ねむたいむ

演劇・朗読 ゆるやかで懐かしい時間 

小さいおうち

2010-07-29 | Weblog
昭和のはじめの雰囲気のあるものを読みたくなって、本屋で宮部みゆきの「小暮写真館」と、中島京子の「小さいおうち」を手にとって迷ったあげく、ページ数が少なくて読みやすそうなほうを買ってきた。

「小さいおうち」は、赤い屋根の小さな家に住み込みで働いていた女中、タキさんの思い出の手記という形で進んでいく。
昭和のはじめの豊かだった時代から戦前戦中の不穏な時代の世相や風俗を散りばめながら、タキさんの目を通して細々とした家のなかの出来事を中心に語られるその手記は、最終章を残し、中途半端に終わる。
そして、ここだけはタキさんの甥の息子の視点で語られる最終章で、その手記に隠されていた事実が明かされる。読み終わった後、ああ、あの文章は本当はそういう意味だったのかとか、あの登場人物はこのための布石かとか、読みながら不自然に感じていたことも、なぜと思えたことも、すべて、作者が周到に計算していたことだとわかる。
さすがは直木賞。あいまいなところも、もやもやしたところもなく、ちゃんとわかりやすく感動に導いてくれる本だった。

隠された恋愛事件の、もうひとつ向こうに、隠されていた秘密。目立たず生きて、目立たず死んでいったひとりの女性の、死ぬまで誰にも言えなかったこと。
今ならば、堂々と口にすることが出来ることも、あの時代は、出来なかったのだ。
ほんの60年ほど前のことなのに。
読んだ後、タキさん、奥さん、板倉さん、それぞれの気持ちを考えると、じんわりと切ない。

うん、せつなさの源だけは、いつの時代もかわらない。













コメント
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