PianoForte

2013年10月23日 16時50分47秒 | Weblog
ごぶさたしてます。お変わりありませんか?
早いもので、もう数日後には欧州も冬時間にもどり、一気に冬支度です。

さて、そんな中、いよいよエヴァ初のピアノ・アルバム『PianoForte』が登場します!!
その発売を祝し、CDブックレット上では紹介しきれなかった録音データ詳細を、ここに明らかにしちゃいましょう。


01 E01_matsumoto(新録)
ソリスト 松本和将


02 B20_kuriya(新録)
ソリスト クリヤマコト


03 B01_miyagi(新録)
ソリスト 宮城純子


04 E13_kita(新録)
ソリスト 北るみこ


05 M10_nakanishi_arianne(旧録からピアノと唄を抽出)
ソリスト 中西康晴(唄 Arianne、合唱 London Community Gospel Choir)


06 EM21_matsumoto(新録)
ソリスト 松本和将


07 KK_A09_miyagi(旧録のサイズ違い=未発表)
ソリスト 宮城純子


08 KK_A08_miyagi(旧録のサイズ違い=未発表)
ソリスト 宮城純子


09 KK_A09_alterna_kuriya(未発表テイク)
ソリスト クリヤマコト


10 E16_shima(新録)
ソリスト 島健


11 Quatre Mains_miyagi_kita(旧録リマスター)
ソリスト 宮城純子、北るみこ


12 E05_yamashita(新録)
ソリスト 山下洋輔


13 M11_shionoya_arianne(旧録から唄を抽出して、ピアノを新録)
ソリスト 塩谷哲(唄 Arianne)


14 A01_yamashita_take1(新録)
ソリスト 山下洋輔


15 Quatre Mains_tribute to Rachmaninov_kita(新録)
ソリスト 北るみこ


16 E05_sasaji(新録)
ソリスト 笹路正徳(バッキング=小池修、藤田淳之介、土方隆行、岡沢章、渡嘉敷祐一、仙波清彦)


17 A01_clone_miyagi(旧録リマスター)
ソリスト 宮城純子


18 F02_miyagi(新録)
ソリスト 宮城純子


(新録)今回『PianoForte』のために新たにアレンジ、新たに録音したもの。
(旧録からピアノと唄を抽出)過去発表済トラックから、特定パートだけ抜き出したもの。
(旧録のサイズ違い=未発表)劇場版『破』用編集サイズではなく、フルサイズを収録したもの。
(未発表テイク)劇場版『破』用にたくさん録音した中から、使用しなかったテイクを、収録したもの。
(旧録リマスター)過去すでに発表済トラックを、本アルバム用に、最新技術にてマスタリングし直したもの。
(旧録から唄を抽出して、ピアノを新録)Arianne旧Vocalのみ抜き出し、それに合わせ今回新たにピアノだけ録音したもの。


また、CDクレジット上には明記できませんでしたが、'16 E05_sasaji'にて、笹路のエレピ、アコピと共に、
テナーサックスの素晴らしいアドリブを奏でているのは、やはりエヴァではおなじみ小池修です。


エヴァのレギュラー・ピアニスト陣
宮城純子=6曲、北るみこ=3曲、クリヤマコト=2曲、島健=1曲、中西康晴=1曲

ゲスト・ピアニスト陣
山下洋輔=2曲、松本和将=2曲、笹路正徳=1曲、塩谷哲=1曲

以上の布陣。


「なぜ、あの曲が収録されてないの?」と、お嘆き、ご立腹のみなさま、もう少々お待ちください。
「PianoForte#2」(続編)も、すでに着々と、制作進行中です!!

なにせ、この企画はもともと『Q』以前からとりかかっていたもの。
つまり『Q』でも、かなりピアノ曲が増えたこともあって、
発表したいものは、まだまだ沢山あるんです!!


2013年10月22日 鷺巣詩郎








祝 BD/DVD 発売記念
The 'Q' Notes Rally

ごぶさたしております。

'Q' BD/DVD(OST付)は入手されましたでしょうか?

今年もまた、欧州内をグルグル廻りながら作業中です。
('Music From Evangelion 3.0'ライナーご覧の方は、どういう作業か、お察しいただけるはず)
遠くからですが、'Q' BD/DVD発売を祝して「何か出来ないか」と考えました。

そこで、実際OSTレコーディングに使用した譜面PDFを、ここにアップしようと思い立ちました。

題して

The 'Q' Notes Rally

ラリーは毎日0時スタートで、なんと1週間続きます!!

2013年4月23日 鷺巣詩郎より。




From Beethoven 9 =3EM27=


この第九を聴いて「おやっ」と思った方は、
相当数の第九を聴きこんでおられる。
さらに、
ホルン、金管に「むむっ」と引っ張られた方は、
そりゃもう現役か経験者。

なぜなら第一に、
終始クリックに支配された、
一風「変わった」第九 第四楽章であること。
(4つ打ちも、ブレークビーツも可能ゆえ、どうぞRemixに挑戦あれ!!)

そして第二に、
ホルン、金管、打楽器パートが、数カ所、
オリジナルから大きく離れているからである。

詳細(文章下)からも一目瞭然、
録音方法(順序)自体も、かなり変則。


今回『Q』すべてのオーケストラ編成において、
大きな特徴は、
木管が、2管編成(8名)または、3管編成(12名)であろうが、
弦が、14型(50名)、16型(60名)、18型(70名)であろうが、
「ホルン、金管の数」を、
かたくなに増量定数として、揃えたことだ。

そう、
『序』『破』では、
ホルン4本、トランペット3本、トロンボン3本、チューバ1本
という現代のオーケストラにおける基準編成だったのが、
『Q』では、
ホルン6本、トランペット4本、トロンボン4本、チューバ2本
という、相当ケバい(笑)編成に、揃えたのである。

このホルン、金管の増量定数も、
'From Beethoven 9'の仕上がりに、かなり影響を与えたというわけだ。

通常クラシックのマスターピースを演奏、録音する場合、
その「オリジナル・スコア」に100%忠実に、
オーケストラを編成、招集するもの。

しかし、
今回は、逆に、
われわれ『Q』独自の編成に、あくまでも即して、
第九を再構築すべく、
オーケストラ編曲を担当した、わが盟友、天野正道と、
何度もスコアリング・キャッチボールを重ねながら、
とことん、つきつめていった。


さて、
もうひとつ特筆すべきは、
第九 第四楽章の華「偉大なるソリストたち」!!

ぜひ、クレジットから、彼等の経歴も検索してみてほしい。

『序』『破』と、ずっとEvaの合唱をささえてきた、
Our Special Choirのリードの面々が、
いかに百戦錬磨のソリストであるか、読みとれるはず。

その素晴らしいパフォーマンスは、
『序』『破』『Q』を通して不変。

ことに、この'From Beethoven 9'において、
あたりまえながら、その真価を十二分に発揮している。


もちろん第九は、正真正銘のドイツ語歌詞だが、
(Seeleの発音が'ゼーレ'より'ズィーレ'寄りなのは、第九歌唱経験者なら合点だろう)
他のオリジナル合唱Cue(曲)は、すべて英語詞だ。

蛇足ながら
『序』『破』の合唱について
「唄っているのは本当に英語?」
「英語圏のシンガーでないのでは?」
との質問を、じつによく受ける。
(身内スタッフからも)

全員バリバリの英国人なのに、
なぜ、そう聴こえるか?

それは、
アレンジや歌詞に沿って、
「意図的」に、
ときにイタリア語的(オペラ風)な、
ときにドイツ語的(仰々しさを演出)な、
発音で唄っているから、そう聴こえるのだ。

そんな「贅沢な演出」は、
究極のプロフェッショナルである彼等だからこそ可能なのだと、
この第九を聴くと、痛いほどよくわかる。



オーケストラ The London Studio Orchestra
リード第一ヴァイオリン Perry Montague=Masaon(ペリー・モンタグ=メイソン)
オーケストラ指揮 Nick Ingman(ニック・イングマン)

合唱 Our Special Choir
リード・ソプラノ Catherine Bott(キャサリン・ボット)
リード・アルト Deborah Miles=Johnson(デボラ・マイルス=ジョンソン)
リード・テナー Andrew Busher(アンドリュー・ブッシャー)
リード・バス Michael George(マイケル・ジョージ)

総合編曲 鷺巣詩郎
オーケストラ編曲 天野正道

2009年12月Beethoven Studioにて、ガイド・ピアノ録音
2010年3月Air Lyndhurst Hallにて、ソロ歌唱と合唱録音
2012年8月Air Lyndhurst Hallにて、80人編成フル・オーケストラ録音




Bataille d'Espace =3EM01=


雰囲気だけは、ぜったい、明確に保持。
何かほんの少し「プラス・アルファ」を、付け足しましょう、と。

では、ホーン・セクションを加えましょう、と。

スコアやパートのプリントアウトも整えたセッション前日、
ふと「新たなギターも足そう」と思いついた。

ならば、これまでと少し変化をつけるべく、
北島健二に電話をかけた。

Evaは、ファーストコール・ギタリストの見本市。
今剛、芳野藤丸、松下誠、土方隆行
と来たら、もう北島だ。

この5人をはじめ、リズム・セクションの面々とは、
もう30年以上、一緒に仕事をしてる。
まるで童心に返ったような、
楽しい会話=演奏
に満ちている。



リズムセクション
山木秀夫(ドラムス)斎藤ノブ(ボンゴ)
今剛、芳野藤丸、北島健二(ギター)

編曲 鷺巣詩郎

2007年7月 リズムセクション録音
2012年7月 エリック宮城トップのホーン16人編成オーケストラ追加録音
2012年7月 北島健二のギター追加録音




Qui veut faire l'ange fait la bête (piano solo) =3EM17=


るみちゃんを初めて聴いたのは1986年、
森雪之丞バンド「マイティ・オペラ」の初ライヴ。
村田陽一や、ラッキイ池田もいて、えらくゴージャスだった。

「すごく良いから鷺巣くんも呼んだら」との雪之丞リコメンドもあり、
仕事をお願いするようになった。

初Evaは、旧劇場版。
その流れで、交響楽(コンサート)にも参加してもらった。

オケをしたがえ、るみちゃんの超絶ピアノが炸裂する'I SHINJI'は、
誰もが認める名演に仕上がった(スコアは斎藤恒芳)。

このCue(曲)からもうかがえるのは、
「この譜面は、こう練習して、こう弾くべし」という、
るみちゃんの、かたくなな美学である。

そうした彼女のアティテュードが、
完璧な仕上がりを導くのだろう。

宮城純子、クリヤマコトとともに、Evaにとって必要不可欠なピアニストである。


独奏 北るみこ

録音は2012年10月、ピアノはSteinway。




Quiproquo 131 (2 pianos) =3EM03=
Quiproquo 83 (2 pianos) =3EM09=


1台のピアノ連弾は、
さすがに今回'Quatre Mains'が初めてだが、
2台のピアノ連奏ならば、
『序』の'I'll Go On Lovin' Someone Else'や、
旧劇場版の『空しき流れ』でも、
同じ、宮城純子、北るみこ、の連奏を、
すでに何度か録音している。

庵野作品で、もっと遡るならば、
『ふしぎの海のナディア』においては、
故大谷和夫氏、宮城純子、の連奏もあった。

そう、鷺巣は元来、2台のピアノ連奏が大好きなのだ。

今度こそ、ぜひ3台の同録にも挑戦したい!!


編曲 鷺巣詩郎

2012年10月 
宮城純子(下声部)Boesendorfer
北るみこ(上声部)Steinway
同時レコーディング




Quelconque 103 (piano) =3EM08=


『破』のライナーにも書いたが、
かれこれ36年間も仕事を共にしている。
鷺巣にとって、とても、とても大切なピアニスト。

映像音楽のセッションで、彼女を呼ばなかったことは無いほど、
数々の「音楽表現」をしていくうえで、
いちばん重要な奏者である。

宮城純子の指先は、
鷺巣の書いた譜面にひそんでいる、
庵野秀明というアーティストが紡ぐ「機微」までを、
映像に投影してしまう。

そのシンクロ率たるや半端ではない。


独奏 宮城純子

録音は2012年9月、ピアノはBoesendorfer。




Thème Q (guitare) =3EM13=


誕生は『破』公開直後。

『Q』内容云々というより、広義なCue(曲)が出来たかな、と
仕上げの譜面を書いているとき、
ふと『序』の'EM09'→'Guit_A'との類縁を感じ
「そうだ(松下)誠に頼もう」となった。

先に書いた30年以上のつきあい、という理由より、
なにより、
松下誠は、鷺巣にとって
入組んだ「リハモ(Reharmonization)感覚」を共有できうる、
つまり、
独奏を「100%」ゆだねるられる、
数少ないギタリストだからだ。

さらに、ハイファイに対して
高度な自己流儀が、常に保たれていることも大きい。

ハード、ソフトウェアは、現状に及ばないが、
ノウハウという面で「スタジオ芸術」が最も洗練されたのは、
1960、70年代であることに疑いの余地はない。

あらゆるスタジオ的な見地から俯瞰しても、
演奏能力だけでなく、そうしたノウハウをも熟知した、
松下誠、今剛、
このふたりの「スタジオ芸術を極める」能力だけは、
世界的にも「突出している」。

『Q』の主題は、松下誠なしに、生まれなかっただろう。


ギター 松下誠

録音は2009年11月




Gods Message =3EM02=


 もっとも嬉しい出来事と、もっとも悲しい出来事が、ほぼ同時に押し寄せた。

 かつて革命を起こしたジャズ・ヴォーカル・グループがあった。

 結成50年を経た現在も(オリジナル・メンバーではないが)
なお活動中のThe Swingle Singers(Les Double Six)である。

 その結成の地Parisにて、彼等とオーケストラとの共演が観られたのは本当に幸せだった。
が、しかし、その歓喜興奮も束の間の、2011年11月、
オリジナル・メンバーであり、Michel Legrand(ミシェル・ルグラン)を弟に持つ
Christiane Legrand(クリスティアヌ・ルグラン)が
逝去してしまった…


 米英産と誤解されがちだが、
いわゆる<シャバダバ>等のスキャットを「合唱してしまう」
独創的な発想と、その表現方法は、
じつは彼女が大きく発展させたものであり、多くの名演を残している。

その輝かしき功績は、Demy(ジャック・ドゥミ)=Legrandによる銀幕名作群においても、
彼女が牽引した美しいジャズ大合唱が証明している。


 ただし今回、この'Gods Message' だけは、
わが冬木透氏に敬意を表した「あの合唱」と明記しなければならない。


 鷺巣の仕事仲間でもある友人Benjamin Legrand(バンジャマン・ルグラン)は、
Michel Legrandを父に持つ、やはりジャズ・ヴォーカリスト。
20年前そのBenjaminを東京に招きライヴを催した時、
まっ先に駆けつけてくれたのが故羽田健太郎氏である。

やはり、大のDemy=Legrandフリークである羽田氏と共に、
その楽曲群の魅力について語り明かしたが、
一致したのは、それら魅力のかなりの部分を
「Christiane Legrandによる独特の合唱」が占めているいう点であった。


 『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』を回想する際、
まっ先に頭に鳴るのがLegrand姉弟による合唱であるように、
やはり『ウルトラセブン』『帰ってきたウルトラマン』と言えば、
あの冬木氏の合唱が鳴り響くのは至極同然である。
 

 わが家のスタジオから『マグマ大使』(1966)が生みだされていた頃、
ピープロの一兵卒としての自負を持っていた小学生の鷺巣は、
なにより故山本直純氏の奏でる素晴らしい音楽が、とても誇らしかった。

さらに、告白するならば、
同時期に『シェルブールの雨傘』(1964)『ロシュフォールの恋人たち』(1967)
『ウルトラセブン』(1967)『帰ってきたウルトラマン』(1971)に触れた、欲深き子供が、
「いつか、こういう合唱を自分の曲にも加えよう!!」
と、
すでに心に決めていたのである。



オーケストラ The London Studio Orchestra
リード第一ヴァイオリン Perry Montague=Masaon(ペリー・モンタグ=メイソン)
オーケストラ指揮 Nick Ingman(ニック・イングマン)

合唱 Our Special Choir
リード・ソプラノ Catherine Bott(キャサリン・ボット)
リード・アルト Deborah Miles=Johnson(デボラ・マイルス=ジョンソン)
リード・テナー Andrew Busher(アンドリュー・ブッシャー)
リード・バス Michael George(マイケル・ジョージ)
合唱作詞 Mike Wyzgowski(マイク・ウィズゴウスキ)

総合編曲 鷺巣詩郎
オーケストラ編曲 天野正道
リズム編曲、プログラミング、すべてのギター、ベース演奏 CHOKKAKU 

2012年4月Air Lyndhurst Hallにて、The London Studio Orchestra 80人フル編成オーケストラ録音
2012年7月東京にて、エリック宮城トップのホーン16人編成オーケストラ追加録音
2012年8月Abbey Road Studiosにて、The London Studio Orchestra 50人編成ストリングス・オーケストラ追加録音
2012年8月Air Lyndhurst Hallにて、合唱録音




Quatre Mains (à quatre mains) =3EM16=


Paris仕事場で、連弾用のPiano小品を、1週間かけて20個ぐらい書き、
選別、合体、推敲をかさねた12個を、監督に送ったところ、
「もっと『明るく、躍動感ある』ものを」との返事。

コンテを熟読しすぎて、鬱々感が滲んだかな?と顧みた瞬間、
とつぜん頭の中に、この『Quatre Mains』の完成形が流れ出した。
猛然と書き、録り、速攻で監督に送った。


頭に浮かんでから監督に送るまでのスピードが、
Cue(曲)自体のテンポ(速度)にも反映されたようだ。

表示の「140 BPM」を見ても、客観的に聴いても、さほどは感じないのだが、
弾いたら最後、とにかく「速い」!!
まるでジェットコースターのように恐ろしく、
弾き手泣かせこのうえない。


ほんの少しだけ下げ「138 BPM」にして、おそるおそる監督に再送したところ
「面白味がないですねぇ」。
そりゃもう、その通りだけに、逆に「さすがの反応」と感心した。


かくして、さらに、おそるおそる、二人のピアノ奏者に
「140 BPM」のまま譜面とコンピュータによる演奏を送ったのである。
まずは悲鳴も聞こえたが、
そこは選ばれし者たちの「フィギュアスケート、体操の規定演技」のごとし。
かぎりなく自然に、パフォーマンスを「高み」まで運びうる熟練に、心配は無用だった。


さて本番は「撮影か、録音か、わからない(笑)」ほど。
カメラ総数なんと20数台!!


宮城純子がしっかり下部をささえ、北るみこが軽やかに上部を奏でる。

雰囲気を変えたオプションが欲しくなった時のために、クリヤマコトも待機してもらう。


撮影、録音あわせて、総勢30名以上のスタッフ。
すべてのテイクをカチンコで区切り、20数台のカメラ、録音機材を、毎回セットアップ・スタンバイ。
「庵野総監督→鷺巣→前田監督の合図」という三段構えで本番が持続する、
いつにない異様な雰囲気の中、撮影、録音は進行した。


緊張により醸しだされる独特な「高揚感」が、奏者の指先に大きく作用し、
ひじょうに良い結果をもたらした、と言うしかない。

ピアノの音色というポテンシャルを超越した、
「はじけるような」個性ゆたかな音色が、ここにある。


2012年7月、予告が初公開された際、
「映像はYAMAHAだけど、音はSteinwayかBoesendorferなのでは?」との質問を、よく受けたが、
録音も撮影も同時ゆえ、正真正銘YAMAHAの音。
ただし、特殊環境というプラスアルファが加味された、
まさにワン・アンド・オンリーの音色である。


ピアノ好きの庵野監督ゆえ、録音はいつも複数台ピアノを用意する贅沢な環境。
旋律やアレンジにより、Boesendorfer、Steinway、YAMAHAから、監督もまた比較選別する。

YAMAHAが選ばれたのは『序』における、いくつかのCue(曲)以来。
しかも「何年から何年の間に製造されたモデル」とまで特定され、
スタジオ常設のSteinwayピアノを押しのけて、この録音、撮影だけのために、
「YAMAHA CFIII」が、業者により運びこまれたのだ。


完璧なパフォーマンスを導いてくれた、宮城純子、北るみこ、両ピアニストに、
いま一度、大きな、大きな拍手を送りたい。



編曲 鷺巣詩郎
(レコーディングに使用した譜面を、そのままCD付録として掲載済)

ピアノ演奏 宮城純子 北るみこ




ヱヴァ音楽制作上の、いくつかの「定石」。


 Air Lyndhurst Hall(巨大教会ホール)で録音した全データは、当日深夜わがスタジオEastcoteに持ち帰り、
さっそく翌日いっぱいまで、すべてのテイクを試聴、OKテイク確認作業を集中して行う。

そしてオーケストラ録音の2日後からは、ホール階上の部屋(Air2か3)にエンジニアのRupert Coulsonと共にこもり、
まずは合唱を除き、オーケストラ部分だけのミックスを開始する。

これが「定石」の第一である


 なぜ、かならず2日後かは明白。
膨大な量のオーケストラ・テイクの綿密な記憶など、2日間の保持が限界だからだ。
なぜ、合唱を除くかは後述しよう。


 じつは大敵は、演奏ミスではなく「ノイズ」。

 良い環境(スタジオ、マイク、機材)において、大人数(80名以上)多マイク(50本以上)で録音すればするほど、
奏者の呼吸から、楽器を扱い、指が譜面に触れるなど、ほんの些細な物理音まで拾ってしまうもの。

なにしろ「カサッ」と雑音がしたら、50以上のトラックすべて「1トラックづつ」確認しながら、
それらをミリセカンド(1/1000)秒まで拡大して、ピンスポット消去していく作業は生半可ではない。

1回で、20 Cue(曲)は録音するから、その50トラックぶんとしても、のべ1000トラック、
しかも1000トラック各々が「数テイクぶん」「実時間ぶん」存在するのだから気が遠くなる。

 さらに加えて、同じく50以上のトラック数の「合唱」が、まだ存在するのだ。


 まずはオーケストラ「だけ」しかミックスしないのは、
そういう膨大な量の中から「順次、確実に」確認、選択、削除、整理していかなくてはならないから、
という理由がまず第一。

 第二の理由として、
合唱は公開直前の最終段階において「出し入れ(映像により、聴かせる部分、カットする部分)」必須であろうし、
場合によっては「歌詞を変え、録音やり直し」も想定しなければならないから。
(じっさい今回は、なんと映画公開2週間前に、歌詞を書き換え、再録音を敢行した)

ゆえに「オーケストラと合唱は、常に別個にしておかねばならない」のも、また「定石」。


オーケストラで50以上、合唱で50以上、合計100以上のトラック、
そして、すでに『破』からの「定石」だが、
そのオーケストラも合唱も2倍、3倍に増やすことが、めずらしくない。
トラック総数が300、400まで膨らむということだ。

 ここまででお察しの通り、
ヱヴァの音楽には「とてつもない数量をこなす時間」が、もう絶対、必要不可欠。
これもまた「定石」である。


 この膨大なトラック数が、さらにやっかいなのは、
いかに日本有数の東京の大スタジオに入ろうが、
ヱヴァ音楽(そのProToolsセッション)だけは、絶対に立ち上がらないことである。

 通常プロダクションの録音トラック数の常識範囲を大きく超えた、
とてつもないトラック数(たとえば歌手アーティスト録音の十数倍)ゆえに、
コンピュータ容量や、ソフト性能も含め、まず再生が不可能。
つまり単に聴くことさえままならないのだ。

 Londonでも、ヱヴァと同数のトラック使用を常とするハリウッド大作の音楽制作が日常的に行われている
AirかAbbey Road Studiosでないと再生不可能なのだから、当然といえば当然だ。


 かくして、本編制作基地「カラー」からもほど近い鷺巣のスタジオにて、
ヱヴァ音楽のあらゆるミックス作業が行われるのである。

もちろんParisでも、Londonでも、鷺巣のスタジオならば作業は可能だが、
なにしろ、カラーまで至近距離なのだから、監督もすぐ来られる。
あたりまえの「定石」である。
http://www.ro-jam.com/info.php