の経過
開会に当たり大谷光淳門主は、教団が戦争協力差別に関わってきた歴史とその責任を忘れてはならないことに言及し、浄土真宗の教えの肝要が広く次の世代に確実に伝わるよう、新しい「領解文」の消息を発布したと述べた。そして「伝える伝道」から時代に沿った「伝わる伝道」へと本質的な転換を図ることがますます重要になってくるとし、新しい「領解文」が「念仏者の生き方の指針になることを願っている」と伝えた。
石上智康総長は執務方針演説で、新しい「領解文」が制定された経緯について2005年から始まった宗門長期振興計画とその後の宗門総合振興計画で「現代版領解文」の制定が掲げられてきたと説明し、現代版「領解文」制定方法検討委員会の答申に基づいていることや勧学寮の同意を得たことを強調した。
宗派一般会計予算を審議する第1予算審査会で、勧学寮費に関連して新しい「領解文」の制定経緯や勧学寮員全員(5人)の同意があったのかなどの質問が出た。
勧学寮は宗会からの資料請求に対し「ご消息文案同意について」の公文書は提出したが、新しい「領解文」にかかる寮員会議議事録と同意確認書、門主から消息発布にかかる勧学寮への諮問文書は提出しなかった。
公文書は徳永一道寮頭から石上総長へ提出されたもので、宗会議員から「他の4人の寮員の署名捺印がないが、同意はどう確認できるのか」との質問があった。本川道法・勧学寮部長は「寮員会で同意を得て寮頭名で提出した。他の4人が同意した署名捺印もあるが、公表できない」と説明した。
複数の議員から「分かりやすい言葉で表現された御文」の新しい「領解文」になぜ勧学寮が解説を付けるのかと質問があった。「解説は総局の許可がなければ出せないはず」「勧学寮は『真宗教学の基礎がないと誤解する可能性がある』などと話しており、分かりやすくないことを認めている」などの発言に対し、総局は「(あくまでも)勧学寮からの公文書に『寮員会議の意を経て、ご消息解説文を作成いたしましたので、新しい領解文(浄土真宗のみ教え)の拝読・唱和の普及にご活用されますよう』と記載がめったため、本願寺新報に全文を掲載した」と説明した。
「門主の利用」追及
共通認識図る動きも
新しい「領解文」の追及の背景には、石上総長や総局に対する不信感があるとみられる。
複数の議員から、石上総長の著書『生きて死ぬ力』と新しい「領解文」に似た言葉が用いられているとの指摘かおり、「ご門主を利用しているのではないか」と追及する場面もあった。
石上総長は、制定の経緯の説明を繰り返し「内容については私が申し上げることではない」とした。日谷照應総務は「ご門主と総長の考え方は似ているところがあり、だからご指名されたのだろう」と発言した。
一方、門主の開会式での教示を受けて、宗会議員の間で新しい「領解文」に対する共通認識の形成を図ろうとする動きもあった。「ご教示で戦争と差別の歴史に言及され、次に新しい『領解文』について述べられているのは、自覚と内省を踏まえた領解文の味わいを求めているからで、それが『私の煩悩と仏のさとりは本来一つ』という文言になる」「唱和とは、凡夫である私に、自覚と内省を呼び覚ますための呼び水」などと見解をまとめた文書を作成し、議員同士で共有したり、僧侶議員から門徒議員へ説明したりする場面が見られた。
僧俗問わず拝読・唱和
消息の発布を受けて総局は「僧俗を問わず多くの方々に、様々な機会に新しい『領解文』をともどもに唱和、拝読させていただくことを原則とし、その周知と普及に努める」と方向性を示した。既に親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年慶讃法要の趣意書付帯事項を「新しい『領解文』(浄土真宗のみ教え)、『私たちのちかい』の普及を」に変更し、発布翌日から宗務所朝礼で拝読、唱和を実施してい。今後は慶讃法要で拝読、唱和を組み入れた御堂プログラムの策定のほか、全国での学習会の実施、僧侶養成機関や教化団体の各種会合等での拝読、唱和の徹底、龍谷総合学園加盟学校での研修会等の要請などを掲げている。
議員からの「拝読、唱和は自発的に生じる行動はないのか。拝読、唱和を勧め認めさせることに対してSNS等で批判があふれている。無視して進めれば遺恨を残すことになる」などの発言に対し、石上総長は「ご門主がご消息の最後に拝読、唱和を勧めていただいているのはご承知の通り。拝読、唱和を原則として周知普及の徹底に努る」と繰り返した。
名称の改善望む
答申内容の相違も
新しい「領解文」の名称について、「従来の領解文がある中で同じ『領解文』を使うと分かりにくい」「新旧のようなイメージになる」など、これまで多くの意見や改善を求める声が上かっている。
現代版「領解文」制定方法検討委員会の答申は、名称について「現代版『領解文』」を用いない方がよいと示しており、浅野弘毅議員は「使わない方がいいとした『領解文』がなぜ使われているのか。答申書のどこを読んでも納得できない」と発言。総局は「名称を決めたのは総局ではない」と答えた。
また答申書に「門主に消息をもって制定いただくのが最もふさわしい制定方法」とあり、その後、消息が発布された。竹中了哲議員は「答申はこれから制定される場合を想定しており、ご親教として出された『浄土真宗のみ教え』が(今日の)領解文にふさわしいとは述べていない」と指摘し「元はご親教で、ご消息にするために勧学寮が事後承認している。宗門は宗意安心を非常に大事にしてきた。何か焦って、制定方法検討委員会の言葉の意味合いをいいように取り、急速に進めた印象がある」と話した。
石上総長は「ご消息は第一に答申に基づき、第二に勧学寮の同意があり、ご門主に発布たまわった。勧学寮の同意がなければ発布はなかった。勧学寮によって解説が作成され、消息と共に新報に掲載された。これが全て」と述べた。
声を届ける
ハードル高く
新しい「領解文」の拝読、唱和について「現場の理解が深まるまで拝読、唱和を待つてほしい」とする内容の請願書が、富山教区善巧寺(富山県黒部市)の雪山俊隆住職から園城義孝議長へ宗会議員15人を紹介議員として提出され、採決の結果、否決された。
請願書を提出した理由について雪山住職は「幅広い年齢の僧侶の間で発布の経緯が不明確にしが伝わってこなかったり、唱和というある意味で強制されるようなやり方に居心地の悪さを感じていたりする声が広がっていて、届ける方法を考えた結果、請願書を提出することにした〕と話す。
請願書を提出するには、紹介宗会議員が10人以上必要となるなど「声を届けるハードルがこんなにも高いとは」と感じたという。雪山住職は「普及策は慶讃法要を前に動き始めていて止まれなかったり、会派の縛りがあり宗会議員個人の思いを出せなかったりして、議員や宗会、組織の在り方など違う部分での危機感も生まれた。これは私たちの責任でもあると思う。宗門の様々な問題を共有し、各教区で宗会議員に問うていければいいと考えている」と語った。(以上)