「宇宙の始まり」に行ってみたら、私たちは“10億分の1”の奇跡の存在だった

2021年10月04日 13時14分21秒 | Weblog
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8/20(金) 6:11配信


 「我々はどこから来たのか、我々は何者なのか、我々はどこへ行くのか」

 この根源的な問いに、世界の最先端を行く物理学者・村山斉さんが、分かりやすい例え話を使って解説する「村山斉の宇宙をめぐる大冒険」。最終回は、私たちが今この宇宙に存在できる理由について。村山さんと一緒に日本の伝統文化に触れながら、宇宙の始まりに起きた不思議な出来事に迫ります。(コズミックフロント取材班)


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【プロフィール】
村山斉(むらやま ひとし) 
カリフォルニア大学バークレイ校教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構教授。1964年東京生まれ。素粒子物理学の第一人者で、宇宙の謎に対する、分かりやすくて面白い講演も人気の理論物理学者。
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○宇宙も地球も私たちも元素でできている
 「宇宙になぜ私たちが存在しているのか?」このとても素朴な疑問に答えるために、まず私たちの身近なものから見ていきましょう。

 私たち人間の体は、およそ60兆個の細胞でできています。細胞はタンパク質や脂質、水などから成り、これらの物質は、窒素、リン、酸素、炭素、水素という「元素」からできています。もちろん体全体を見ると、もっとたくさんの元素が必要で、何十種類もの元素から成り立っています。

 元素は今までに118種類見つかっていますが、その中には人間が人工的に作り出したものもあるので、自然の中にある物質を作る元素はおよそ90種類です。全ての物の元になる材料ということで、昔の人は「元素」と名付けました。私たちの身の回りのものは全て、元素の組み合わせでできています。そして元素の正体は「原子」です。原子は真ん中に原子核があり、その周りを電子が回っています。


○物質の最小の世界へ

 実は原子を構成する原子核と電子は、とても小さいんです。では、どのくらい小さいのか、野球場でお見せしましょう。野球場全体を原子の大きさだと考えます。原子核の大きさはというと、野球場の真ん中に立つ村山さんの手の上のわずか数ミリほどのサイズになります。

 そして、原子核の周りを回る電子はスタンドの一番上に位置します。その大きさは髪の毛の太さほどもありません。つまり、原子核も電子も、原子の大きさに比べたらずっと小さいのです。

 この世にあるものはすべて原子からできていて、原子は、とても小さな電子と原子核からできています。さらに、原子核を構成するのは、もっと小さな陽子と中性子で、その中には、もっともっと小さな世界が隠れています。物質を作る一番小さな単位、素粒子の世界です。

 陽子も中性子も、作っているのは2種類の素粒子です。実は、原子核の周りを回る電子も素粒子の1種です。つまり、私たちの身の回りの物質は全て、この3つの素粒子に行き着くのです。

 さあ、私たちが宇宙に存在する理由を知るために、物質の最小単位の素粒子が、いつどうやって生まれたのか見ていきましょう。誕生の現場となったのは、宇宙の始まり、ビッグバンです。


○ビッグバンの「釜」で素粒子が生まれた

 ビッグバンの時にどのように素粒子は誕生したのか。室町時代にポルトガルから伝わったとされる金平糖で例えてみます。

 金平糖は、大きな釜に、イラ粉という小さな粒を入れて、その周りに砂糖の蜜を絡めていくことで、あのいがいがのある形になります。必要なのは熟練の職人技。触れないほどの熱い釜に少しずつ蜜を加え、焦がすことなく水分を飛ばして、金平糖の独特の「いが」を作り上げていきます。しかも1日に大きくなるのは、わずか1ミリ。それを2週間以上もかけて大切に育てて、やっと金平糖が出来上がるのです。

 宇宙の始まりのビッグバンも、金平糖の釜のようなものでした。温度は、はるかにはるかに高くて100億度以上。その釜の中で素粒子が生まれたのですが、蜜の代わりに素粒子の原料になったのは温度のエネルギーです。エネルギーが姿を変え、素粒子として現れたのです。

 なんとも不思議な話ですが、ミクロの世界ではそういうことが起きるのです。金平糖の場合は1種類作るだけでも完成まで2週間以上もかかりますが、素粒子の場合は、ほんの一瞬の出来事。ビッグバンで宇宙が始まってから1秒もたたないうちに、宇宙を形づくる全ての素粒子が姿を現したのです。

 でも、ここで不思議なことが起こります。ビッグバンで生まれたのは素粒子だけではありませんでした。双子のきょうだいのように、そっくりな「反素粒子」といわれるものも同時に生まれたのです。

○鏡に映したような“反素粒子”

 反素粒子とはどういうものなのか。続いての舞台は、剣道場です。剣道の面をつけると、みんな同じように見えるというのもポイントです。では、私たちがなぜこの宇宙に存在しているのかという謎を解く鍵を見ていきましょう。

 ペアで生まれた素粒子と反素粒子。その動き方は鏡に映したように対称的です。対称的とはどういうことかというと、例えば、素粒子が右利きなら、反素粒子は左利き。素粒子が右へ進むと、反素粒子は左へ進みます。素粒子が右回転していると、反素粒子は左回転します。

 そして、素粒子がプラスの電気を帯びているとすると、反素粒子は、マイナスです。このように、見た目はまったくそっくりでも、動き方が鏡に映したようになっている。これが、素粒子と反素粒子なのです。

 ところが、反素粒子は、私たちの身の回りでは、まったく見当たりません。いったいどこへ行ってしまったのか。これは科学者が長い間、謎として考え続けてきた問題なのです。

○素粒子だけが生き残った謎

 同時に出来たはずの素粒子と反素粒子を考えるのに、大きな鍵となるのが、素粒子と反素粒子の間の、1つの性質です。反素粒子と素粒子は一瞬でも出会うと、ものすごいエネルギーを出して消えてしまうのです。「対消滅」と呼ばれる性質です。

 ですが、ここで疑問が生じます。宇宙の始まりに、双子のようにペアでできた素粒子と反素粒子は、宇宙の中に同じ数だけあったはずです。ならば、すべてが消えてなくなってもおかしくはない。

 そうなると、この宇宙には、星も銀河もそして私たちも存在しないことになります。ではなぜ今、宇宙には数え切れないほどの星があり、私たちがいるのでしょうか? 
 最先端の研究では、なぜかほんの少しだけ素粒子が生き残ったと考えられています。その確率は10億個に1個くらい。素粒子と反素粒子の数に差ができてしまったのです。その差が生まれたのは宇宙が始まった直後、ビッグバンでのことでした。

 そもそも、素粒子だけが生き残るためには、素粒子と反素粒子の数に違いが生まれなければいけません。基本的には、鏡に映したようにそっくりな素粒子と反素粒子ですが、世界中の研究者が調べていったところ、実は、その振る舞いに少しだけ違いがあることが分かりました。

 例えればこんなことです。竹刀を持った時、角度がほんの少し違っていたり、足を踏み出した時、ほんの少しずれたりするのと同じようなことです。

 つまり、素粒子と反素粒子は、鏡に映ったようにぴったり同じ動きをすると考えられていましたが実は少しだけ違いがある。これは物理学者を驚かせる大きな発見でした。「CP対称性の破れ」と呼ばれる現象です。

 そして「ほんの少しの違い」なので、実は10億個に1個くらいが反素粒子から素粒子に変わることがあり、 ほんの少しだけ素粒子が多くなったのです。そして、対消滅で素粒子と反素粒子が消えた後も、このごく一部の素粒子だけが生き残ることができたのだと考えられるのです。


○日本がリードする反素粒子の研究

 素粒子と反素粒子の間になぜ違いが生まれたのか。この仕組みを世界で初めて実験で明らかにした現場が茨城県つくば市にあります。高エネルギー加速器研究機構です。始まったばかりの宇宙で起きていたことを実験室の中で再現しました。

 直径3キロものトンネルの中にリングがあり、ここで、ほとんど光の速さまで加速した素粒子と反素粒子をぶつけるという実験を行っています。調べたのは、素粒子と反素粒子が衝突した後に、一瞬だけ生まれる「B中間子」という粒子です。この粒子の変化を調べたところ、「反B中間子」と違っていることがわかりました。

 つまり、単に鏡に映したものだと思われていた素粒子と反素粒子の「ほんの少し」の違いは、この一瞬だけ生まれる粒子の変化の仕方やタイミングのズレであることがわかったのです。

 ついに、素粒子が10億個に1個の確率で生き残った仕組みが明らかになりました。しかし、これは仕組みのごく一部。全容解明にはさらなる研究が必要です。



○300km先の的に当てる壮大な実験

 さらなる追求が続くこの分野で今注目を集めているのはニュートリノという素粒子です。宇宙に膨大な数があるため、もしこの素粒子でCP対称性の破れが確認されれば、謎の全容解明へ大きな一歩となります。この実験でも日本が先陣を切っています。

 それは例えるならニュートリノの矢を放って、300km先の的に当てるという壮大な実験です。

 実際に矢となるニュートリノと反ニュートリノを作り出しているのは、茨城県東海村にあるJ-PARC(大強度陽子加速器施設)です。

 ここの加速器を使ってニュートリノを作り、的となる岐阜県飛騨市の山の中にある実験施設、スーパーカミオカンデまで飛ばします。スーパーカミオカンデには巨大な水槽があり、壁にはたくさんの光センサーが取り付けられていて、素粒子・ニュートリノをとらえることができます。

 実はニュートリノの矢も、反ニュートリノの矢も300キロ飛ぶ間に変身するのです。そこで、ニュートリノの変身の仕方と、反ニュートリノの変身の仕方の間に違いがあるかどうかを調べているのです。

 この実験は2010年に始まり、データをため続け、ニュートリノと反ニュートリノの変身の仕方の違いがだいぶ見えてきたところです。これがはっきりすれば、間違いなくノーベル賞級の大発見です。

 なぜ素粒子だけが生き残り、この宇宙に私たちが存在できたのか、その理由を説明できる日が来るかもしれません。最新の科学は、私たちがこの宇宙に存在する理由を、一つ一つ解き明かしているのです。

コズミックフロント(NHK)


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