ねむたいむ

演劇・朗読 ゆるやかで懐かしい時間 

アンティーク着物と木琴と通崎睦美さん

2016-06-01 | Weblog
以前、よく東寺の市に通っていた。
豆皿やガラスのコップ、小さな木の置物、端切れ…。
古いものには新しいものにはない魅力があって、手軽な値段のものを買っては楽しんでいた。
何年位前のことだろうかと思ってブログをさかのぼってみたら、2005年の記事に、骨董市で買ったモスリンの帯のことなんかを書いている。

「天使突抜一丁目」という本に出会ったのもそのころだ。
素敵なアンティーク着物を独自のセンスで着こなす通崎睦美さんの写真に惹かれて購入したのだと思う。とても自由な感じのする女の子なのだ。
題名の天使突抜一丁目は、実際に通崎さんが住んでいる場所の名前だそうだ。
京都には素敵な名前の場所が多いけど、これはまた飛び切り素敵で風変わりな名前だ。

この3年ほど、私はヤザキタケシさんのダンス教室に通っている。
私が習っているのはダンスではなくヨガなのだけど、普通のヨガ教室とちがって、最後に少しだけヤザキ流のダンスを伝授してもらえるのが楽しみなのだ。すごく贅沢。
そのヤザキさんの教室に、時間違いで、あの天使突抜一丁目の作者、通崎さんが通っている。
「アンティーク着物の通崎さん?」と私。「いや、マリンバ奏者の通崎さん」とヤザキさん。
そうそう、通崎さんは、マリンバ奏者でもあるのだ。
同じ教室に通っているなんて、なんて奇遇。私はあつかましくも昔買った本にサインしてもらった。
そしてつい二日前、「木琴デイズ」という通崎さんが企画するコンサートにもおじゃましてきた。

音楽は門外漢の私。でも、そのコンサートは本当に素敵だった。
京都文化博物館の別館ホールのレトロな空間に、マリンバと木琴の音色がとてもマッチしていた。
マリンバと木琴。似ているようで聴き比べると違う。

以前、東京の劇団大樹さんが、私の「森蔭アパートメント」という作品を上演された時、マリンバの生演奏を入れてくださったことがあった。あの作品に木琴はとても似合うと思っていた。あの時のマリンバは、私の中では木琴とイコールだった。
大正から昭和にかけて人気だった木琴は、より音域の広い表現が可能なマリンバの登場によって、今では専門的に弾く演奏家が少なくなっているそうだ。

木琴デイズは、マリンバと、昭和の木琴奏者・平岡養一氏から通崎さんが引き継いたという木琴、それに加えてもっと古い小さな木琴、さらにはアフリカのバラフォンという楽器も登場し、それらを聴き比べると言う趣旨のものだった。
大きくて立派なマリンバは打楽器のイメージを覆す深い響きを持っていた。楽器の前で右から左へと演奏する奏者の動きはまるでダンスのようだ。
アフリカのパラフォンの音色は原始的で前衛的。ヤザキさんのコンテンポラリーダンスと組み合わせたら素敵なステージになるんじゃないだろうかと思ったりした。

どの音も素敵だったけど、私は小さな古い木琴の音色が心に残った。
マリンバに比べたら小さい小さいその木琴を、通崎さんがまるで子供が楽しんで演奏しているように弾いている。見ているうちに驚いたことに涙があふれてきた。
小さな世界の小さな出来事しか書けない、今の時代に追いつけない、そんな自分とその古い木琴をどこかで重ねあわせていたのかもしれない。

アンティーク着物を自由に個性で着こなす通崎さんは、古い木琴の音色も素敵に聴かせてくれる。
アンテーク着物への愛も、木琴への愛も、根っこは同じなんだ。

写真はコンサートの後で写させてもらった小さな木琴。
かわいいーと、お客さんたちのつぶやきも聞こえていた。