「山ほどの男性に好かれるより、1人のいい人に好かれる方がいい。私の周りには、なんでいい人がいないんだろう…」
十数年の結婚生活を経て、離婚に踏み切ってから5年。大阪市内に住む女性(38)は、こう言ってため息をつく。生活保護を受けながら、受付業務など短期間のパート勤務を繰り返しているが、「生活保護費を減らされるのは困るから、なるべく休みは多く取る。私は到底、自立なんてできない」とこぼす。一方で、こんな生活から早く抜け出したいと、再婚は常に意識している。
彼氏は、いつも“キープ”している。付き合っている男性と別れる前から、「やさしくしてくれる」という理由だけで別の男性との交際を始めてしまう。はっきりと別れを告げると、「ストーカーされたり、嫌がらせされたりして怖い」という恐怖心が先立ってしまうからだ。でも、付き合っていても相手を心の底から信頼できないし、もっといい人と巡り合えるかもしれないと思うと、結局は再婚には踏み切れない。
ふしだらという自覚はないが、数人の男性の間を渡り歩く自分に、嫌気がさすこともある。そして、相談を持ちかけることができる同性の友達は、1人もいない。
一番の悩みは、子供のこと。中学3年生の一人息子は、離婚前はとても明るかったのに、1年前から不登校になり、今は引きこもり状態だ。
母親は男性との打ち解けないままの交際を繰り返し、子供は母親以外の人間との関係を遮断して、「個」の世界に入る…。関係不全の“縮図”があった。
男性との交際が途切れたことのないこの女性とは対照的に、出会いを求めて結婚相談所を訪れる人たちも後を絶たない。ここにも関係不全の一断面がある。
「結婚までは、振ったり振られたり、断ったり断られたりするものなんですが、(その前段階の)交際にもならないで終わってしまうことが結構ある」。結婚相談所「関西ブライダル」(大阪府東大阪市)の杉山貞之代表は、こう嘆く。
これまでならば、交際していく中でお互いを知り、恋愛に発展して結婚へと進んでいった。しかし、互いをよく知る前に、次から次へと見合い相手を替えていってしまうことが少なくないという。
ある40代の男性は、2年間で数十回もお見合いをしたが、いずれも1回きりですぐに断りを入れ、全く長続きしなかった。相談所のアドバイザーは「また、断るんですか。とりあえず、交際してみよう。完璧(かんぺき)な人間なんていないんだから」と助言し続けた。そして、ようやく今年4月、結婚にこぎ着けた。
杉山さんは相談所を「結婚塾」と自称し、人との付き合い方を指導していく場だと話す。
「モノとモノとをくっつけているわけではない。人と人なんです。交際して結婚に至るまでは、一歩下がって自分自身を見つめる、ということが必要になる。それができていない人が多い。相手に求める条件は高いのに…。だから、かなり厳しいことを言うときもありますよ。あくまでも“塾”ですから」
サントリー不易流行研究所(現・サントリー次世代研究所、大阪市)は平成12年7月から13年2月にかけて、昭和50年代生まれの若者106人を対象に行った調査で、「イージーアクセスな恋愛」を浮き彫りにした。
調査結果によると、簡単に恋愛関係になり、交際期間は2、3カ月と短く、別れるときも思い切りがいい-というのが、1つのパターンだった。付き合い始めも別れも早い「イージーアクセス、イージーリセット」だ。交際していてもあまりけんかもせず、本音をぶつけ合う前に別れてしまう。相手との心のつながりよりも、自分のイメージ通りの恋愛ストーリーを作り上げ、イメージに合わなければ、簡単に“リセット”する。
調査結果をまとめた書物『ロストプロセス・ジェネレーション』には、こう記されている。
「恋愛はコミュニケーションだ。だから、いつも自分のイメージ通り、という訳にはいかない。(中略)恋愛を通じて、自分の精神的な未熟さや、精神的な弱さを知ることもあるはずだ。(中略)時には悲しい結末を迎え、傷ついたりもするだろう。きっと、そんなプロセスそのものが、恋愛だ」
同研究所の狭間恵三子課長は「点と点でしか人間関係が続かない。面で付き合えないんでしょうね。コミュニケーション作りが難しく、自分が傷つくことを恐れている。恋愛のイージーアクセス、恋愛からのイージーリセットは、本当の意味での人間関係を築くことができない人が増えていることの証左だと思います」と指摘した。
(武部由香里)
■メモ 平成17年に、国立社会保障・人口問題研究所が独身者を対象に行った「出生動向調査 結婚と出産に関する全国調査」によると、異性との交際に関し、二極化している様子がうかがえる。「交際している異性はいない」と答えた男性は52.2%と過半数を占め、女性も44.7%と前回調査(14年)より4ポイント以上増加した。一方で、20代後半から30代前半の同棲(どうせい)経験者は増加。男女とも1割以上にのぼった。
(2007/05/31 08:02)
http://www.sankei.co.jp/seikatsu/seikatsu/070531/skt070531000.htm
十数年の結婚生活を経て、離婚に踏み切ってから5年。大阪市内に住む女性(38)は、こう言ってため息をつく。生活保護を受けながら、受付業務など短期間のパート勤務を繰り返しているが、「生活保護費を減らされるのは困るから、なるべく休みは多く取る。私は到底、自立なんてできない」とこぼす。一方で、こんな生活から早く抜け出したいと、再婚は常に意識している。
彼氏は、いつも“キープ”している。付き合っている男性と別れる前から、「やさしくしてくれる」という理由だけで別の男性との交際を始めてしまう。はっきりと別れを告げると、「ストーカーされたり、嫌がらせされたりして怖い」という恐怖心が先立ってしまうからだ。でも、付き合っていても相手を心の底から信頼できないし、もっといい人と巡り合えるかもしれないと思うと、結局は再婚には踏み切れない。
ふしだらという自覚はないが、数人の男性の間を渡り歩く自分に、嫌気がさすこともある。そして、相談を持ちかけることができる同性の友達は、1人もいない。
一番の悩みは、子供のこと。中学3年生の一人息子は、離婚前はとても明るかったのに、1年前から不登校になり、今は引きこもり状態だ。
母親は男性との打ち解けないままの交際を繰り返し、子供は母親以外の人間との関係を遮断して、「個」の世界に入る…。関係不全の“縮図”があった。
男性との交際が途切れたことのないこの女性とは対照的に、出会いを求めて結婚相談所を訪れる人たちも後を絶たない。ここにも関係不全の一断面がある。
「結婚までは、振ったり振られたり、断ったり断られたりするものなんですが、(その前段階の)交際にもならないで終わってしまうことが結構ある」。結婚相談所「関西ブライダル」(大阪府東大阪市)の杉山貞之代表は、こう嘆く。
これまでならば、交際していく中でお互いを知り、恋愛に発展して結婚へと進んでいった。しかし、互いをよく知る前に、次から次へと見合い相手を替えていってしまうことが少なくないという。
ある40代の男性は、2年間で数十回もお見合いをしたが、いずれも1回きりですぐに断りを入れ、全く長続きしなかった。相談所のアドバイザーは「また、断るんですか。とりあえず、交際してみよう。完璧(かんぺき)な人間なんていないんだから」と助言し続けた。そして、ようやく今年4月、結婚にこぎ着けた。
杉山さんは相談所を「結婚塾」と自称し、人との付き合い方を指導していく場だと話す。
「モノとモノとをくっつけているわけではない。人と人なんです。交際して結婚に至るまでは、一歩下がって自分自身を見つめる、ということが必要になる。それができていない人が多い。相手に求める条件は高いのに…。だから、かなり厳しいことを言うときもありますよ。あくまでも“塾”ですから」
サントリー不易流行研究所(現・サントリー次世代研究所、大阪市)は平成12年7月から13年2月にかけて、昭和50年代生まれの若者106人を対象に行った調査で、「イージーアクセスな恋愛」を浮き彫りにした。
調査結果によると、簡単に恋愛関係になり、交際期間は2、3カ月と短く、別れるときも思い切りがいい-というのが、1つのパターンだった。付き合い始めも別れも早い「イージーアクセス、イージーリセット」だ。交際していてもあまりけんかもせず、本音をぶつけ合う前に別れてしまう。相手との心のつながりよりも、自分のイメージ通りの恋愛ストーリーを作り上げ、イメージに合わなければ、簡単に“リセット”する。
調査結果をまとめた書物『ロストプロセス・ジェネレーション』には、こう記されている。
「恋愛はコミュニケーションだ。だから、いつも自分のイメージ通り、という訳にはいかない。(中略)恋愛を通じて、自分の精神的な未熟さや、精神的な弱さを知ることもあるはずだ。(中略)時には悲しい結末を迎え、傷ついたりもするだろう。きっと、そんなプロセスそのものが、恋愛だ」
同研究所の狭間恵三子課長は「点と点でしか人間関係が続かない。面で付き合えないんでしょうね。コミュニケーション作りが難しく、自分が傷つくことを恐れている。恋愛のイージーアクセス、恋愛からのイージーリセットは、本当の意味での人間関係を築くことができない人が増えていることの証左だと思います」と指摘した。
(武部由香里)
■メモ 平成17年に、国立社会保障・人口問題研究所が独身者を対象に行った「出生動向調査 結婚と出産に関する全国調査」によると、異性との交際に関し、二極化している様子がうかがえる。「交際している異性はいない」と答えた男性は52.2%と過半数を占め、女性も44.7%と前回調査(14年)より4ポイント以上増加した。一方で、20代後半から30代前半の同棲(どうせい)経験者は増加。男女とも1割以上にのぼった。
(2007/05/31 08:02)
http://www.sankei.co.jp/seikatsu/seikatsu/070531/skt070531000.htm