国の予算はどう作られているのか? 行政学者が解説

2021年10月04日 13時24分21秒 | Weblog
https://news.yahoo.co.jp/articles/033d68c1faf74c05d0a2d6cd64fe978b09940a47

 新型コロナウイルス感染症対策や経済対策を盛り込んだ2020年度の3次補正予算が衆参両院で可決、成立した。20年度の当初予算は約102兆円だったが、その後コロナ対策で2回の補正予算を組み、3次補正でさらに21兆8235億円が追加された結果、約175兆円という、当初予算の1.7倍を超える空前の規模となった。公共サービスなど私たちの生活に直結する予算だが、予算編成は「奥の院」で行われるというイメージが強い。実際にはどのように作られているのだろうか。(行政学者・佐々木信夫中央大名誉教授)

 国家予算は収入とその使途(支出)に関する計画を金額で表示したものだ。その予算を編成するのは内閣であり、内閣は作成した予算案を国会へ提出し審議・決定を求める。

 政府の活動を財政の視点で捉えると、「plan→do→see」つまり(1)予算作成(2)執行(3)決算・検査――の過程を経る。このサイクルは毎年繰り返されるという意味から「予算循環」とも呼ばれる。決算検査で指摘された事項は翌年の予算編成に反映され修正されていく。

「本予算」「補正予算」「暫定予算」
 予算の作成過程は一般に「予算編成」と呼ばれる。予算編成は、原則として新しい会計年度が始まる以前に完了しなければならない。日本の場合、会計年度は4月に始まり翌年3月に終わるので、新年度予算は前年度末の3月31日までに国会の議決を経ていなければならない。このときまでに予算が成立しないと、公務員給与も生活保護費も1円たりとも支払うことができない。

 政治状況など何らかの事情で3月末までに新年度予算の成立が難しい場合、本予算が成立するまでの1~2か月間の「暫定予算」を編成し、これを国会に提出しその議決を求めることになる。もとより、この暫定予算は後に本予算に組み込まれる。

 予算には、年度当初に組まれる「本予算」と、その後追加される「補正予算」がある。なぜか日本は毎年秋に補正予算を組むのが常態化している。見込みより歳入増になる場合も補正予算は組まれるが、いまの日本ではそうした状況は想定できない。補正予算といったら歳出の追加を行う場合が多く、結果、国だけでも1200兆円近い債務残高(借金)が累積している。これは国民に対する税金の前借証書を意味する。

「予算編成」とは?
 国の予算編成は内閣の専管事項とされ、予算案の提出権は内閣のみにあって議員にはない。内閣が毎年予算案を作成し(実際の事務は財務省が担当)、国会に提出している。
 
 地方自治体の場合、国の合議制の内閣と異なり、予算編成権は首長の単独権限とされている。自治体の長は「予算を調製し……」と法律に規定されているが、一般に予算編成と同義だ。

 予算とは「一定期間における収入と支出の見積り又は計画」のこと。かみ砕いて言えば「一定期間中の財政計画であると同時に、住民の納めた税金がどう使われ、還元されようとしているかを示す一種の行政計画」だ。その年の施策一覧とも言える。だから予算の決定については、住民の代表である議会に議決権を持たせ、決定後は予算が公表されるよう義務付けられているのである。

予算編成の流れ
 予算編成作業はいつごろから始まり、いつ終わるのだろうか。

 国の場合、各省庁は5月頃から次年度の予算要求の作業を始め、新規政策の立案や既存施策の見直し作業に入る。首相の諮問機関である経済財政諮問会議の「骨太の方針」という予算編成の大枠(6月か7月に出される)の考え方をもとに、7月下旬には新年度予算の概算要求基準が閣議決定され、その通知をもとに、各省庁の予算編成作業は本格化する。

 各省庁では課から局へ、局から省への要求積み上げ作業を行い、与党の政調会各部会らと調整しながら、省庁としての予算の骨格を決めていく。並行して財務省主税局は税収などの歳入見積もりを作成していく。そして、8月末までに財務省に概算要求書を提出する。

 それを受け、財務省は、9月1日から予算査定のためのヒアリングを開始。この9月から政府案の決まる12月下旬までの4か月間が財務省主計局にとって予算編成の本番で、財務省は“不夜城”とも言われる多忙な時期を迎える。

 財務省では、9月1日から2~3週間、各省庁担当幹部から説明を受け、その後に予算査定作業に入る。


東京・霞が関にある財務省(写真:西村尚己/アフロ)

 ちなみに予算編成を担当する財務省主計局は、総務課など6つの課と主計官、主計監査官からなるが、直接予算編成を担当するのは9人の主計官たちである。組織形態は軍隊組織に似ており、現場で指揮をとる主計官たちを「連隊長」と呼び、その主計官のもとに数人の主査(中隊長)と主計官補佐(小隊長)がおり、その下に係長、係員が配置される。1つの連隊は10数人から20人程度だ。

 そしてこの9人の主計官を束ねるのが「師団長」と呼ばれる3人の「局次長」で、この局次長がそれぞれ3人ずつの主計官を指揮下におく。この3人の局次長が各省庁の予算編成に責任を持つ。それを大局的見地から指揮するのが軍団司令官の財務省主計局長であり、その上の総司令官が財務大臣ということになる。

 10~11月にかけて主計局次長の一次査定、二次査定の局議がなされ、この間、主計局総務課では税収見積もり、国債発行などについて主税局、理財局と協議し予算全体のフレームワーク作りを進めていく。

 予算編成の大詰めを迎える12月に入ると、国会議員や知事、市町村長、圧力団体らが財務省や政府与党(連立政権を支える各党)に陳情攻勢をかける。これがよくテレビに映し出される光景で最後のツメがこの頃行われると見てよかろう。

 こうして財務省は年末の押し詰まった12月下旬に政府原案を閣議に提出し、閣議の了承を得て各省庁に予算の内示をし、国民に公表する。ただし、これで予算編成が終わる訳ではない。公表の翌日から予算化されなかった事業に対する復活折衝が始まるのだ。主計局長と各省庁事務次官など事務レベルで折衝し、それで決着がつかない案件は各省大臣と財務大臣で行う大臣折衝へ、さらには与党の党三役折衝へと政治折衝の過程を経て決着をつけていく。それらを経て政府案が正式に決まる。

 政府案は翌年1月中~下旬には国会に提出され、まず衆議院で予算審議が行われる。憲法の規定で予算審議は衆議院に先議権がある。2月中に衆議院予算委員会で審議され衆議院本会議において可決した後、参議院に回される。参議院予算委員会の審議を経て、参議院本会議の可決をみて3月下旬に新年度予算が成立するという流れだ。

 もっとも、これは順調なケースで、衆参が「ねじれ国会」の状態だったり、大災害など不測の事態が発生し予算審議が長引き、4月に入っても予算が成立しない見通しの場合、本予算成立までの期間(1~2月)は暫定予算が編成されることになる。暫定予算は本予算が成立するとそれに組み込まれる。


執行から検査まで
 新年度から予算の執行に入る。ここでは、予算の年間配賦計画が立てられ、4半期単位で各省庁に財務当局から予算が配賦される。受け手となる各省庁はこの配賦計画に基づいて物品の購入や、工事請負契約を結び、事業を執行していく。当然のことだが、国会で議決した予算には法的拘束力がある。財政当局が勝手に「款・項・目」の変更や、実施の変更を指示することは許されない。

 1年間の予算執行が終わると、執行が終わった翌年度から決算検査が始まる。内容としては、(1)各省庁が会計帳簿を整理し決算報告を作成する過程(2)並行して行われる会計検査院による会計検査の過程(3)各省庁の決算報告と会計検査院の検査報告を国会に提出し、審議・承認を得る過程、の3つに分けられる。

 財政の民主的統制は基本的に国会、地方議会の役割だが、国の会計検査院、自治体の監査委員の役割も大きい。国の場合、内閣から独立した会計検査機関として会計検査院がある。

 しかし、会計検査で指摘された事項は翌年度の予算編成、執行の改善として反映されるものの、「事後チェック」が役割なだけに、その限界もある。また、各省庁の多くの出先機関を毎年検査することも体制上無理で、極端な話、10年に一度しか検査院が来ない、という出先機関も少なくない。これで十分な検査体制かどうか、議論のあるところである。

短命政権では責任持てない? 財政規律をしっかり議論せよ!
 予算編成、執行、決算計算検査を経た1会計は、国会の決算承認をもって終わる。決算過程に要する年月は1年半に及ぶので、一つの財政過程(PDCAサイクル)は予算作成に約1年、執行に1年、決算検査に1年半の合計3年半掛かることになる。予算はややもすると政治家の人気取りの手段に使われがちだ。特に内閣が頻繁に変わるとその傾向が強い。

 政権交代や内閣交代が1~2年単位で行われるようだと、予算編成した内閣は、執行はできず、また決算は2代前(あるいは他党の政権時)に編成されたものを審査・承認する、という事態も出てくる。自治体の場合、首長の任期は4年で辞職や解散はあまりないが、国の場合、そうではない。少なくも1内閣は予算のライフサイクル(PDCA)からすると「4年」は政権の座にいないと、責任ある政治を行うことにはならない。戦後、5年以上続いた内閣は第二次安倍晋三内閣を筆頭に5つしかない。

 決算や政策評価を受けないまま内閣が終わる――。日本の財政膨張の原因も短命政権を生みやすい政治状況が絡んでいる。議院内閣制の母国イギリスは首相の頻繁な解散権を抑制する視点から、与野党を含め国会の3分の2が解散に賛成しないと国会を解散できない仕組みになっている。このイギリスモデルを移入すべき時期に日本も来ているのかもしれない。

 加えて最近補正予算が安易に組まれ、予算全体を膨張させる傾向が強い。景気対策とか災害復旧が名目となるが、各省庁は補正予算の財務省査定が甘いというところに目をつけ、不要不急の費目を追加要求する悪弊が目立つ。その財源は概ね赤字国債の追加発行だ。日本は財政規律がどんどん失われている。これは財政収支を均衡することだけを意味しない。国民のニーズに合致しない無駄な公共サービスを供給せずに、国民に適切な租税負担を求めるという意味での効率性を実現することだ。

 野党やマスコミによる適切な批判なくして財政健全化の道はますます遠のく。新年度予算の国会審議が間もなく始まるが、その点、緩んだ箍を締め直す国会論戦にも期待したい。

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