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「親ガチャの哲学」著者の戸谷洋志さんに聞く

2024年02月21日 | 現代の病理

今日(2024.2.21)の『産経新聞』に【「親ガチャの哲学」著者の戸谷洋志さんに聞くー「出生の偶然性」を共感の礎】

 

にとや・ひろし 昭和63年、東京都生まれ。関西外国語大准教授(哲学・倫理学)。『ハンス・ヨナスの哲学』『未来倫理』など著書多数」

 

 「いま、現実世界に対する悲観的な物の見方が蔓延している気がするんです。その象徴ともいえる『親ガチヤ』という概念をフックに、現代社会を覆う「ヒリズムについて考えたかった」。哲学者の戸谷洋志さん(35)は新刊『親ガチヤの哲学』 (新潮新書)を書いた理由をそう語る。人はいつ、どんな親のもとに生まれてくるのかを選べない。そんな出生の偶然性によって左右される人生をどう引き受け、生きていけばいいのか。粘り強い思索が刻まれた一冊だ。     (海老沢類)

 

 大学入試にも登場

 

 「親ガチヤ」は出生時の運や不運が後の人生に重大な影響を及ぼすことを、電子くじである 「ガチヤ」の偶然性になぞらえて皮肉交じりに表現した言葉。社会における成功を、家庭の経済格差と結び付けて語る場合によく使われる。令和3年には 「ユーキャン新語・流行語大賞」でトップ10入り。昨年の大学入学共通テストの「倫理」では「親ガチヤ」に言及した会話文も出題された。。

  「恵まれない出生に伴う苦しみ自体は古代ギリシヤ悲劇などにも出てくる。現代の『親ガチヤ』が問題なのは、生まれた環境で受けた影響をその後の人生で覆せないと悲観していること」と戸谷さん。こうした厭世観の背景には1990年代以降の社会の閉塞感がある、とみる。

  「高度成長期には個人の努力が成功や報酬につながっていて、環境に恵まれなくても頑張れば幸せな未来をつかむことができる、という物語も信じられた。だがバブル崩壊以降、経済は低迷し成長物語は信じられなくなっている」

 

■「自暴自棄」の犯罪

 生まれた環境に起因する苦しみや絶望は、近年注目される「生まれてこない方がよかった」とする思想、いわゆる「反出生主義」にもつながる。本書では『ONE PIECE』や『進撃の巨人』などの人気漫画にもそうした思いを抱く登場人物が出てくることが指摘される。さらに平成20年に東京・秋葉原で起きた通り魔事件をはじめとする「自暴自棄型の犯罪」の増加にも着目する。そうした犯罪には「自分の人生に対する無力感に基づく、特有の無責任さが伴っている」と記し、自由と責任についての考察が展開されていく。

  「確かに生まれた環境で人生のかなりの部分が決まる、という見方もできるかもしれない。ただ、自分の人生が全部誰かに決められたもので、本人が付け入る隙すらないという『決定論』に陥ったとき、人生は自分のものじゃないようになって自暴自棄になりかねない。自己肯定感の低下を招き、他者や自分自身を傷つける事態にもなる。人生を自分のものとして引き受け、尊重するためにはどうすればいいのかを考えないといけない。戸谷さんはその手がかりとして、米国の政治思想家ハンナ・アーレント(1906~75年)の思想を紹介し、他者との関係を見つめ直す必要性を指摘する。「人間が自分らしさを提示するのは、他者の前で何かを語るときである」と。「『私はこう思う』と言ったとき耳を傾けてくれる他者がいる。その信頼が持てるか否かが自分に向き合う前提条件。国家と家庭の間に位置していて、人と人とのつなりを築く地縁コミュニティーのような中間共同体は現代社会ではどんどん失われている。ゆるい対話ができる場を作っていくのも大切だと思う」

 

他者への想像力に

 もう少し裕福だったら。なぜ就職氷河期世代に生まれたのか…。程度の差はあれ誰もが偶然に翻弄され、苦しむ。ただ、苦しみの源である偶然性に立ち返れば、厭世観を克服するヒントも見えてくる。「人生は始まりから偶然に委ねられている。ということは『自分には別の人生があり得たかもしれない』わけです。だから今恵まれている人も劣悪な環境に置かれた人を前にしたときに、『あれは自分だったのかもしれない』と思えるはず。他者への想像力が生まれるんです」と話す。

  「『親ガチヤ』は挑発的な印象を与える言葉で、社会の分断を加速させる面もある。でもこの言葉の根本にある出生の偶然性は連帯や共感の基礎になり得る。そう見方を変えて、苦しみを少しでも和らげていく必要がある」(以上)

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