ねむたいむ

演劇・朗読 ゆるやかで懐かしい時間 

なんだかんだ言いながらも読んでしまう村上春樹

2013-05-19 | Weblog
「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の旅」を読む。
村上春樹の小説の魅力は、ストーリーを説明しても伝えられない。

そこここに出てくる音楽は知らないものが多いし、主人公が行く恵比須や広尾の洒落たバーやカフェにも興味がないけど、そんなことは問題じゃないのだ。
主人公はみんな同じような男で、同じようなタイプの女を好きになり、不器用だとか社会に適合できないと言いつつも、ちゃんと恋を成就させ、ちゃんと立派な仕事も持っている。嘘くさい。でも、そんなこともなんだというのだろう。

村上春樹の魅力は、登場人物が作中で語る「ありえないけど信じてしまえる」不思議な挿話にあるのだと、私は思う。
村上春樹の手にかかると、途方もないファンタジーも、ありうることに思えてくる。
「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の旅」でも、「ある種の夢は、たぶん本当の現実よりもずっとリアルで強固なものなのよ」という言葉があり、登場人物の「思い」が、現実世界に直接作用してくる場面が出てくる。あ、これこれ、と思う。来た来たと、思う。ここが好きなんだと納得する。

癖のある文体は、読んでいるとすぐに村上春樹だとわかる。
いつもの男。いつもの女。いつもの物語。ああ、まただと思いながら安心する。
気取ってるとかわざとらしいとか言われ続けている比喩や警句も、
「ヘルシンキの空に浮かぶ、使い古された軽石のような半分の月」とくれば、うーんさすがと思ってしまう。ヘルシンキの白夜なんて知らないくせに。

………………


物語が現実に作用する。物語の力で現実を変えることが出来る。
とほうもないことをありうることに思わせる物語の力。
子供の時から、私はいつも物語に救われてきた。
物語の世界は、私にとって現実逃避ではなく、
現実を乗り切るために必要なものなのだ。





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星みずく公演「ガランスの夜」終了です!

2013-05-14 | Weblog
星みずくプロデュースVol.5「ガランスの夜」、無事終了しました。

…………………

ライブハウスでの公演ということもあって、はじめておしゃべりからスタートした今回。
長々と前説をするなんて私に出来るか?と思っていたけど、かえってそれが緊張の緩和になったような気がする。とても自由な気持ちで詩の世界に入ることが出来た。
詩から入って、次に二人芝居、最後は大正時代の詩人であり画家である村山槐多の評伝と、今回は一回の公演としては欲張った構成だったかもしれない。

槐多伝は、新しい形の二人芝居に仕上がったと思う。
私が槐多の生きてきた道や時代背景、私なりの解釈で書かれた作品を紹介し、その語りをバックに、酒井君が村山槐多本人として登場し演じ、槐多本人としての作品紹介をすることで、客観性と主観性をクロスさせてみたのだ。作家としての私、読み手としての私、演者としての酒井君、それぞれを生かした酒井君の演出だった。

今回のタイトル、「ガランスの夜」のガランスは村山槐多が好きだった絵具の色で、フランス語で茜色を指す。ガランスは血の色だ。槐多の暗い情念。もっと生きたいという気持ち。槐多の心を知るために、酒井君は、槐多の全集を読み、評伝を読み、絵の模写もし、槐多と同じように紙くずに埋もれた床で寝て、槐多の気持ちを体感しようとしたという。役者魂だ。その熱演と存在感に圧倒されたというお客さんも多かった。

役者を仕事とされているお客さんの一人は、作家が自分の言葉を発するということの強さが羨ましいと言ってくださった。ことば=自分の違和感の無さ。星みずくで目指したいことの一つで、とてもうれしかった。

まだまだ力不足で課題の残る公演だったけど、
また次に向かっての力をもらえたうれしい公演でもあった。

……………………………

共演の酒井君、ピアノを弾いてくれたみーちゃん、感謝です。
遠く東京から来てくださったお客様、いつも来てくださる方、久しぶりの方、初めての方、たくさんのお客様に観ていただけました。本当にありがとうございました。
過分なお褒めの言葉もいただけて、うれしい限りです。
そして今回は1ステージだけの公演だったため、時間の調整がつかず残念がってくださった方々、お気持ちだけでもとても励みになりました。ありがとうございました。

(写真は集まってくれた元りゃんめんにゅーろんのメンバーたち。自分のことは棚にあげるけど、言わせてもらえば、みんなおっさんになりました(笑))











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