超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

うわこい 1巻/糸杉柾宏

2012-07-19 23:28:11 | 漫画(新作)






糸杉柾宏「うわこい」1巻読了。






あとがきの作者コメント曰くこの作品はラブコメを描きたくて描いた、との事ですが
ラブはともかくコメ・・・?コメディ?そんな要素あったっけ?ってくらい
まっくろくろすけ的な作品に仕上がってます。
堕ちていく主人公
情念と憎悪にまみれたヒロインズ、いがみあう関係性、、、と、おおよそ一般のラブコメディ
ハーレムタイプの作品が意図的に避けている女性同士の因縁って言うか、ある種の駆け引きっていうか
も~とにかく読んでて一切笑えない幸せにもならない勿論楽しい気分にも明るい気分にもならない
けど、それがすっごく面白いっていう(笑)。ハードでマニアックな作品になってます。

一応漫画の内容としては浮気をテーマにしたものになってるんですけど
もう最初から悲壮感を纏った状態で始まってるから常に苦しい
いつも裏切りの快楽と罪悪感に溺れてる状態で
それでも「素直な」気持ちを突き通す登場人物たちの行動には一本芯の通ったものを感じますし
伊達や酔狂じゃない「狂った愛情」を感じざるを得ない作りになっていると言えると思う
読み手としてもどんどん深みに堕ちていく不快感と
でも、そんな他人の幸せを奪う喜びに付随する禁忌的な快楽とのダブルパンチで
途中から何が何だか分からない状態に陥るんですけど(笑)。でも、ここまでやってこそ表現って言うか
多分読む人の好みや価値観によって大幅に評価が変わる漫画ではあるでしょうが
その分何かを感じざるを得ない
無感では済まされない観念的な漫画になっているなあ、と。
要するに今回も今回で本当に「糸杉さんらしい」作品になってますって事だから
名作「あきそら」で少しでも奮えた人は是非こっちも買いましょうって話ですね。
お色気方面ばかりが注目される作家ではあるけれど
実は他の作家と比べてもこれ以上なく「人間」を描こうとしている作家の一人だと思います。
そのストイックな姿勢は正に私の好みそのもので、この作品もこの作品で至福の作品ではありましたね。


ただ、糸杉さんの本領発揮は多分回数を重ねてからだと思うので
ある意味前哨として読んだ方が気分的にはいいかも。
今はまだ表面化してない憎悪だったり
「奪ってやる」って醜い感情だったり、その裏側に潜む残酷なまでの純粋さだったり・・・
恐らくはこの1巻を基点として様々な感情の渦が広がっていくんだと思うから
その点では真価は後半になって発揮されるのだろう、とは感じる
とはいえ
この1巻は1巻で結構にインパクトに残る内容でもあったりするので
その意味だと今後の深化がまた末恐ろしいね!っていうかね。いやはやまた物凄く楽しみな作品が増えた。
好きな人は好きで嫌いな人は嫌いってぱっくり分ける内容の漫画だとは重ねて思いますけど
その分この世界観に一度ハマったら抜け出そうという気すら起きません。
女性の情念描写に関して言えば
女性作家なので相当リアリティを以って描かれてると思います
とはいえ絵柄が可愛くて上手いのでそんな怖いって印象は感じませんが
胸に眠るダークな感情の断片はきっちりと伝わって来る迫力で結構ドキドキしますね(笑)。
雰囲気漫画に負けないくらい実は雰囲気演出に関しても巧みな作者なので
その辺に関しても楽しんでもらえれば。
「人間はきれいで美しい生き物だ」って描く全ての作品に対してのアンチ精神が込められた渾身の作品でした。






それにしても「ユノ」と「ユキテル」ってまるっきり「未来日記」じゃねーか(笑)。
キャラは結構違ってますけど。こっちのユキテルは随分ダークで大胆な性格になっとります。
今後の展開が怖くも、早く読みたいです。