一昨年パンデミックが始まってしばらくしたころ、本棚に並べっぱなしになっていた「ペスト」をやっと読む気になりました。
夜寝る前に少しずつ読んで、一月ほどかかって読了。
この本は、1600年代、ペストが大流行した時代の、街や田舎に住む人々の暮らしの様子、死に行く人達、家族の嘆きを微細に描く一方、物資不足に乗じて大儲けする商人たち、教会に救いを求める人たちを無慈悲に追い返す神職者たちを、冷静な筆致でつづっています。そして、都市から逃げ延びた難民に、住居や食べ物を提供する村人の話も取り上げていて、当時のパンデミックの様子が手に取るようにわかります。
今とは比べにならないほど衛生状態が悪く、病院の設備はろくになく、医薬品も不足の時代なので、混乱を極めるのは当然ですが、役所の対応や地域の首長たちの発言や行動は、今回のパンデミックに通じるところがうかがえ、興味深いものがありました。
もちろん、デマに惑わされる人はものすごくたくさんいたので、より混乱を招く結果になったようです。読みおわるまで、作者のデフォーが、同時代のロンドンの街に生きていて、当時の様子を活写した作品だとおもいこんでいました。感染をものともせず、市街地を往復して取材を続けたものと思ったのですが、最後にあとがきを読んで、じつはデフォーは、1665年のロンドンのペストの大流行のおりは、まだ5歳だったと知って、びっくりしました。
この年のペストによるロンドンの死亡者数は、全人口の5分の1に達したとか。大人になったデフォーが、何十年か前の大流行の時代を生きた、親戚や生き残った人たちに話を聞き、資料を調べ、「ロビンソン・クルーソー」のように、フィクションだけれど、ノンフィクションぽく描いた作品に仕上げました。
描写の力もさることながら、しつこいほどに数字をあげ、死者の数の推移を問題にしたり、論拠にしたり、事実を淡々と伝える一方で、自分の意見や感想もしっかり述べる。ジャーナリズムに徹した、その粘り強い態度に感心しました。今のうちだと、400年の時代を飛び越え、臨場感あふれた名作として読めると思います。
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