4月の公演に使うつもりで、古道具屋でかばんを買った。昭和初期のボストンバッグだ。がっちりとした茶色の皮製で、鍵もついている。
「ポプコーンの降る街」で使ったのは、祖母が若い頃に使っていたトランクだった。黒皮の古びたトランクは、内側が花模様の布張りになっていて、女性用なのでポプコーンのおじいさんが持つにしては少し小さかった。マリーローランサンが、手紙を入れたトランクをベッドの下に置いていて、眠る前にそれを読むというのを何かで読んでから、私もその祖母のトランクに手紙を入れていた。「時間的になのか空間的になのか知らないが、鞄は人が遠くに行くために作られたものに違いない」と書いてあったのは、クラフト・エヴィング商会の「アナ・トレントの鞄」だ。祖母のトランクは、手紙とともに私を思い出の時間のなかに連れて行ってくれた。チューリップ模様の銘仙の着物を着て、片方の手に黒いトランクを持ち、もう片方の手で日傘を差した若い日の祖母が、振り返り、にっこりと笑っている写真を、昔見たような気がしたが、ただ想像しただけなのかもしれない。
4月の「森陰アパートメント」では、古いかばんが物語の世界に誘う役割をしている。旅のお供を終えた古いかばんが、芝居のなかでまた活躍する。定年退職を迎えたお父さんが再就職するような感じだろうか。ごくろうさまと言いたい。
人はほころびをつくろいながら生きていく。でも、ほころびを美しいものとして、それを楽しむという生き方があってもいい。古さも擦れも穴も傷もつくろわずにそれを楽しむ。そういう生き方をしている人を、私は素敵だと思う。
「ポプコーンの降る街」で使ったのは、祖母が若い頃に使っていたトランクだった。黒皮の古びたトランクは、内側が花模様の布張りになっていて、女性用なのでポプコーンのおじいさんが持つにしては少し小さかった。マリーローランサンが、手紙を入れたトランクをベッドの下に置いていて、眠る前にそれを読むというのを何かで読んでから、私もその祖母のトランクに手紙を入れていた。「時間的になのか空間的になのか知らないが、鞄は人が遠くに行くために作られたものに違いない」と書いてあったのは、クラフト・エヴィング商会の「アナ・トレントの鞄」だ。祖母のトランクは、手紙とともに私を思い出の時間のなかに連れて行ってくれた。チューリップ模様の銘仙の着物を着て、片方の手に黒いトランクを持ち、もう片方の手で日傘を差した若い日の祖母が、振り返り、にっこりと笑っている写真を、昔見たような気がしたが、ただ想像しただけなのかもしれない。
4月の「森陰アパートメント」では、古いかばんが物語の世界に誘う役割をしている。旅のお供を終えた古いかばんが、芝居のなかでまた活躍する。定年退職を迎えたお父さんが再就職するような感じだろうか。ごくろうさまと言いたい。
人はほころびをつくろいながら生きていく。でも、ほころびを美しいものとして、それを楽しむという生き方があってもいい。古さも擦れも穴も傷もつくろわずにそれを楽しむ。そういう生き方をしている人を、私は素敵だと思う。