「バカタレ」と職人

「うちのジイは、『バカタレ』という言葉を除いたら、ほとんど話として成立しなかったですよ」--今日、お葬式を終えて、火葬場へ向う車の中でのご遺族の話である。

 今日の故人(84歳)は、口の悪さでは天下一品、でも、心のまっ正直さも鹿骨一だと思う。

 法事のあと席で、何度一緒に呑んだことだろう。たしかに「バカタレ」が口癖だった。
「なに言ってるんだ、ばかたれ」
「そんなことをしてみろ、ばかたれ、ただじゃおかなねぇぞ」
「ばかたれ、そんなこと知らないのか」

 あははは、もうほとんど、接尾辞や接頭語の類である。私は慣れるまで、15分かかった覚えがある。。なんの悪気もないのだ。悪気がないどころではなく、いつも周りに笑いを振りまいていた。一緒に呑んでいて、これほど楽しい人を、私は10人は知らない。その一人だった。

 職人だった。お囃子の名人で、地元の子供たちにもその技を継承していた。そして、無類の酒好きだった。いいオヤジさんだった。

 私は「ばかたれ」を、このオヤジさんのように、かーるく使うことはできないけれど、だれか継承してくれないかと思う。

 いづれ、またあの世で楽しいお酒を酌み交わしたいと、心底思う。
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