多くの人が知らない…「宇宙が“終わる時”」、その壮大な“2つ”のシナリオ

2021年10月04日 13時13分44秒 | Weblog
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/86054
村山斉の宇宙をめぐる大冒険(2)
コズミックフロントNHK

「我々はどこから来たのか、我々は何者なのか、我々はどこへ行くのか」

この根源的な問いに、世界の最先端を行く物理学者・村山斉さんが、分かりやすい例え話を使って解説する「村山斉の宇宙をめぐる大冒険」。第2回は、宇宙の未来。宇宙はいつまで続くのか、果たして終わりはあるのか。村山さんと一緒に宇宙の行く末を探る旅へ。(コズミックフロント取材班)

【プロフィール】
村山斉(むらやま ひとし) 
カリフォルニア大学バークレイ校教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構教授。1964年東京生まれ。素粒子物理学の第一人者で、宇宙の謎に対する、分かりやすくて面白い講演も人気の理論物理学者。


○太陽が燃え尽きる
私たちを照らす母なる星、太陽。太陽から降り注ぐ光や熱の恵みのおかげで、私たちが地球に生きることができます。しかし、その太陽もおよそ50億年後には地球を飲み込むほど巨大化し、地球は焼き尽くされてしまいます。その後、太陽は徐々に暗くなって消えていき、凍りついた真っ暗な世界になってしまう。これが地球と太陽の未来です。

宇宙にあるすべての星々が燃料を使い果たすのは100兆年後とされています。ところが宇宙そのものの終わりは、それよりずっと早く訪れるといいます。いったいどういうことなのか、宇宙の最期はどんな姿なのか、見ていきましょう。


○覆された宇宙の未来

宇宙の終わりを読み解く上で重要となるのが宇宙の空間です。タイで行われるランタンを空に飛ばすお祭りで例えます。

火の付いたランタンは、宇宙に散らばる星の集まり、銀河を表します。皆が一斉に手を離すと、上昇のスピードが速いランタンほど高く上がっていきます。このように、銀河も速く遠ざかるものほど遠くにあることが分かっています。これは、宇宙の空間が膨らみ続けていることを意味しています。


宇宙全体に含まれる質量がある値よりも大きいと、膨張するスピードはだんだん遅くなり、いずれは止まり、収縮に転じて、最後には一点に押しつぶされて宇宙が終わります。このシナリオは「ビッグクランチ」と呼ばれます。

20世紀の終わりまで、ビッグクランチによって宇宙が終わると多くの科学者が考えていました。ところが1998年、意外なことがわかります。だんだん勢いを失って遅くなっていくと思われていた宇宙の膨張が、逆にスピードを上げて加速している。そんな驚くべき発見があったのです。



○宇宙の加速膨張の発見

この発見をもたらしたのが、一つの銀河の中で数百年に一度しか起きない珍しい現象です。双子の星の片方に、もう一方の星からガスが降り積もり、限界に達したときに爆発が起きる超新星爆発という現象です。

超新星爆発はとても明るく、銀河1個分にも匹敵する猛烈な光を放ちます。しかもこの超新星爆発では放つ光の絶対的な明るさが同じだということがカギとなりました。

このことを、ランプを使って例えて説明しましょう。ランプの光は銀河の中に現れた超新星を表します。暗闇でランプをともすと、ランプが近くにあれば明るく、遠くにあれば暗く見えます。ランプの明るさは同じなので、見かけの明るさの違いからランプまでの距離が分かります。

同じように超新星の明るさを比べれば、どのくらいの距離に超新星があるのかがわかるわけです。宇宙では遠くの天体ほど昔の姿が見えています。例えば、70億光年向こうの銀河で現れた超新星は、光が70億年かけて地球にやってくるため、70億年昔の宇宙を見ていることになります。

その銀河の膨張する速さを調べれば、当時の宇宙の膨張速度が分かります。こうして、いくつもの銀河で膨張速度を調べた結果、宇宙が加速膨張していることがわかったのです。

○宇宙を加速させているものは何か?

しかし、このことはそれまでの常識では説明がつきませんでした。宇宙には、星やガスやダークマターといったさまざまな物質があり、互いに引っ張り合う力が働きます。でも宇宙が加速するということは、この力に反して働く何かがないといけないということになります。その鍵を握るものとして考えられたのが「ダークエネルギー」という奇妙なエネルギーです。

このことを室内スカイダイビングで例えてみましょう。足下から強い風が上に向かって吹きぬける風洞で、体を横に倒すと、ふわっと浮き上がり、まるでスカイダイビングをしているかのような体験ができます。

宇宙には重力と反対の性質を持つダークエネルギーが働いている/NHK提供
拡大画像表示
地球上ではリンゴが木から落ちるように、どんなものでも下に落ちますが、室内スカイダイビングでは、リンゴは風を受けて上に向かって飛んでいきます。ダークエネルギーは、下から吹く風のようなものです。地球上では重力の方がずっと強いのでダークエネルギーを感じることはありませんが、宇宙には重力に反発する不思議なダークエネルギーが満ちているのです。



○ダークエネルギーの奇妙な性質

謎めいた存在として注目を集めることになったダークエネルギーですが、さらに不思議な性質があります。それは、宇宙が大きくなればなるほど、ダークエネルギーが増していくというものです。

水槽と魚で説明しましょう。水槽は宇宙の大きさ、魚はダークエネルギーを表します。

宇宙が膨張するということは、水槽が大きくなることを意味します。普通なら水槽が大きくなっても魚の数は変わりません。ところが、ダークエネルギーの性質はちょっと変わっていて、水槽が大きくなればなるほど、どこかから魚が湧いてきたように増えていくというのです。

宇宙が大きくなればなるほど、ダークエネルギーはどんどん増えていく。まったく不思議な話ですがダークエネルギーは、そういうものだということが様々な観測からわかってきているのです。


○壮絶な宇宙の終わり

宇宙の膨張とともに、その勢力を増していくダークエネルギーによって宇宙の未来はどうなるのでしょうか。それはダークネルギーがこれからどう変化するかによって、二つのシナリオが考えられます。

ダークエネルギーの増え方が緩やかな場合、宇宙は永遠に加速を続けて膨張します。銀河はどんどん遠くへ離れていきます。およそ 1000億年後には他の銀河はみな光の速さよりも速く遠ざかっているように見えます。そうなった銀河の光はもう私たちには届きません。

ですから宇宙には銀河はひとつも見えなくなってしまいます。最終的には宇宙の温度が絶対零度まで下がります。すべてが凍りつき宇宙は静かな死に至ります。これが「ビッグフリーズ」という宇宙の未来です。



一方、ダークネルギーの増え方が急激な場合、 宇宙の空間はあるところで無限大になり、そこで宇宙は終わりを迎えるといいます。それがもう1つの結末「ビッグリップ」です。ダークエネルギーの力が強くなっていくと、空間が急膨張し、銀河を形作る星がバラバラになっていきます。

そして星の中にもダークエネルギーの力が及び、星自体もバラバラになってしまいます。最終的には小さな素粒子になって宇宙が終わるのです。


○宇宙は無数に生まれた!?
さらにダークエネルギーには、つじつまの合わないことがあります。この宇宙のダークエネルギーの量が、理論から導かれる量よりはるかに少なかったんです。その差は120ケタ。つまり1の後に0が120個も並ぶ数ほどの違いがあったのです。いったいなぜダークエネルギーの量が、そんなにもずれるのか。これは今や宇宙最大のミステリーです。

最近の考えでは、このミステリーを解くカギは「マルチバース」にあるといわれるようになりました。宇宙は英語で「ユニバース」といいますが、「ユニ」は一つという意味です。「マルチバース」の「マルチ」とはたくさんのという意味です。つまり膨大な数の宇宙が存在するという考え方です。

マルチバースの様子を、ニューヨークのブロードウェイで人気のバブルショーで例えてみましょう。


口に含んだ煙をストローでシャボン玉に吹きかけると、次々と新たなシャボン玉が生まれていきます。これは、大きな宇宙から小さな子宇宙が枝分かれしていく、マルチバースを象徴しています。

このシャボン玉の中の煙は、その宇宙の中に満ちているダークエネルギーの量を意味します。ある宇宙ではダークエネルギーが多く、ある宇宙ではダークエネルギーがほとんどない。さまざまなタイプの宇宙が作られるのです。マルチバースでは、それぞれの宇宙でダークエネルギーの量も違うのです。

そして、大事なポイントは、マルチバースで生まれる宇宙の数は想像もできないほどのたくさんの数だということです。ある計算では1の後に 0が500個も並ぶ数の宇宙が生まれたといいます。出来た宇宙のほとんどは、ダークエネルギーがとてつもなく大きいため、生まれてすぐに急膨張し、星のガスを集めることができず、星や銀河が生まれない宇宙でした。

しかし、たくさんの宇宙の中でごくまれな宇宙だけがたまたまダークエネルギーが小さかったため、星や銀河ができ、その中で生命が誕生した。そう考えると、私たちの宇宙をよく説明できるというわけなのです。

実は私たちの知っている物理法則はいろんな意味でまだ不完全であるということが分かっています。ですからいずれ究極の完全な物理法則が見つかると、ダークエネルギーの量がとても小さいということが説明できるのかもしれません。そうだとすれば私たちの住むこの宇宙は偶然ではなく必然だということになるわけです。この宇宙が偶然なのか必然なのか このことはまだほとんどわかっていません。




○絶妙なバランスの上に私たちがいる

最後にこの宇宙を象徴する絶景にご案内しましょう。アメリカ、アリゾナ州の浸食された岩が針のように立ち並ぶチリカワ国定公園。その中に、根元がくびれ、その上に10mにも及ぶ巨大な岩が乗る「バランスロック」があります。


倒れそうで倒れないこの岩は、この宇宙を象徴しています。この宇宙は、ダークマターとダークエネルギーの絶妙なバランスで成り立っています。もしダークエネルギーが大きすぎると、宇宙は生まれてすぐに急激な膨張で引き裂かれてしまい、物質が集まる時間がなく私たちは生まれることができません。


一方でダークマターの方が大きすぎると、ダークマターの重力で物が集まりすぎ、ブラックホールになってしまう。そういう宇宙にもやはり私たちは生まれることができません。私たちはまさに、宇宙を支配するダークマターと、ダークエネルギーの絶妙なバランスの上に生きているのです。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿