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『岡本かの子』(その4)

2016年02月12日 | たばこの気持ち

『雛妓』(昭和15年5月)

【377ページ】
「先生。何か踊らなくてもいいの。踊るんなら、誰か、うちで遊んでる姐さんを聘(よ)んで欲しいわ」
そういってつかつかと逸作の方へ立って行った。煙草を喫いながらわたくしと雛妓(「すうぎ」または「しゃく」と読む)との対談を食卓越しに微笑して防寒していた逸作は、こう言われて、
「このお嬢さんは、売れ残りのうちの姐さんのためにだいぶ斡旋するね」
【378ページ】
結婚から逸作の放蕩時代の清算、次の魔界の一ときが過ぎて、わたくしたちは、息も絶え絶えのところから蘇生の面持ちで立ち上がった顔を見合した。それから逸作はびびとして笑いを含みながら画作に向かう人になった。「俺は元来うつろな人間で人から充たされる性分だ。おまえは中身だけの人間で、人を充たすように出来てる。やっと判った」とその当時言った。
【384ページ】
葬列は町の中央から出て町を一巡りした。町並みの人々は、自分たちが何十年か聖人と渾名して敬愛していた旧家の長老のために家先に香炉を備えて焼香した。多摩川に沿って近頃三組合(料理屋・芸者屋・待合茶屋で作る商業組合)まで発達した東京近郊のF----町は見物人の中に脂粉の女も混じって、一時祭りのような観を呈した。葬列は町外れへ出て、川に架かった長橋を眺め渡される堤の地点で、ちょっと棺輿を停めた。
【417ページ】
わたくしは、これを読んで涙を流しながら、何か怒りに堪えないものがあった。わたくしは胸の中で叫んだ。「意気地なしの小娘。よし、おまえの若さは貰った。わたくしはこれを使って、ついにおまえをわたしの娘にし得なかった人生の何物かに向かって闘い挑むだろう。おまえは分限に応じて平凡に生きよ」

[Ken] ここで一番印象が深かったのは、「東京近郊のF」のです。岡本かの子さんの生家は、現在の川崎市高津区二子、多摩川沿い一帯の大地主でした。小学校も溝の口小学校で学び、多摩川近くの公園には、岡本太郎作の小さな「かな子像」が建っています。私は22歳から33歳まで、田園都市線「二子新地駅」そばの独身寮に住んでおり、本作の中で描かれる町の情景と重って、とても懐かしい気持ちになりました。
また、文中の「俺は元来うつろな人間で人から充たされる性分だ。おまえは中身だけの人間で、人を充たすように出来てる。やっと判った」は、岡本一平・かの子夫婦の関係を見事に言い当てていると思いました。(つづく)
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猿ぐつわをされた犬!

2016年02月12日 | O60→70(オーバー70歳)
▼昨日は、29回目の入籍記念日でした。建国記念日なら絶対忘れないたろうと、神奈川県川崎市宮前区役所で手続きをしました。ちなみに、結婚式は翌月の3月5日、今はもうないですが都内の葵会館でしたね。4年間、鷺沼の社宅で暮らしてから栃木県で23年、去年の春、神奈川県横浜市に越してきました。いろいろあった年月の流れも、今となっては「夢の如し」ですね。
▼ところで、横浜市瀬谷区内のスーパーマーケットFUJIの入口で、ドナルドダックみたいな犬を見ました。こんな犬、これまで一度も見たことがありませんでした。そこで、近寄ってスマホで写真を撮っていたら、「うゎん、ウヮン、うゎん、ウヮン」と激しく吠えられました。なるほど、これじゃ飼い主さんに猿ぐつわされるのも当然かな、と納得しました。
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