ねむたいむ

演劇・朗読 ゆるやかで懐かしい時間 

赤い皮の手帳

2006-02-09 | Weblog
好きなのは柔らかな皮だ。小学校の一年生の時に、赤い皮のペンケースを買ってもらった。それが気に入って、ファスナーが壊れて使いものならなくなるまで10年以上も使っていた。戯曲で賞金を手にしたとき、アニエスベーの皮のコートが欲しいと思った。羊皮のSサイズの20万もする皮のコート。店員さんが宝物を扱うような手つきで着せてくれた。なんて柔らかな皮!それにぴったり。でもやはり20万のコートは分不相応だと思ってやめた。かわりにBindexの赤い皮の手帳を買った。B5版のルーズリーフ式のものだ。以後、その手帳に、思いついたことを書きつけたり、ファイルしたりしている。作品の構想、好きな本や映画のこと、印象に残ったことばの断片、想い出の写真やチケット…。時々ぱらぱらとページをめくる。書きつけたまま忘れていた1行から、新しい作品が生まれることがある。しなやかな皮の手帳の手触りは、子供の頃好きだったペンケースを思い出させる。
ところで、買うのをやめた皮のコート。あのあと、偶然古着屋で同じアニエスベーの小さなサイズの皮のジャケットをみつけて格安で買った。でも、しっくりこなくて、あまり着ていない。いまだに欲しかったコートのことを、思い続けている。
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迷宮ごっこ

2006-02-06 | Weblog
よく迷子になる。単に方向感覚がないだけなのだが、知らないうちに知らない場所に迷いこんでいる。詩人萩原朔太郎にもそういうことがよくあったようで、彼はその迷子の時間を「風変わりな旅行」と名づけて楽しんでいたようだ。「猫町」は、私の好きな作品のひとつだ。いつもと同じように街を歩いているつもりなのに、突然、不思議な場所が出現する。
稽古場のある放出の街。駅前の商店街をひとつ横にそれる。と、知らない場所だ。放置された洋風の会館。シャッターの下りたアーケード。剥げ落ちた看板の文字。千切れたポスター。そんな道の奥に、古ぼけたアパートがある。鉄の階段は錆びついて、壁には蔦が絡まっている。窓のひとつががらりと開いて、住人が顔を覗かせる。ふと見上げるとそれは確かに知っている誰かだ。「パセリの木」の草子さん?それとも「絵葉書の場所」の菜摘さん?不思議なデジャブ。
「猫町」は、この次にはただの町にかわっているのかもしれない。
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