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仏教ライフを考える西原祐治のブログです

脳科学で解く心の病②

2024年07月05日 | 日記
『脳科学で解く心の病: うつ病・認知症・依存症から芸術と創造性まで』(2024/4/1・エリック・R・カンデル著)からの転載です。

 自覚しているものの内容、つまり意識の状態は、大脳皮質によって媒介されている。カリフォルニア大学バークレー校の哲学の名誉教授ジョンーサールは、意識の定義は難しいと言う人がいるが、常識的な定義はそれほど難しくない、と主張している。意識とは、認識したり知覚したりしている状態である。それは朝、起きたときに始まり、夜に再び眠りにつくか、あるいは意識を失うまで、一日中続く。
 意識には注目すべき三つの特徴がある。一つ目は知覚の質である。音楽を聴くことはレモンの香りを嗅ぐこととは異なる。二つ目は主観性である。自覚は私の中で起きている。あなたの中でも似たようなことが起きているだろうことは確かだが、自分の意識していることと私自身の関係性は、他の人の意識していることと私との関係性とは重なる。あなたが手にやけどをしたときに、痛みを感じているのはわかる。ただしそれは、私かあなたの行動を観察しているからであり、あなたの痛みを私か実際に感じた、体験したりしているからではない。自分がやけどをしたときにだけ、私自身は痛みを感じる。
 意識の三つ目の特徴は、経験の統一性である。私は、首にあたるシャツの感覚や自分の話す声の晉、テーブルを囲んで座っている人たちの姿を、一つの統制された意識、つまり私の経験として体験している。それは決して、ばらばらな感覚刺激の寄せ集めではない。
 意識については簡単な問題と難しい問題がある、とサールは述べている。簡単な問題は、意識状態と関連する脳内の生物学的プロセスを特定することである。バーナードーバースやスタニスラスードゥアンヌといった科学者は現在、脳イメージングやその他の新しい技術を使って、意識と脳神経系の関係について探求し始めている。彼らの研究については後ほど紹介する。
 サールによると、意識についての難しい問題は、意識状態と脳神経系の相互の関連が、意識的な経験とどのように関係しているのかを理解する点である。我々のあらゆる経験、たとえばバラの香りやベートーベンのピアノソナタの音響の認識、後期資本卜義の脱工業化時代を生きる人の不安などすべては、脳内のニューロンの発火率の変化によって生みだされているものである。しかし、これらの神経的なプロセスや、それと意識状態との相互の関連が、実際に意識を引き起こしているのだろうか? もしそうなら、どのようにして? また、なぜ意識的な経験には、こういった生物学的なプロセスが必要なのだろうか?
 論理的には、ニューロンの相互関連が意識を引き起こすかどうかは、通常の方法で確かめることができるはずだ。つまり、ニューロンの伺彑関連を活性化して意識を活性化できるかどうか、また、ニューロンの相互関連を不活化して意識を不活化できるかどうかを調べればいいはずである。しかし、我々はまだ、そのような研究を実行できていない。
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